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ストロングジジイ

親友・マツカワの職業は、エディトリアルデザイナーだ。
主に雑誌や付録のデザインをしている。

日中太陽をほとんど浴びないため超がつくほど色白で、ベレー帽に太縁メガネがやたら似合う。常に0.6〜0.8倍速、マイペース&マイワールドに生きるタイプの人間だ。

聴力に問題はないのに耳が遠い。聞こえたとてシナプスがつながるまでスローなので、話題が次の次にうつったくらいで「あぁ、そういうことか!」と手を叩く(ただし悪口だけはどんなに小声でも即座にキャッチする)。

マツカワはいつしか「ジイさん」と呼ばれるようになった。

そんなある日、仲間内で短い動画を作ることとなった。
イメージしていたのは『Munchies』。いろんなアングルで撮影したものをテンポよく繋げて臨場感を出す感じにしたかった。

そこで白羽の矢が立ったのが、マツカワだった。
実はマツカワの趣味は映画鑑賞。とくに単館系のマニアックなものが好きで、1日2〜3本の映画を観ては、せっせこFilmarksに記録している。

「あれだけたくさん映画観てきたんだから、ジイさんでも撮れるはず」

そう打診すると、慎重派のマツカワにしては珍しく二つ返事で引き受けてくれた。

「おっけ〜〜。はじめてだけどちょうせんしてみるわ〜〜」

そして撮影当日。
カメラを持つマツカワの手が明らかに揺れていた。普段マウスをいじるだけのマツカワにとって、一眼レフはあまりに重いらしい。かつ同じ位置に棒立ちしている。バッテリーも途中で切れたという(予備はどうした)。

ただそれでも彼女は涼しい顔をしていたので、きっと何かしら勝算があるんだろうと思っていた。いたのだが。後日、笑えるくらいブレブレの動画が送られてきた。生(き)のままかよ!

ちょ、ジジイッ!!!

これをもってマツカワはジイさんからジジイへと降格したが、本人は何も気にしていなかった。

「ちょうせんすると言ったけど、できるとは言ってない」

おっしゃる通りだ。
ジジイはジジイの世界に生きている。
我々の完敗だった。



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