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ピーテル・パウル・ルーベンス / メトロポリタン美術館
自分、不器用ですから(検尿)
進化している、検尿が。
倒置法で言うほどではないが。
自宅でできる健康診断を受けるにあたり、知った。
昔は紙コップにそれなりの尿を注ぎ、こぼしたらおしまいける…と緊張しながら提出したものだが、いまは少量…採尿器の深さ1cm程度あればいいらしい(メーカーによる)。
私が使ったメーカーの採尿器は、タンポンサイズの、試験管みたいな底が丸くなっている形状で、小さい透明の筒(採尿器)に直接尿をかけられ、それより少し大きい筒がフタになっていた。フタを反対側にして採尿器にはめ、採尿時に手に尿がかからないしくみになっている。
ただ、尿を入れるにはコツがいった。壁掛けの一輪挿しみたいな形状なので、息を止め、なんとか的を外さず入れねばならない。
うまく入った〜と思っていたら、ポトリコ…。
入れた尿が重すぎたのか、はまっていたはずの採尿器が便器に落ちてしまった。
〈ひんっ〉
小さい叫び声を上げた。
私は潔癖の気がある。
〈大丈夫だ問題ない〉
脳内で声が聞こえた。
なのでとりあえず残りの尿を出すことにした。それからふいて、パンツを上げた。そうして最後に容器を引き揚げた。
〈合理的合理的〉
そんな励ましの声も聞こえてきた。
けっこうな泣き顔だったけど。
そんなことがあり、翌朝めちゃくちゃ緊張してリベンジした採尿は、あっさりできてしまった。手袋をし、ラップを床に敷き、爆弾処理班のごとく臨んだのに。
肩透かしをくらった感じだったが、その後の高揚感はすさまじかった。温かい尿が入った封筒を持っているだけで、背徳感と無敵感がむくむくと湧き上がるのだ。
なお、最寄りのポストの向かいには交番がある。
〈おまわりさ〜ん、私、危険人物でぇ〜す〉
ちょけた声が聞こえる。
1週間後、結果が届いた。
腸内環境レベルがD。たしかに要注意だった。