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オーケーとその他スーパーたち - 14店舗のフィールドワークと500人のアンケートでわかったシンプルな結論

「ショッピング・イズ・エンターテイメント」と吹聴する楽天的な人々がいるならば、私は「スーパー・イズ・エンターテイメント」とくぐもった声で叫ぶだろう。

私が住む板橋区の辺境はスーパーの激戦区だ。数年前に西友がオープンしたとき、街全体が屋外広告に染まった。

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自転車で10分以内の距離に、大きなスーパーだけでも13店舗もあるからだ。オーケー、イオン、イトーヨーカドー、サミット、ヨークマート、ライフ、三徳、ドン・キホーテ、ダイエー、ベルクス、東急ストア、東武ストアに西友。これほどのスーパーの雄が東京と埼玉の狭間にひしめき、胃袋の天下を争っている。

スーパーは万単位の商品が並ぶひとつのプラットフォームだから、どの店も大差はないだろうと思うかもしれない。果たして、どの店も同じだろうか。私はスーパーで働いたことも、関連した仕事をしたこともない。ただのスーパーに興じる一消費者として、これから検証を進めていきたい。

1.店の哲学​

スーパーには哲学がある。哲学と行動の一貫性がスーパーを特徴づけている。

驚安の殿堂「ドン・キホーテ」

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驚安の殿堂「ドン・キホーテ」は、売り場のことを「買い場」と呼んでいる。店を「お客さまからすれば買う場所」と定義し、「ワクワク・ドキドキ」を引きだすのだという。この哲学に基づき、ジャングルのように入り組んだ通路、天井近くまで商品が積みあげられた「圧縮陳列」、蛍光色のPOPが展開されている。

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Webサイト「いま、ドン・キホーテが絶対に忘れたくないもの。」には、

山盛りで多彩な商品群。
ちょっとヘンだけど、妙に印象に残るPOP。
嬉しい驚きを提供する「驚安」プライス。
ドン・キホーテがあえてこういうお店を作っているのは、
その方が「ワクワク・ドキドキしてもらえる」と、確信しているからです。

と主張する。

1978年に東京都杉並区で「泥棒市場」としてスタートした店が、いまや店舗数800超、売上高1兆円超に成長したのは驚くほかない。

クラウドソーシングを使い独自にドン・キホーテの印象をアンケート調査したところ、

「掘り出しものを探しているようで楽しい」
「賞味期限切れ間近の大量仕入れ商品が激安で購入できる」
「他のスーパーでは見ない珍しい商品が多い」
「雑多にある感じが飽きない」
「店内のPOPなど楽しめる雰囲気づくりが好き」
「クーポン値引きがありお得感がある」

などの声が寄せられた。宝物さがしのような感覚で、掘り出しものや安いものを発掘できる楽しさが評価されているようだ。

「高品質・Everyday Low Price」オーケー

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オーケーといえば、TBSラジオの生活情報番組「ジェーン・スー 生活は踊る」が主催した「スーパー総選挙」でなんと3連覇したスーパーだ。売上高は4,300億円を超え、スーパーマーケット大手のなかでも最も高い成長力と収益力を誇る。

オーケーの哲学は、「高品質・Everyday Low Price」。「Everyday Low Price」だから特売日はない。そのかわり、チラシや特売日に合わせて企画する時間やコストなどの販促費用を徹底的におさえ、価格の値下げに転化している。「Everyday Low Price」を掲げているのに折込チラシをつくっているスーパーが多々とあるが、本来は販促とトレードオフの関係にある。それでも、販促しなければなりたたない多くのスーパーをよそ目に、オーケーは愚直に低価格を徹底している。競合店よりも安く売るが、安くするメーカーにとっては大量販売が期待できる。類似商品は一品にしぼり、特徴のあるこだわり品はしっかりと並べる。

Webサイト「オーケーが大切にしていること」に、その考えが明瞭にしめされている。要約すると以下のとおりだ。

・どのスーパーにも売られているナショナルブランド商品は、地域一番の値下げをする。
・生鮮食品は先ずは高品質を優先し、そのうえで安さを訴求する。
・食品添加物を使用した商品は原則として取り扱わない。

シンプルで明瞭だ。

特徴的なのは、「オネスト(正直)カード」。

「長雨の影響で、レタスの品質が普段に比べ悪く、値段も高騰しています。暫くの間、他の商品で代替されることをお薦めします。」

などといったPOPが貼られ、伝えたら売れなくなる情報まで正直に公開している。

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クラウドソーシングを使いオーケーの印象を尋ねたアンケート結果では、

