初めて0泊3日弾丸アートツアーをした事
今年の目標に美術展・博覧会などに最低でも月1回は行こう!というのがありまして、それが只今暴走してておいこら止めてほしいです。
暴走。それは決行10日ほど前のこと。美術展の情報収集をしていたら、パウル・クレーが出てきました。かの『バウハウス』で講師の経歴を持ち、『色彩と線の魔術師』とも呼ばれる個性あふれる絵を描く方です。そのパウルクレー展が名古屋でやっている。
とはいえ、ちゃんと分かっていない私は最初スルー。だって名古屋だし。
そもそも東京在住の私は、大抵のものが東京に巡回しているので、それで満足していました。だからセミナーとかで地方からくる人を見て、その熱意に圧倒されました。宿泊費や交通費を考えるととんでもない金額になる。
ほんと恵まれた環境だよね、東京って。
今回は東京が巡回の枠に入ってない。まぁそれなら諦めるか。
というのがいつもの流れ。
それなのに、なぜか今回は観に行きたくなった。ただ万年貧乏な私。インバウンドで跳ね上がったホテル代はおろか、新幹線代もきつい。
やっぱり無理だなぁ
それなのに、なにか方法ないか検索してしまった。これがいけなかったのです。夜行バスがあるじゃん。え?地元からも出てる?しかも2月から料金が少しずつ上がってく?今なら結構お手頃値段?
待て。落ち着け私。手帳を開きながら行ける日を確認して、ふと我に返る。費用は大丈夫か?体力的に問題ないか?バブル末期に会社にスキーの道具を持ち込み、仕事明けに夜行バスでスキーに行き滑りまくって、一泊してスキーして夜行で帰って職場に直行なんて、あれは30年以上前の話だぞ。
それなのに、なぜか行けんじゃね?と思ってしまったのです。まぁここからはほぼ行くことを決めた人間の言い訳タイムに突入。月曜に遊ぶが高速バス的にはお手頃料金だけど、生憎美術館は月曜定休が多い。シフトを眺めていける日を確認すると、翌金曜日ならいけそうだ。
天を仰ぐ。
最終的には「やらない後悔よりする後悔。まずはやってみないと分からないじゃないか。」
話は逸れますが、介護の仕事をしていて、ものすごく感じるのが『あの時やっておけば良かった』『〇歳になったらやろうという日は来ない』。
過日亡くなった小倉智昭さんも言っていましたが、今は忙しいから年を取ってから、のんびり何かを始めようとしても、その時には体が動かない。目が見えない。耳が聞こえない。そしてやる気が出ない。想像以上の心身の老化。これが現実です。
そしてどこかで見かけたけれど、60歳くらいの時にバイオリン(かなにか)を弾こうと思ったけれど諦めてしまった。でもあの時に始めていたら30年弾いていたことになるのよね、という90歳オーバーの方の話。
以前デイサービスに勤務していた時にも、90歳のご利用者がビーズでとても細かくグラスコードを作っていました。その方は「どうせ時間はたっぷりあるから」とのんびりと少しずつビーズを編んでいました。でもこれは90歳になって急にできたわけじゃなくて、昔からやり続けていたから出来る事。ゼロからは難しいけれど、少しずつでも何かしていたら90歳を超えてもやっていける。
そう今が一番若い。ちなみに55歳。ミドルフィフティ。BBA55。
閑話休題。行かない理由より行く理由付けを探していたら、もう止められない。ああ、見つけてしまった。フォロン展が名古屋市美術館でやってる。東京でやっていた時に見損ねたやつだ。
それぞれの場所を確認する。地理感ないけれどなんとかなりそう。え?名古屋城も行っちゃう?などと思って夜行バスを検索したら、空きがまだあった。寝ている間に着いて、一日遊んで、また寝ている間に帰ることが出来る0泊3日。それならホテル代はかからない。しんどかったら二度とやらないであろう、このチャレンジ、充分にその価値があるはず。
天気も重要なファクターだ。名古屋が雪まみれだったら、ブーツ持ってないし、寒冷アレルギー発動してシャレにならん。よし。お天気らしい。
えいやー!
