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本当に止めませんか、「紳士協定」というリスティング広告の悪しき慣習

 リスティング広告を運用していると「紳士協定」なる悪しき慣習と遭遇することがよくある。「紳士協定」とは、自社ブランド名や自社ブランド名の掛け合わせ語で検索した時に自社以外のリスティング広告が表示されることを防ぐ企業間同士の協定である。自社ブランドや自社ブランドに関連するキーワードで他社の広告を望む人はいないだろうから、それを除外することは当然なことだと思うかもしれないが、次の場合はどうだろう?

「エンジニアワークス」というブランド名があったとしよう。そのブランド名で検索するとエンジニア関連の人材エージェントや求人サイトの広告が表示されることが想定される。これは、キーワード「エンジニアワークス」を使用していなくても、キーワード「エンジニア」や「リモートワーク」で広告を使用している場合、その広告の関連性が高いとGoogleが判断すればその広告が表示される。その時、ブランド名を保有する企業が広告を除外依頼した場合に応じる必要はあるだろうか?

 Google広告のポリシーは以下のとおりだ。

商標権所有者様から申し立てがあった場合、Google は広告文における商標の使用について制限する場合があります。

広告文にブランド名が使用されている場合、ブランド名の商標を取得していれば、商標権侵害の申し立てをGoogleのフォームに申請することでほぼその広告は停止される。

ただし、以下の場合は許容される。

広告文で商標に言及するのではなく、通常の意味で記述的にその文言を使用している広告

例えば広告文に「エンジニアに特化した求人サイト」「リモートワークの働き方を推進」を使用している場合、ブランド名に言及していないのだから許容される。

キーワードとしての商標の使用については、Google の調査や制限の対象となりません。

広告文にブランド名を使用していない場合、キーワード「エンジニアワークス」でリスティング広告を使用することが可能だ。ただし、そのキーワードと広告文、ランディングページの関連性が低ければ広告が承認される可能性は低くなる仕組みとなっている。先述したように、キーワードを使用していなくても「エンジニア」や「リモートワーク」と「エンジニアワーク」が広告文、ランディングページを含め関連しているとGoogleが判断した場合は広告が表示される。

 Google広告を利用しているならば、Google広告の広告ポリシーに従って適切に運用していくしかないだろうと思うのが普通の感覚であると思うが、以下の理由で広告の除外設定を要求してくる企業が多い。

1.自社ブランド名で検索したユーザーが競合ブランドに奪われる。
2.紳士的に競争したい。
3.ブランドの毀損になる。
4.入札単価が高騰する

1、2については紳士的に競争するならば広告ポリシーに従って適切に運用していくことが公正であり、競合サービスに奪われないよう自社サービスの独自性や便益を強化することに注力し競うことが本質的で紳士的な競争になるだろう。ちなみに紳士的にとかマナー違反を主張する企業が紳士的であった試しは経験上ほぼゼロだ。3、4については、Google広告を使用している以上逃れられないリスクではないだろうか。ブランド力があれれば多少入札単価が高騰したとしてもかすり傷にもならない程度の軽微な影響しか与えないことがほとんどだ。

 上記の理由により、広告ポリシーを適切に運用していれば紳士協定に本来は応じる必要はないが、結んでしまったときがとても厄介である。

「ブランド名とこのキーワードの掛け合わせで除外して下さい。」
「この表記ゆれで除外してください。」

紳士協定を結んでしまったが故に、結んだ企業の掛け合わせ語で表示されたり表記ゆれで広告が表示されると、そのキーワードで除外設定するようにと指示が思いのほか頻繁に届く。この作業を紳士協定を結んだ企業分対応しなければならないため、後ろ向きな作業に時間を奪われる。
 もう一つのリスクが、この除外設定をすることで自ら事業の首を締める可能性があることも頭に入れておいたほうがよい。例えば「エンジニアワークス」で除外設定した場合、「エンジニア」や「ワーク」、その掛け合わせ語の広告表示に影響を与えることにもなる。それを敢えて狙って紳士協定を結ぼうとする悪徳企業すらある。

 マーケターの本来の役割は市場創造だ。自社ブランド名で他社に奪われたのならその顧客が振り向いてもらえるように顧客を深く知り、サービスを良くすること、すぐにできることは広告文をよくすることに時間を使うべきであり、それが紳士的な競争であろう。表向きは紳士面だけの内向きな談合協定を結び、終わりのない除外設定合戦に熱中して仕事した気になるのは終わりにしよう。 

 もう本当に止めませんか、リスティング広告にある「紳士協定」という悪しき慣習を。
 

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