「とにかく安い。調味料、お菓子、お酒あたりは他のスーパーで買う気にならない」
「安いし、無添加食品なども扱っているので安心感がある」
「価格が全般に安く、特にお惣菜類が作り立てなのにお弁当が200円からと激安」
「地域にある他のスーパーより圧倒的に安いから」
「とにかく安いしくて新鮮、まとめ買いしに行く」
「安くて品揃えも良く量もたくさんあって、珍しい物や掘り出し物もあって楽しい」

などの声が寄せられた。共通して価格の安さが評価されているようだ。
オーケーの魅力については、このあとも折々に触れたい。

「提案型売場づくり」ヤオコー

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ヤオコーは、埼玉県発祥のスーパーだ。「スーパー総選挙」でも、過去に2位が2回、3位が1回に入るほどの人気がある。売上高は4,500億円を超す東証一部の上場企業だ。

ヤオコーは「食生活提案型スーパーマーケット」を掲げている。食生活提案型とは、新鮮でおいしい食品を豊富に品揃えし、店ごとに異なるニーズやライフスタイルに合わせ、夕食のおかずに代表される食事に関する提案をする店づくりだ。ヤオコーの店内に入ると、新鮮な果物や野菜が美しくならび、店内で調理されたおいしそうなデパ地下なみの惣菜、ベーカリーの種類が豊富だ。

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クラウドソーシングを使いヤオコーの印象を尋ねたアンケート結果では、

「生鮮食品、野菜や果物が新鮮でおいしい」
「地元でとれた新鮮な野菜が購入できる」
「PB商品が充実している」
「お惣菜が固定されてないメニューなので、新しい発見がある」
「お惣菜も美味しいし、果物の糖度や説明が書いてあってわかりやすい」
「普通のスーパーより若干割高ですが新鮮で美味しい魚が特におススメ」

などの声が寄せられた。提案型売り場づくりの魅力が消費者に伝わっているようだ。

哲学の違いが店に反映される

哲学の違いは店づくりに強く反映される。結果として消費者の印象に違いがうまれる。どのスーパーも同じではないことがわかるだろう。

2.価格と品質のバランス

まずは価格調査結果を見てもらいたい。スーパー激戦区である板橋区の辺境に住んでいる地の利をいかし、14店舗のスーパーに足を運んで価格調査をおこなった。ヤオコーは自転車で荒川を渡り、戸田市まで行って調べた。カップヌードル、赤いきつね、じゃがいも、玉ねぎ、チョコレート(ナショナルブランドの板チョコ)、サッポロ一番(塩らーめん5個パック)、バーモントカレー、北海道シチューの8品の価格を調べ、その平均価格で順位づけしたのが下の図だ。

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1位はオーケーとヨークマート

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オーケーは地域一番の安値を掲げているだけあり、調査結果でも1位となった。オーケー社長の二宮涼太郎氏のインタビューによると、競合店のチラシ、月間、週間、曜日市などの特売を徹底的に調査し、その価格が一時的なものか一定期間続くのかをチェックしながら一品一品きめ細かく値付けをする。それでも日替わりで下をくぐられることがあるので、そこは「競合店対抗値下げ」をやる。メーカーとの価格交渉も、一品一品の単品ごとに見積もりを出してもらい、一番安いところから買っているようだ。利益のために高単価商品を増やすという考えはなく、利益の源泉は、あくまで単品で量を売ることだと語る。時間がたてば消費者が価格に慣れてしまい、競合店もその価格に合わせてくる。売上が落ちついてきたら、その商品価格を価格や品質の面からもう一度みなおす。もし商品自体に今後の伸びが期待できないと判断すれば入れ替えも検討する。このような哲学と行動の徹底が、地域一番の安値を維持しているのだ。

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オーケーの安さに負けていないのがヨークマートだ。ヨークマートは、南関東に100店舗ほど展開するスーパーだ。2020年にイトーヨーカドー食品館などセブン&アイ傘下の首都圏スーパーをヨークに集約することが発表されている。
ヨークマートを運営するヨークは、同じセブン&アイグループの東北で圧倒的な存在感をしめすヨークベニマルとは別会社だ。ただし、ヨーク社長の大竹正人氏はヨークベニマル出身。ベニマルの哲学がヨークマートに反映されているのではないかと想像する。

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ヨークベニマルは福島発祥のスーパーで、東北新幹線の車窓からよく目にするハトのマークでおなじみだ。東北に200店以上出店し、売上高は4,300億円超を誇る。

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ロゴマークは、イトーヨーカドーやヨークと色ちがいだ。

ヨークベニマルを創業した大高善雄は、

「一人のお客さまは10軒20軒の代表である。野越え山越えはるばるお店においで下さるお客さまに誠実の限りを尽くせ。 お客さまへの奉仕の精神が商売繁盛につながり、儲けというのは奉仕の結果であって商売の目的そのものではない。商売はお客さまのためにある」

