ニューウェーヴで踊ろう(私的音楽論)
筆者はニューウェーヴが好きである。当時の時代感といい、アナログシンセによる音作りといいなんとも魅力的で、文化や技術も含めてまぁまぁ凝っていた時期がある。ずっと聞いていると、とにかくベースが弾きたくて仕方ないという気持ちになる。当時物のリズムマシンも手元に置いて触りたい。
しかし、これだけ華のあるコンテンツが溢れ返っている昨今に、「ニューウェーヴを聞け」と言われて好意的な反応をする人間は、果たして存在するのだろうか。
定規で測って打ち込んだような、精密で無機質なベースラインとハイハットの往復。
長年積もった埃が舞って、今となってはむせるほどに古臭いリード音。
メロウなのかダークなのかよく分からない、リバーヴの掛かった、ノスタルジー感のあるボーカル。
おばあちゃんにもらったハッカ飴みたい。ナウいヤングからすれば、このような評価が妥当ではないだろうか。
もしもカラオケDAWでこんなもん選ぼうものなら、全員がその場で気絶してログアウトすること間違いなしだろう。本日はお疲れ様でした。すみません、領収書切ってもらって大丈夫ですか。あ、ダメ。組合費で出せないですか。自腹で。了解です。
コピーバンドでもやろう!と仲間内で盛り上がったとしよう。
何のコピーがいいですかね。ねごとですか。Galileo Galileiですか。あ、チャットモンチーもいいですね。スーパーカーも悪くない。
君はどうかな。何かありますか。ご意見どうぞ。
「𝑷,」
P?
「𝑷𝒆𝒕𝒆𝒓 𝑺𝒄𝒉𝒊𝒍𝒍𝒊𝒏𝒈」
…..
こんなのもあるんですね~。へぇ~。知らなかった。ところでアジカンの曲って譜面とかあるのかな?amazonとか見てみる?
…
といった具合であろう。
多分誰も知らないのである。古臭さ故に受けも悪いのだ。
急に異邦語の歌詞を並べられても、こちとら知らんわい状態である。
やはりnew waveとは名ばかりで、今となってはもう、冷蔵庫の奥で干からびてパサパサになった食パン程度の遺物になってしまったのであろう。
皆ずとまよが好きか。ヨルシカが好きか。結構結構。あいつら全員送別会ってな。納豆巻き急いで飲み込め。
そんなある日、インターネットである特集を見た。なんだか知らんが、Tiktokで当時のニューウェーヴ系をオマージュしたアーティストがかなりの勢いで流行っているらしい。
あぁ、これこれ。
マイナー感のあるベースラインとチープなリズムマシン。謎めいた歌詞が繰り返され、脳内に何度もフィードバックされる。
コンクリート打ちっぱなしの壁に囲まれながら、冷えたバーボンを飲んで聞きたい。葉巻とか吸いたい。吸い方知らんけど。
そう、この退廃的な空気感が逆に新しく響くのではないだろうか。
ここがすべての始まりであったことを肌で感じながら、当時に想いを馳せる。ここが新天地であったことを想起する事と、埃っぽい無機質な空間を同時に描けることが新しいシナジーを生み出している。
退廃ラブですね。皆で路地裏に駆け込もう。時代に取り残された埃っぽい空間で踊り狂おう。