金の鯱から飛び降りる勢いでの予約。ちなみに夜勤明けの日です。夜勤明けだけど、以前の職場と違ってしっかり休むことが出来るのでそんなにきつくないのは実証済み。しかも夜行バスの時間はその日の深夜。しっかり休んでから出発できるので問題なし。多分。
そして後で気づいたけれど、一人旅、初めてでした。てへっ。自分でも意外。
もう予約取ってしまったからね。往復で一万ちょい。ここからは如何に楽しむかの計画。
【絶対に外せない所】
・パウルクレー展 愛知県美術館
・フォロン展 名古屋市美術館
・名古屋城
土地勘が無いから、どのくらい移動に時間がかかるか分からない。名古屋の電車ってPASMO使えたっけ?Googleマップで確認したら、まぁ歩けない距離じゃないけど、この三か所回って、美術館の中をぐるぐる回って、大丈夫?私の体力生きてる?
美味しいものもたくさんありそうだけど、そもそもウナギを食べない私はひつまぶしはどうでもいいとしても、きしめんは押さえておきたい。ただ優先順位は低い。何と言っても弾丸アートツアーなのだ。
暇さえあればニヤニヤと名古屋の観光などを検索する私。せっかくなんでパウルクレーの本も読んでおく。予習も大事です。
行程としては6時半に到着となれば、ちょいと待てば7時オープンのお店で過ごせる。そして一番オープンが早い名古屋城で過ごし、美術館周りをする。恐らくここからは勢い。むしろ帰りの深夜出発までの時間の過ごし方で悩んでいて、この際レイトショーで普段見ない映画とかにチャレンジしちゃう?とギリギリまでドキドキワクワク。
さて当日。夜勤明けの私はまずは温泉へ。ここで一気に仕事の疲れを取ります。取りすぎました。介護福祉士の国試の際、前泊した時にも普段シャワーな私は大浴場が嬉しくて、のんびりしすぎてしまいやる気が行方不明。前日だというのにほとんど勉強せずに挑んだという過去を持つ私。因みにこの時当日までやる気が戻ってくることはありませんでした。
その時と同じような状態になってしまい、準備も何もあったもんじゃないくらい、帰宅後リラックスモード。でも0泊っていいですね。宿泊に必要な準備が一切いらない。普段使いのショルダーバッグとエコバッグ。中身はスマホに財布や手帳、ハンカチ、ティッシュ、ハンドクリームとリップクリーム。日常的に化粧をあまりしない私は、普段のお出かけと一緒。身軽。足りなかったら、現地調達すればいい。
今時の夜行バスがどんなんだか分かってないので、一応おにぎりとか買っておいたけど、それも必要なくて結局昼ご飯にしました。
夜行バスまでの移動は電車で行くべきか悩んだけれど、車で行って3日まで連続利用OKの場所を見つけて駐車。地味にこれが良かったです。なんせ余計な体力を使わない。帰りもバスから降りたら、すぐに車で帰れる。電車乗り継ぎとかあったらちょいとしんどかったでしょうね。うち最寄駅から遠いし。
夜行バスも女性専用エリアで安心。カノピーが付いてるんで油断しきった寝顔をさらすこともなく、隣席との間に仕切りがあるので、変に気を使う事もない。ただし、これ以上太ってはだめだ。
椅子のリクライニングの角度に慣れなかったせいか、実は初手からちょいと酔ってヤバかったです。焦るな私。ゆっくり呼吸するんだ。色々と気をそらして凌ぐ。酔い止め飲んでおけばよかったかしら。でも帰りは平気でした。良かった。
熟睡まではいかなかったけれど、途中休憩をはさみながら早朝到着。
早朝からやってるカフェで休憩を取り、計画をねるねるねるね。移動はレンタルチャリ『カリテコ』1日レンタルを選択。あちこちに配置されていたから、駐輪場に困ることなく本当に自由に動き回れました。
9時過ぎたら行動開始。名古屋駅できしめんを食べ(これが美味しかったので、帰りにお土産ゲット)、やや戸惑いながらも最初のカリテコPに到着し、いざ名古屋城へ。名古屋って平地で、道も広く自転車走りは快適。お天気も次第に暖かくなって絶好のチャリ日和でした。
名古屋城はインバウンドでなかなかの観光客。フォトスポットでは中国語で声かけられました。生粋の日本人ですって答えたら「あ、じゃあ旅の記念にどうですか?」と。じゃあってなんだよ、じゃあって(笑)。
目下再建中の本丸御殿、たくさんの匠の技が詰め込まれていて、見応えがありました。金ぴか~。あれだけ華やかなのに西洋の派手さとは違うのは、ベースの違うから?あちらは金+白とかが多いけれど(偏見)、こちらは金+黒もしくは焦げ茶(偏見)だから?