と語る。

その創業精神に基づき、「ヨークベニマル12章」を掲げている。

・経費を節約。安値を打ち出せ。これが最大のサービスなり。
・オトリ商法ではお客さまは釣れない。全商品が平均して安いこと。
・商売はお客さまのためにある。まず、お客さまの利益を考えよ。
・おいしいことが絶対の条件。品質と鮮度がお店の生命である。

など、価格と品質の大切さを説いている。

ヨークベニマルの特徴は、本部ではなく店舗主導型のオペレーションだ。ベニマルのパートタイマー比率は84.7%と、同業他社の64.6%を大きく上回り、パートも加わった全員参加型の店舗運営を強みとしている。店舗活動の多くは、単調な作業を確実に実行することが求められる。単調な作業も、改善活動をつうじて仕事の意味を理解し、工夫する面白さを経験することで、硬直化することなく持続的に改善していくオペレーション力が磨かれる。日々の競合店の動きや天候の変化に対応した売り場づくりを安定的に生みだす組織能力こそがヨークベニマルの強みであり、その強みがヨークマートにも反映されているのではないだろうか。

クラウドソーシングを使いヨークマートの印象を尋ねたアンケート結果では、

「塩分ほぼナシのセブンのPBの黒酢が購入できる」
「白菜がみなカット売りされていますが、ヨークマートでは週1で小玉白菜を売っているので、それが目的」
「魚や肉の質が他のスーパーより新鮮に感じる」
「食材が新鮮で豊富に揃っていること、商品数が多く新商品もすぐに入荷される」

などの声が寄せられた。価格の評価というよりも、新鮮な食材やきめ細かな消費者のニーズに対応していることが評価されているようだ。

オーケーに最も距離が近いスーパーはヨークマートだ。ヨークマートは、店舗主導型の組織能力でオーケーに対抗し、価格でも負けないねばり強さを発揮しているのかもしれない。

西友は意外と安くない

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西友は、オーケーと同じく「Everyday Low Price」を掲げている。店舗内の横断幕にも、近くの競合店を挙げ、他店のチラシと同額保証することを約束している。「価格真っ向勝負!」のコピーが目立つように配置されている。ところが、価格調査では6位の結果に終わった。競合店として挙げている店にも価格で負けている。

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2002年にウォルマートと資本提携し、2005年に子会社となった西友は、ウォルマート流のビジネスモデルである「Everyday Low Price」と「Everyday Low Cost」を追求してきた。しかし、2020年12月に10年以上持ち続けた西友株式のうち、85%を売却することになった。20%はネットスーパー事業の提携先である楽天が、65%は米投資ファンドのKKR(コールバーグ・クラビス・ロバーツ)が持つことになる。

「Everyday Low Price」を哲学に掲げていても、「Everyday Low Cost」を意識しなければならない。利益を保つために「Low Price」を徹底できなかったのだろうか。西友の店内にはいると、夕方は生鮮食品の欠品がめだつ。これは、「Low Cost」を意識して人員を削った結果、補充対応ができていないことをしめしているのかもしれない。

クラウドソーシングを使い西友の印象を尋ねたアンケート結果では、

「24時間営業しているので、助かっています」
「PBのみなさまのお墨付きシリーズのクオリティが高い」
「プライベートブランドを中心に全体的に安価」
「生鮮品の安さと、プライベートブランドの品質の高さが好きな理由」
「どの商品も安く買いやすい。お弁当類も安いので助かる」
「惣菜や弁当が安い。他のスーパーと比べても値段が安いだけでなく、種類も多い」
「食材やお惣菜がとても安く、尚かつ種類も豊富」

などの声が寄せられた。価格調査結果と違い、惣菜や食材の安さ、プライベートブランドが評価されている。私が価格調査した蓮根坂下店と赤羽店はスーパー激戦区にあるから、競合店と比べて価格が見劣りしているだけなのかもしれない。

最下位は東武ストア、次にダイエー

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東武ストアの平均価格は14店舗中最下位だが、折込チラシで見る頻度はNo.1だ。折込チラシにかけるコストが価格に反映されているのかもしれない。折込チラシの反響はスーパーだと2%程度といわれている。費用対効果が合うのか不明だが、価格勝負はあきらめ、チラシによる想起率を高め、集客を重視する戦略が図られているのだろう。

クラウドソーシングを使い東武ストアの印象を尋ねたアンケート結果では、

「子供の頃から地元にあるので、とても身近なスーパーだから」

の声のみ寄せられた。電鉄系スーパーは、身近であることが強みなのかもしれない。

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ダイエーは、1957年創業以来「よい品をどんどん安く、より豊かな社会を」を掲げている。日経(2021.1.25)の新聞広告にも15段の全面広告を掲載し、「安心を未来へ届けたい」のメッセージを発信した。

