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花王「アタックZERO」発売直後の雑感、P&G「アリエール」のカウンターは果たして効果的か?

「アタックZERO」発売のおよそ2ヶ月前に『電通ハニカムモデルと「アタックZERO」』という文章を書いた。私はその商品について以下のように解釈した。

「アタックZERO」は明確な特徴をもった商品であり、「ワンハンドプッシュ」で簡単に計量して投入できる機能、それを実現するスタイリッシュな軽量ボディ、花王史上最高と謳う吸湿速乾・保温・形状記憶などの新たな化学繊維にも対応した「汚れ」「ニオイ」「洗剤残り」をゼロにする洗浄技術があり、その機能的ベネフィットの享受を通じて手を汚さずに時短できそう、スタイリッシュでなんとなく置きたくなる、洗濯の失敗を一切心配しなくて済みそう、という情緒的ベネフィットが得られる。このベネフィットとペルソナの関係を表現するコンセプトは「究極のきれい」(「新時代のお洗濯」「片手間なお洗濯、ひと片付け」)となる。これだけ整った特性をもつ商品が売れないはずがない、と門外漢である私は思う。

また、コミュニケーションターゲットを以下の通り想定した。

「アタックZERO」のコミュニケーションターゲットは、基本的には洗濯に時間を割きたくない共働き世帯、一人暮らし、子育て世代、楽をしたいシニア世代と多岐にわたる。その中でも、戦略的に敢えてペルソナを決めるとすると、洗濯に時間も手間もかけたくない子育て世代の共働き世帯となるだろう。

そして今、発売されておよそ3週間が経とうとしているので、その雑感を書きたいと思う。

 まず、コミュニケーションターゲットについてだ。CM出演者には松坂桃李、菅田将暉、賀来 賢人、間宮祥太朗、杉野遥亮という今をときめくイケメン俳優陣を揃えた。109の看板にティザーを用意するほどの用意周到ぶりで、新発売の打ち上げ花火としては十分にインパクトがある布陣といえるかもしれない。いわゆるステレオタイプの主婦、子供、お父さんの3点セットを壊し、新しさと違和感を与えている。そしてその5人を「#洗濯愛している会」という社会人サークルのメンバーという位置付けにし、ある種の洗濯インフルエンサーの役割を今後担うことになりそうな設定となっている。
 日経XTRENDの記事「洗濯の常識を変える 花王「アタックZERO」のマーケ戦略」はコミュニケーションターゲットを以下であるとしている。

花王のファブリックケア事業部長の中尾良雄氏は、「(アタックZEROは)洗濯に深い関心を持たないミレニアル層がコアターゲット。この層との距離を縮めるため、旬で認知度の高い5人に(アタックZEROの魅力を)伝えてもらうことにした」

 私の想像したコアターゲット像は「洗濯に時間も手間もかけたくない子育て世代の共働き世帯」であったが、花王のコアターゲットは、それよりも広く「洗濯に深い関心を持たないミレニアル層」ということだ。洗濯に深い関心を持たない人にイケメンインフルエンサーが洗濯の魅力を伝えることで距離が縮められるという想定かもしれないが、果たして実態はどうであろう?

 Google Trendsで「アタック」の検索トレンドを見みてみる。

発売当初の4/1にぐんと跳ね上がり、その後1週間はその勢いが持続し、2週間以降は半減しているものの、いまだに高い推移を持続している。

「アリエール」と比較すると、もともと「アタック」のほうが「アリエール」と比較して10倍以上の差があるものの発売後は20倍近くの差が開いている。打ち上げ花火としては成功かもしれない。もちろん、これはCMだけの効果ではなく、店頭の露出量も影響しているだろう。私の身近にあるスーパー、コンビニエンスストア、薬局、すべての棚にドンと「アタックZERO」が積まれていた。CMと店頭の棚どりのセットの効果とみてよいかもしれない。事実Twitterのハッシュタグ「#洗濯愛している会」の投稿は4件、Instagramも9件と閑古鳥が鳴いている状況である。

 P&Gのカウンター対決も面白い。

日経XTRENDの記事「スポーツウエアを強力消臭 P&G新アリエールは高額商品で勝負」では以下のカウンターを用意しているようだ。

P&Gがこちらも主力「アリエール」で“スポーツ”を切り口にした商品を投入。どちらも過去最高の洗浄力を掲げ、頂上決戦の様相だ。洗濯洗剤の最強対決の行方やいかに。

洗濯洗剤として必要な機能を進化させたにもかかわらず、刷新ではなく追加投入を選んだ。この点について星川氏は、「ほとんどの消費者は現在のアリエールで満足している。新製品はあくまで高付加価値商品。スポーツなど皮脂汚れのニオイを気にする人に向けて投入する」と、理由を説明する。2製品はターゲットが異なるため、ブランド内でパイの奪い合いにはならないと判断した。

花王の「アタックZERO」は全面刷新したのに対し、P&Gの「アリエール」は追加投入でその上位商品となる「アリエールジェル プラチナスポーツ」を選んだ。P&Gはターゲットを細分化したのに対し、花王は統合した。

 花王もP&Gも同じ洗浄力なら、これは「アリエール」これは「アリエールジェル プラチナスポーツ」と分けて洗濯しなくてよい「アタックZERO」を選んだほうが効率的ではないだろうか。一部のスポーツマニアを除いて洗濯に時間も手間もかけたくない層は「アタックZERO」を選択するだろう。「アリエール」は洗浄力を土俵としているのに対して、「アタックZERO」は洗濯の面倒くささを土俵としているので、そもそも土俵が異なる。

 「アタックZERO」は今のところ成功しているように見えるが、私が期待していたのはもっと新時代が到来する雰囲気だ。打ち上げ花火のイケメン俳優陣勢揃いのCMもよいが、それと併行して、ステレオタイプの主婦、子供、お父さんの3点セットを壊した共働き世代のリアル、一人暮らしのリアル、多様化した社会のリアルを感じさせるメッセージを打ち出して新しい洗剤の到来を表現してほしかった。

 多様化した社会だからこそ、P&Gのようにターゲットを細分化してそれぞれのニーズを充すやり方もあるが、花王はそれぞれのニーズについて考えなくてもあらゆる洗濯の失敗をこれ1本でまとめて心配しなくて済む、洗濯する面倒臭さから解放されたいインサイトを充すベネフィットを最大限表現してほしかった。

 「アタックZERO」は売れないはずがない大型商品であると思うだけに、Twitterアカウントのようにミレニアル世代に気の利いたコメントで調子を合わせるのではなく、新世代が「アタックZERO」について語りたくなる雰囲気作りに挑戦してほしいと身勝手な妄言を吐いて終わりとする。

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