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bouquet

5月6日。朝からわたしの心を映すかのような重たい雨模様でとうとうゴールデンウィーク最終日を迎える。今日は例によって移動の1日だ。母に駅まで送ってもらったら切符を買って約2時間ほど汽車に揺られる。電気ではなくディーゼルで走るこのワンマン列車のことを地元では汽車と呼ぶので今日はここでもそう呼ばせてもらおう。わたしがもっと年老いてどんなに技術が進歩してもこの汽車だけはわざわざ切符を買って乗っていたい。白杖をついたお爺さんの手を握ったホーム。TOEICを受けるためにどきどきしながら座った座席。大好きなひとの家の最寄駅。窓から見えるあの川沿いの道路は車で送迎してもらったときに通った道だ。高校時代はあまり乗らなかった方面の景色だけどそこかしこに思い出が落っこちている。今日はやけにそれらが光ってちらついた。ゆっくり丁寧に、雨上がりのやわい太陽光が全ての座席に届くように、ゆるりと旋回しながら汽車は長い時間をかけて主要の駅に着いた。
連休最終日だけあっていつもより少し人とスーツケースの多い場所となっていた。2月ごろから何だかんだ、毎月の様にここに帰って来てはいるのでもはや懐かしくもない見慣れた風景のはずなのに、もう2度と戻って来れない様な気がして途方もない寂しさに襲われ、それは足元がよろめくほどたった。そんな感傷的な気持ちを心臓ごとそこに置いていく勢いで、新幹線はあっけなく、目にも止まらぬ爆速で故郷から遠ざかった。こうして、留まりたい場所や会いたい人からは、いつもお構いなしにとても簡単に遠ざかれてしまう。人生の天邪鬼な一面である。新幹線で移動する道中、友人から「言ってくれれば駅まで送ったのに」という連絡をもらった。「いいよ、悪いし」と返したけれど、今になって引き返してでも甘えたらよかったかもしれないと後悔しているくらい、いつになく心細い。
どうだろう。わたしのゴールデンウィークはちゃんと花束になっただろうか。もしかしたら初日に期待したほどワクワクした何かを体験したお休みではなかったかも知れない。でもわたしは故郷でどこまでもどこまでも、那岐山の向こうまで、羽を伸ばしていたと思う。夜遅くまで10日分の日記を何度も読み返してしまいそうだな。とりあえず、この休日にとても満足しているという言葉で締めよう。とりあえず。今日のカバー写真はルノワールの「春の花束」にしておくとする。
母の居ない寝室で寝るのは数日振りだ。この部屋って、こんなに広かったかな。そういえば初日に渡そうと思って買ったお土産をひとつ、トートバッグの中に持って帰ってきてしまった。

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