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そのメッセージが抽象的すぎるため、下部に「店長への直行便」という消費者から届いた11のコメントが並べられている。そのコメントには、安さの評価は入ってなかった。「よい品をどんどん安く」を掲げながら、価格調査では下から二番目に位置している。

クラウドソーシングを使いダイエーの印象を尋ねたアンケート結果では、

「トップバリュの商品で好きな商品があり、買いに行くのを楽しみにしている」
「近所にあって行きやすいから。地域密着型だから」
「小さい頃から親しみがありよく利用している」
「惣菜の種類が豊富で美味しいものが揃っている」
「通路が広くて混雑しておらず買い物がしやすい」

などの声が寄せられた。価格の評価は低くても、身近な存在で、買い物がしやすいことが評価されているようだ。

哲学の違いが価格に反映される

オーケーの二宮社長は、価格と品質のバランスが重要だとインタビューでのべている。単に低価格のものを販売するのではなく、おいしくて高品質な商品を、お客さまに安く提供することを追求する。いくら低価格でも、おいしくないものは売場に置かず、お客さまにお得感を感じてもらえる価格設定ができるようにしていると語る。トレードオフで特売もポイントもおこなわない。同じ「Everyday Low Price」の哲学を掲げているオーケーと西友を比べると、哲学と行動の徹底度の差が価格に反映されているのがわかる。
ヨークマートは、店舗主導型の柔軟な組織能力が、オーケーに負けない価格に反映されているのではないかと想像する。
価格と品質のバランスは、スーパーの哲学と行動の一貫性により差が生じる。どのスーパーも同じではないことがわかるだろう。

3.品揃えと棚割り

価格の値付けのほかに、品揃えと棚割りにも触れておきたい。北海道でドラッグストアチェーンを運営するサツドラホールディングス社長の富山浩樹氏がnoteの記事「なぜお客さんは『この店は品揃えが悪い』と言うか」のなかで品揃えと棚割りについてわかりやすく解説している。
「棚割」は商品をどこの棚のどこの場所にどれぐらいの割合(フェイシング数と陳列量)で置くのかというもの。「品揃え」はその前提でどの商品をどのお店に取り扱うのかというものだ。
富山氏は、その店ならではの品揃えは5%未満の違いにすぎないと説く。誰もが(8割の人が)欲しがる商品がいつも最適化して品揃えされるほうが95%を占める。消費者の全ての要望に答えていくと棚と売場面積がいくらあっても足りない。「棚割」の前に「品揃え」のABCパターンの最適化を先に注力していきましょうと主張する。

スーパーによって品揃えにどのような違いがあるのか、近所のスーパー13店舗で賞味期限の長い乾麺(パック)と短い牛乳に絞り調査してみた。

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圧倒的な品揃えのイオン

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イオンが圧倒的に多いのは、都内随一の集客と売上を誇る大きなショッピングモールだからだ。映画館が併設され、板橋区のシンボル的な存在になっている。賞味期限の短い牛乳も、他のスーパーの2倍ほど多い品揃えだ。

クラウドソーシングを使いイオンの印象を尋ねたアンケート結果では、

「1箇所で食料品から日用品までなんでも揃っているところとフードコートやゲームコーナーなど子連れでも利用しやすい」
「イオンカード会員になれば、感謝デーなどがあり割引がある」
「プライベートブランドが安いのに味もおいしく安心感がある」
「プライベートブランドが安くて品質が良い」
「毎週火曜日の『火曜市』がとてもお得で、必ず行きます」
「品揃えが豊富で、ポイントもつく。5%OFFの日がお得」
「野菜やお肉の鮮度が良くて品揃えも他のスーパーに比べて豊富」

などの声が寄せられた。品揃えやプライベートブランドの評判が高く、特売日のお得感を感じているようだ。

創業者・岡田卓也の実姉でイオンを発展させた陰の功労者である小嶋千鶴子氏は、「モノの見方・考え方の原則」でこうのべている。

一つ目、物事を長期的に考えるのと短期的に考えるのでは、その結論が違うときがある。その場合は、長期的に考えてよしとする。
二つ目、物事を根元的に考えるのと表面的に考えるのでは、結論が違うときがある。その場合は、根元的に考えてよしとする。
三つ目、物事を多面的に考えるのと一面的に考えるのでは、結論が違うときがある。その場合は、多面的に考えてよしとする。