確かに古いものが大切に残されているのは大切だけど、こうやって現代の匠が復元したものも充分に宝になりますね。
宝と言えば、本丸御殿の目の前にある昔ながらのお土産屋さんも推したい。懐かしい昭和の香り満載のお土産屋さんは、そのラインナップを裏切ることはなかったです。金鯱のキーホルダーや小判型バスボム、葵の御紋のアイテム。使いどころが謎だけど、うっかり買ってしまいそうな空気感に包まれています。ベタなお土産屋さん。良い。
想定以上に名古屋城散策が面白く、お昼過ぎまで滞在していましたが、次なる目的地、名古屋市美術館に移動します。
名古屋市美術館は白川公園内にあり、そこには名古屋市科学館があるけれど、そもそも広さなどがぴんと来なかったのですが、行ってみたらこの二つは目と鼻の先。金曜日だったので開館は20時まで。ならば予定を変更してプラネタリウムも盛り込むことが出来そう。
という事で、まずはプラネタリウムの予約を行ったら、結構時間が余ったのでその間にフォロン展を見ることが出来ました。これがのちに功を奏するのです。
空想旅行案内人と言われるジャン=ミッシェル・フォロンは、ファンタジックなアーティストです。たむらしげる好きな私に刺さったのは、たむらさんが影響受けていたからのようです。シンプルなラインとか色彩とか。
フォロンは自分の絵が人を惹きつけることを理解して、社会風刺なども描いていたけれど、ちゃんと彼の世界観あって、変に毒々しくしない所が素晴らしかった。
美術館などにはフライヤーが多く設置してあるのだけど、ここで目に入った一枚のフライヤー。折り紙。え?ORIGAMIですと?よくよく見たら、布施知子。なんとユニット折り紙の女王さま。白川公園で噴水を眺め、食べ損ねていたおにぎりをパクつきながら開催時間を確認し、急いで場所などの検索する。良かった。プラネタリウムの後に行っても間に合う。チャリだから余裕だ。あの時先にフォロン観ておこうと判断した私、グッジョブ。
名古屋市科学館は、校外学習の小中学生でいっぱい。色々な体験が出来て、その資料も素晴らしく、時間があれば一日楽しめそうです。プラネタリウムも予約した時には100以上空席があったのに、入場する頃には満席。リクライニングシートは開始早々に寝息があちこちから聞こえるほど(笑)。私も途中落ちそうになったけれど、満点の星空が投影されると眠気も退散。ちょうど「チ。地球の運動について」を読了していたので、火星逆行の話題とかワクワクしちゃいました。
急遽追加したヤマザキ・マザック美術館に15時半ころ到着。『ORIGAMI 紙の鼓動』展はそれまでユニット折り紙の女王として名を馳せた布施知子さんが、それの名をパッと捨て取り組んだ螺旋折りなどの作品が並んでます。正方形というベーシックな折り紙から解き放たれた作品は、山崎マザックコレクションの家具たちを面白い調和をしています。丁寧に折られた作品は、ロココの装飾にも負けないのか。素晴らしい。
ここのグループにヤマザキマザック工作機械博物館というのがあるらしく、場所が岐阜の為流石に無理だし、HP見たら、工作機械大好きマンの娘が狂喜乱舞しそうな内容なので、今度娘と行く楽しみに。
そして更に移動して、本命愛知県美術館の『パウル・クレー』展へ。事前に「建物の中にあると気付かず探し回った」という情報を見かけたので助かったけど、確かに芸術センターの中だったので、知らなったら同じ目に合っていたかも。自転車も無料Pがあるけれど、2F受付でコインをもらわないといけなくて、それも17時以降は守衛さんのところまで行かないといけないので、先にもらっていった方が楽です。その時には駐輪番号も必要です。