この三原則は、思想家・安岡正篤から学んだとされている。

小嶋氏は、経営規模が一定の大きさになると、今日明日のニーズよりも、3年後、5年後のニーズが重要になる。ニーズが変化したときに、その準備がととのっているのか、その兼ね合いがむずかしいと語る。今いいことが、将来にわたっていいという保証はない。長期的な視野でものごとを考えられる人間を会社で育てていくための教育が必要なのだと。訓練と教育は異なることを注意しなければならない。訓練は、方法によっては3〜5ヶ月でできる。しかし、教育には時間がかかる。押しつけても、個々人がその気にならなければ効果がない。自発性を育む教育的風土づくりが重要だと説く。

その哲学が品揃えに反映されているのかは定かではないが、他のスーパーを圧倒するこの品揃えは、地域のシンボル的存在として長期的・根元的・多面的に考えて結論した姿なのかもしれない。

オーケーも品揃えが豊富

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オーケーは、競合店よりも安く売るが、加工食品のアイテム数を通常のスーパーの6割に絞るといわれている。しかし、乾麺と牛乳に限れば、むしろ多い部類に属している。オーケー社長の二宮氏は、類似商品は必ず一本に絞る、特徴のあるこだわり品は、品揃えとして必要なので意識して置くようにしているとのべている。圧倒的に売れる商品の棚割りは広く割き、こだわり品も並べることで選ぶ楽しさを提供している。

ヨークマートは品揃えを絞る

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ヨークマートは乾麺の種類が他のスーパーと比べて半分ほど少ない。だが、サッポロ一番の価格は全14店舗中もっとも安い。トレードオフで乾麺の種類をしぼり、サッポロ一番を量で売る基本を徹底しているのだろう。基本に忠実な組織能力が、ヨークマートの強みといえるかもしれない。

ドンキは生モノに弱い

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ドン・キホーテは牛乳の種類が他のスーパーと比べて三分の一程度と極端に少ない。生モノにはワクワク・ドキドキを提供するつもりはないようだ。賞味期限が近い商品を激安で販売する勇気はあっても、牛乳については保守的なようだ。

東武ストアの牛乳の種類が多い理由は不明

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牛乳の種類は賞味期限が短いためか、各スーパーが15種類程度におさえている(ショッピングモールのイオンを除く)なか、東武ストアは19種類となぜか多い。牛乳売場の面積は他のスーパーと同程度なのにだ。一方で、賞味期限の長い乾麺は、他のスーパーと比べて少ない。理由がわかる方がいれば教えていただきたい。地域のニーズにきめ細かく対応しているからなのか。それとも店舗オペレーションが不全なのかもしれない。

哲学の違いが品揃えや棚割りに反映される

ヤオコーの店内にはじめて入ったとき、緑の野菜がずらりと美しく並んだディスプレイに目を奪われた。

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ヤオコーの棚割りは、商品がもっとも美しく、おいしく見えるカラーコントロールの基本に忠実であることがわかる。

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店の哲学が品揃えや棚割りに反映される。どのスーパーも同じではないことがわかるだろう。

4.店舗主導型か、本部主導型か

スーパーには万単位の商品が並ぶ。商品の発注、品揃え、棚割り、改善活動を現場に任せる店舗主導型か、本部がすべてコントロールする本部主導型なのか、店舗と本部の関係によっても店のつくりに大きな違いがあらわれる。

オーケーは本部主導型

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オーケーは本部主導型だ。仕入れ、棚割り、価格設定、利益管理まですべて本部がおこなう。数店舗見てまわったが、面積やレイアウトはほぼ同じだ。そうすることで、店舗オペレーションの効率化をはかり、どれだけの量が売れるのか販売予測が立てやすくなる。情報システム化もいち早く進め、自動発注も業界に先駆けて導入。店舗在庫の量まで本部がリアルタイムでつかめるようになっている。
食品スーパーの標準的なフォーマットは、

①完全なセルフサービス
②店舗の標準化
③本部集中仕入れ

がセットになっているといわれている。オーケーは、標準的なフォーマットの進化版といえるのかもしれない。

ヤオコーは店舗主導型

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ヤオコーが目指してきたのは、

①単純なセルフサービスからの脱却
②標準化をベースにしながら店舗への権限移譲
③地元野菜の仕入れなど商品調達の分権化

だ。スーパーの標準的なフォーマットの逆をいく。店舗側の部門担当者が、販売計画の20〜30%を自分たちの意志でつくることができる。正社員だけではなくパートナーと呼ぶパートタイマーのあつかいは同じだ。商品の発注や陳列・補充のやり方は、パートタイマーにまかせている。
ヤオコー社長の川野澄人氏は、新商品などが増えていくなかで店舗作業が増え、ここ数年はオペレーションの標準化を最優先させてきた。その結果、従業員自ら考え、お客様に提案する姿勢が弱くなった。ライフスタイルの変化の中で、お客様に素材を手にとってもらう工夫、提案が十分でなかった反省があった。簡単においしくできるメニュー提案など、料理の楽しさを伝えていきたいと語る。
ヤオコーの強みである提案型の売場づくりを実現するには、現場のひとの力が欠かせない。標準化をベースにしつつ店舗へ権限移譲する動きは、オーケーとはまた違った進化のかたちなのかもしれない。

イトーヨーカドーの「単品管理」

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店舗主導型を実現する上で「単品管理」は効果的な手法だ。本部主導型のオペレーションから店舗主導型に権限移譲するうえで、現場に近い人間が、品切れや死に筋商品を減らし、売上を伸ばしていく判断をするためには「単品管理」が必要だ。
「単品管理」とは、全品をすべて見ることではなく、売れる商品を売れるように仕入れてきっちり売り切る基本を実行したうえで、一個一個の商品のなかで異常値を見つけていく取り組みだ。異常値は、もっと売れるはずだとか、思ったより売れていないなどさまざまある。なぜ異常値が生じたのかを観察し、分析し、どのように売り場を変えたら売上が伸びるか仮説をつくり、思い通りになったら全店に波及していく。この一連の取り組みが「単品管理」だ。

哲学の違いが店舗オペレーションに反映される

店舗を信用して店舗主導型にするのか、個々の店舗の差異をなくして全店で売り切る本部主導型にするのか、哲学の違いが店舗オペレーションに反映される。どのスーパーも同じではないことがわかるだろう。

5.EDLP(Everyday Low Price)か、特売か

EDLP(Everyday Low Price)と特売はトレードオフの関係にある。特売するためには、数ヶ月前からテーマを決め、価格帯を決め、商品を決め、物流を調整し、店舗を調整し、広告を制作する時間とコストをかける。その時間とコストを価格に転化し、毎日を特売日にするのがEDLPだ。本来はトレードオフの関係にあるのだが、EDLPを掲げているスーパーもチラシで特売している。

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日経新聞の記事によると、ウォルマートが西友株の売却に動いた理由に、一番の誤算は代名詞でもあるEDLPが通用しなかった点にあると報じている。競合を圧倒する価格で客数を伸ばす計画だったが、地方のスーパーにもEDLPが普及。値下げしても他社が同じ価格を保証するなど、西友の割安さは埋没。店舗運営の効率化も裏目にでた。店員は最小限におさえたが、品出しが追いつかず欠品が頻発した、とある。EDLPを貫くのはいかに大変であるのかがわかる。
オーケーはさすがに折込チラシをやっていないだろうと思っていたが、実家に帰ったときにオーケーの折込チラシを発見してしまった。

オーケーのチラシ

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オーケーは新商品情報などを毎週月曜日に店内やWebに掲載するだけにとどめ、広告宣伝費を節約するとされてきたが、折込チラシを入れていることを知りおどろいた。しかし、価格の末尾を確認すると、一品一品の価格の末尾を合わせていないことがわかる。特売に合わせて価格を調整していないのだ。他のスーパーのチラシをみてもらいたい。

東武ストアのチラシ

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ほとんどの価格の末尾が「8」。

東急ストアのチラシ

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ほとんどの価格の末尾が「8」。

ダイエーのチラシ

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ほとんどの価格の末尾が「8」。

ヨークマートのチラシ

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ほとんどの価格の末尾が「8」。

西友のチラシ

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ほとんどの価格の末尾が「8」。

ベルクスのチラシ

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ほとんどの価格の末尾が「9」。

スーパーのチラシにある価格の末尾のほとんどは「8」に統一している。ベルクスはほぼ「9」。キリの悪い「8」や「9」の羅列は、大台の「0」よりも値下げした感があらわれ、統一することで迫力がでる。

ちなみに、ユニクロのチラシもみてみよう。

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ユニクロは価格帯がスーパーと比べ一桁上がるためか、ほとんどの商品を「90」に統一している。

もう一度、オーケーのチラシをみてみよう。

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価格に統一感がない。
特売のために価格合わせの調整をしていないことがわかる。一品一品、単品単位で低価格を追求している証といえる。

哲学の違いがチラシに反映される

EDLPの難しさは、競合店も価格に追従するから安さを保てないところにある。オーケーの場合、売上が落ちついてきたら、その商品価格を価格や品質の面からもう一度見直す。もし商品自体に今後の伸びが期待できないと判断すれば入れ替えも検討する。その積み重ねで圧倒的な量を売っているのだ。食品メーカーによると、オーケーの一店舗で売れる量は、通常のスーパーの1.5倍だという。量を背景に一品一品シビアに交渉し、安く仕入れているのだ。
その他のスーパーは、特売の企画で特徴をだし、特売日に合わせて値段を調整する。消費者の購買動機を喚起する試みを繰り返しているのがわかる。どのスーパーも同じではないことがわかるだろう。