芸術文化センター自体もすごい。最上階まで吹き抜けているモニュメントは迫力満点。10階まで一気にエレベータ(しかも壁側だった)で上がってしまったから気付かなかったけれど、せめてシースルーのエレベーターに乗るべきだった…。
パウルクレーの絵もフォロン同様色彩が豊か。今回は孤独と言われていたクレーが、いや実は友人や仲間と仲良くやってたんだぜというのがテーマで、彼に関わった人のたくさんの作品も展示されてました。やっぱりカンディンスキー好きだわ。実はクレーよりも刺さる。
彼自身の個性だけじゃなく、戦争という社会情勢によって作風が変化していく。友人を戦争で失い、居場所をなくし、故郷に戻り、バウハウスの講師に抜擢され、それ(バウハウスでの講師歴)がゆえに次の職場でクビになりアメリカへと向かう。音楽にも長けて、芸術センスの固まり。独特の個性が出来上がる。
様々な手法で作られていった作品は、なかなか写真では伝わらないディティールと力強さを持っていて、これは実物で見るべき。来てよかったー。何回もそう思いました。
愛知県美術館ではコレクション展もやっており、ここも見応えあります。それぞれの作家に応じたペーパーが設置されていて、それも楽しかったけれど、コレクションの図録が欲しかった。
そんなこんなですっかり夜景の時間。思ったよりも寒くなく、芸術文化センターの回廊から見る名古屋市は綺麗でした。人気もなく独り占めできる贅沢。
そういえば名古屋市美術館からヤマザキマザック美術館に向かう途中、MIRAI TOWERのあたりを見かけたとき「ああ!ゴゴスマの天気予報の中継で見た」+「前日にたまたま観ていたマツコとさんまと安住アナの番組で出ていた」場所だったんで、無駄にテンション上がっちゃったぃ。
夜行バスには時間がまだ充分すぎるほどあるので、チャリは途中で返却しテクシィで名古屋駅に。予想以上に距離があったけれど、それもまた楽し。と言いつつも足の疲労も近づいており、駅でお土産を買った後はファミレスへ。でも金曜日の夜は結構遅くまで混雑しており、時間制限によってカフェへの移動も余儀なくされ、流石にくたびれてきたので帰りは熟睡。
夜行バスから降りた早朝の町は独特の静寂に包まれていて、女の子が一人で足早に駅に向かっている姿を見て、日本って平和だなー安全だなーと実感。帰宅後コンビニで買った朝ご飯を食べたら本格的な睡魔に襲われ、体力回復に丸一日要しました。
でも行ってよかった。
名古屋というところが良かったのかも。都市で、平坦で、東京から程よい距離。途中で気づいたのだけど、あまりネイティブな名古屋弁というものを耳にしなかったので、ほとんど東京にいる感覚と変わらなかったです。
だから日帰り旅行よりも、都心に出るような感覚で、身軽に手軽に楽しめました。詰め込みすぎてた気はするけれど、それもまた一人旅ならではの楽しさ。堪能できました。
0泊3日。検索すると「きつい」とか「やめておけ」とか見かけて、ちょいとビビってはいたけれど、やってみたら結構行けたので、いやむしろめっちゃ楽しめたので、まずは近場からやってみるといいと思うのです。
いやほんと、今が一番若いのだから、やりたいことがあれば挑戦してみよう?
私はまた行きたい。
名古屋も、一人旅も、弾丸アートツアーも
あの時決断した私、そんな私を応援してくれた娘、
本当にグッジョブ