6.PB(プライベートブランド)か、NB(ナショナルブランド)か

スーパーのPB(プライベートブランド)比率は、日本は7.5%、アメリカは19%、イギリスは45%と各国で異なる。これは、スーパーの上位4社が市場に占める割合によるところが大きい。イギリスが71%、アメリカが42%、日本が22%の違いがあるからだ。
もうひとつの要因は、欧州と比べてアメリカや日本はマス媒体が発達し、積極的な広告宣伝活動が展開されている。NB(ナショナルブランド)の認知度が欧州以上に高く、広告規制も欧州と比べて緩やかだからだ。NB(ナショナルブランド)のCM投下費用が商品価格に転化されているからPBよりも平均して23%高いが、高い認知と利用の蓄積があるからこそ強さを保っている。

日本のPBの歴史は、ダイエーが価格破壊を狙ってはじめたのがきっかけだ。その価格破壊は競合他社が追従することにより一時的なものに終わった。原料調達や製造技術の参入障壁が低い商品のPBは、競合他社にとっても参入しやすい分野であるため、競争が激化し短命に終わってしまったからだ。

トップバリュ

「トップバリュ」は、従来の価格訴求だけではない価値をつくるために、エコノミー(価格訴求型)、スタンダード(標準型)、プレミアム(品質重視型)の三層構造に分け、お客様の声を評価基準(評価が70%以上に達しないと発売しない)にしてPBを開発した。徹底的な検品をおこない、ブランディングやパッケージデザインを統一的に訴求する戦略を貫き、日本で最大級のPB商品になった。

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クラウドソーシングを使いイオンの印象を尋ねたアンケートでも、

「プライベートブランドが安いのに味もおいしく安心感がある」
「プライベートブランドが充実しており、品揃えも豊富」
「プライベートブランドの食品が多くあり、手頃で味も美味しい」
「プライベートブランドの商品が安くてもクオリティが高く充実している」

などの声が寄せられた。安さと品質、品揃えが評価されているのがわかる。

セブンプレミアム

「セブンプレミアム」は、「トップバリュ」が主販路がスーパーなのに対し、コンビニが主販路である点が異なる。PBを創るメーカーを協同組合方式にし、参加企業が73社、171工場を持つ巨大な組合が、弁当や加工食品のPBを共同で開発している。コンビニであるがゆえに、価格よりも価値を重視している点が特徴だ。価格競争に陥りやすいスーパーと異なり、利便性や品質を重視した商品開発をしてきた独自の発展が「セブンプレミアム」のブランドを形成している。

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クラウドソーシングを使いイトーヨーカドーの印象を尋ねたアンケートでも、

「オリジナルブランドのレトルト・冷凍食品がおいしい」
「セブンプレミアム ストロングサワー シークヮーサー が、安くて美味しい」
「食品や飲料などセブンイレブンとリンクしている商品が多数あるところが好き」
「値段は他のところよりも少しは高いと思うけど、味が美味しくて信頼できる」

などの声が寄せられた。価格よりもおいしさで評価されているのがわかる。

みなさまのお墨付き

西友のプライベートブランド「みなさまのお墨付き」は、第三者機関による100人以上(主に女性)による消費者テストで、80%以上の賛同を得たもののみが商品化される。味、使い勝手、容量、価格について4段階(非常に良い・良い・良くない・全く良くない)の総合評価と、その理由を調査し、企業名やプランド名は伏せおこなわれている。商品化された商品も、2年毎に再テストを実施し、80%を少しでも下回ったものは却下する。

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クラウドソーシングを使い西友の印象を尋ねたアンケートでも、

「PBのみなさまのお墨付きシリーズのクオリティが高い。特にカレー」
「プライベートブランドを中心に全体的に安価」
「プライベートブランドの品質の高さが好きな理由」
「オリジナルブランドが安い」
「プライベートブランドの商品が充実している」

などの声が寄せられた。品質と安さ、品揃えが評価されているのがわかる。

哲学の違いがPBに反映される

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オーケー社長の二宮氏は、オーケーはあくまで食品メーカーのNBが主力。なぜならば、それが顧客にとっていちばんわかりやすいからだとのべている。NBで理想的な価格が実現できないときはPBを使うこともあるが、PBの販売比率を何%にという考え方はしていないと語る。利益率向上のためのPBはつくらないのだ。
スーパーの主販路や哲学により、PBの比率、品質と価格のバランスに違いがうまれ、独自の発展をとげている。「トップバリュ」「セブンプレミアム」「みなさまのお墨付き」は、消費者がそのスーパーを好きになる理由として高く評価されている。どのスーパーも同じではないことがわかるだろう。

7.客の来店意図

いよいよ最後の分析になる。消費者がどのような目的でスーパーを訪れているのか、クラウドソーシングを使いアンケート調査してみた。

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イオン、イトーヨーカドー・ヤオコーは「夕食準備」が最も高い

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イオンやイトーヨーカドーは、「夕食準備」が最も多く、「おいしそうなもの・好きなもの探し」「重いもの・安いものの補充やまとめ買い」が同列で2位となった。
ヤオコーは「夕食準備」が最も高く、「おいしそうなもの・好きなもの探し」が2位となった。
ショッピングモールのイオンとイトーヨーカドーは、多種多様な意図に対応したバランスのよい店づくりが構築されているのが読みとれる。
ヤオコーは、安さよりもおいしさが強く求められているのが来店意図から読みとれる。

オーケー、ドン・キホーテ、西友は「重いもの・安いものの補充やまとめ買い」が最も高い

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オーケーと西友は「重いもの・安いものの補充やまとめ買い」が最も高く、次いで「夕食準備」が2位となった。EDLP(Everyday Low Price)を特徴としている2店の来店意図が似た傾向にあるのが面白い。
ドン・キホーテは「重いもの・安いものの補充やまとめ買い」が最も高く、「おいしそうなもの・好きなもの探し」が2位となった。安いもの、おいしそうなもの、好きなものが見つかるかもしれないワクワクとドキドキを提供するドンキの哲学が、来店意図にも反映されているのが読みとれる。

ダイエー、ライフは「おいしそうなもの・好きなもの探し」が最も高い

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ダイエーとライフは、「おいしそうなもの・好きなもの探し」が最も高く、「夕食準備」が2位となった。安さではなく、質が求められているのが来店意図から読みとれる。

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クラウドソーシングを使いライフの印象を尋ねたアンケートでは、

「商品が充実していて選ぶ楽しさがあり、通路が広くて買い物がしやすい」
「商品の種類が多く、また価格もそこそこ」
「生鮮食品がとても新鮮だし、惣菜とパンがどれも美味しい」
「品揃えが豊富なのとどれも新鮮な感じ」

などの声が寄せられた。品揃えや新鮮さ、おいしさが評価されているのがわかる。

哲学の違いが来店意図にも反映される

店によって、来店意図のグラデーションに違いがあることが可視化された。店の哲学と行動の一貫性がその店独自の特徴をつくり、消費者との相互作用を通じて、来店意図の違いとなってあらわれているのがわかる。どのスーパーも同じではないことがわかるだろう。

まとめ(オーケーはオーケー)

どのスーパーも同じではない

どのスーパーも同じではない。このシンプルな結論を言うために、一万五千字を無駄に費やすなと思われるもしれない。私はくぐもった声でこう返すだろう。その通りだ。

オーケーの二宮社長はこう語る。

「オーケーはディスカウントストアなのか食品スーパーなのか」と聞かれることがあるが、そうした分類よりも、ほかならぬ「オーケー」でありたい。

どのスーパーも同じではない。オーケーはオーケーである。

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<参考文献>
『ダイヤモンド・チェーンストア』2020.12.1
『ダイヤモンド・チェーンストア』2020.6.15
『ダイヤモンド・チェーンストア』2020.2.15
『ダイヤモンド・チェーンストア』2020.1.15
『ダイヤモンド・チェーンストア』2020.1.1
『激流』2020.10
『激流』2020.3
『激流』2020.2
『激流』2016.5
『激流』2015.10
『食品商業』2016.1
『食品商業』2012.3
『東洋経済』2017.3.11
『デュアル・ブランド戦略』矢作敏行(編者)有斐閣
『日本の優秀小売業の底力』矢作敏行(編者)日本経済新聞社
『しまむらとヤオコー』小川孔輔 小学館
『イオンを創った女 評伝 小嶋千鶴子』東海友和 プレジデント社
『あしあと』小嶋千鶴子 求龍堂
なぜお客さんは「この店は品揃えが悪い」と言うか』富山浩樹 2019.12.8
【速報】オーケーが3連覇!「第3回スーパーマーケット総選挙」結果発表』 2019.6.15
オーケーが2連覇!ラジオリスナーの投票で決める「スーパーマーケット総選挙」』2018.6.15
スーパーマーケット総選挙の結果、第1位の店は「オーケー」だった【ラジオリスナーが投票】』2017.6.16
なぜ小売業にマーケティングが必要なのか 【富永朋信 特別インタビュー】2020.2.25
メーカーこそ「小売マーケティング」を学ぶべきと考える理由 【富永朋信 特別インタビュー】2020.3.3

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