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Zipparに期待をよせる

日本のロープウェイ

 いわゆるロープウェイ(索道)は、これまで大別して2種類程度しかありませんでした。2つのカゴが往復する「交走式(つるべ式)」と、スキーリフトのような「循環式」です。

交走式の例

六甲有馬ロープウェイ 所要時間は約12分、運転間隔は 片道約20分。
高低差 441.30m、水平長2702.22m。最急こう配28度.17分、支柱数7。
1カゴあたり定員は42名。運転速度は5.0m/s (時速換算 約18キロ)
1時間あたりの輸送量は 片道理論値136名。

循環式の例

YOKOHAMA AIR CABIN 所要時間は 片道約5分
高低差約40m、水平長630m。支柱数5。
1カゴあたり定員は8名。運転速度約9キロ(秒速換算 2.5m/s)
1時間あたり最大輸送量は、 片道公表値2400人。

 交走式は2つのカゴが両端から同時に発車することで、バランスを保っています。そのため、運転間隔が長めになります。そのため1度に大量の人数が運べるよう、大型のカゴが選ばれる傾向があります。
 それでも大量輸送には限度があるため、特定の時間に大量の人数を運ぶことは苦手です。

 循環式はほぼスキーリフトと同じ構造です。小型のハコをいくつもロープに繋いで循環させて運行し、常に同じ負荷になるようにバランスを取っています。安定的に利用者の多い場所で有利です。
 その一方で、天候不順などにより極端に利用者が減った場合でも稼働数を減らしたりすることが難しく、過剰輸送になりやすいことが課題です。

 そして、これらのロープウェイには共通した弱点があります。
それは、ルートに曲線が作れない・分岐を作れないということです。

箱根ロープウェイ大涌谷駅。駅ではロープとは別の軌道に切り替わり、上に見えるタイヤのコントロールによって走行する。これにより、乗降時はカゴがゆっくりと動く。

 たとえば、箱根ロープウェイは全長約4kmとかなり長大です。これらの区間を全て直線で結ぶことは不可能なため、大涌谷駅で2つの路線に分けて運行されています。更に大涌谷~桃源台間も一直線ではなく、途中の姥子駅で約30度曲がっています。

 これは、姥子駅でロープ自体が大涌谷方面と桃源台方面で2つに分かれており、駅構内では専用の別のガイドウェイを使って走行。その後次の目的地のロープにカゴ自体が乗り換えることで、曲線移動を実現しています。
 つまり、路線としては曲線があるように見えて、ロープ自体は直線でしかないのです。

 このような工夫をしないと、ロープウェイで曲線区間を作ることはかなり難しいと考えられます。同様の理由で、分岐して枝線を作るようなことも難しかったと考えられます。

 これらの問題を克服し、ロープウェイ界に一石を投じると期待されているのが、冒頭の動画の Zippar です。

Zippar

 Zipparは、ロープウェイと同様ロープを軌道として活用して走行します。
一方、ロープウェイと大きく異なるのは、自走型であるという点。つまり、ロープ自体は動かず固定され、車輪の動力によって”走行”します。

 また、自走型であるという特徴により、曲線を設けたい区間にはロープではなく、鉄道のような軌道を敷設することで、容易に曲線区間を作り走行することも可能です。この場合には鉄道、もしくはモノレール(特に懸垂式)とよく似た構造となります。

ロープウェイ(交走式)…ロープ自体が動き、往復する。カゴは無動力。

ロープウェイ(循環式)…ロープ自体が動き続ける。カゴは無動力。

Zippar…ロープは固定されて動かない。カゴの動力で自走する。

モノレール・鉄道…固定された軌道に、カゴ(車両)の動力で自走する。

 では、モノレールや鉄道とはどう異なるのか。メリットデメリットは何なのかについてを考えてみましょう。

鉄道、モノレールとの違いは?

鉄道を作るメリット

 鉄道は、大量輸送に特化した輸送機関です。これは旅客だけでなく、貨物においてもそうです。海路を除けば、1回あたりの輸送力は鉄道が最大と言っていいでしょう。
 更に既存の鉄道と接続することで、他の都市と相互にダイレクトアクセスが可能となります。

 大量・直結、これが鉄道を作る場合の最大のメリットです。

線路が繋がる限りどこへでも直結、大量輸送。それが鉄道の強み。

鉄道を作るデメリット1

 鉄道のデメリットは、大量輸送がゆえの巨大なコストです。
鉄道は建設したら完成、で終わりではなく、軌道、駅、土木など、自社で保有・保守・管理しなければならない物がたくさんあります。そのため、完成後も一定量のコストがかかり続けますから、それに見合った収入が無ければ黒字化できません。

 地方に存在するローカル線の大半は「かつての黒字路線」を継承している物です。当時は「黒字」で、今は「赤字」の路線が残り続けているのも、一種の日本人特有のもったいない精神の「遺物」とさえ言えるでしょう。
 それゆえに、これから新規に鉄道を敷設することはかなり慎重傾向であり、よほどの大型案件でなければ難しい状況が続いています。現代では採算性が非常に厳しいのです。

ローカル線の多くは「”かつて”の黒字路線」。
今も同じ条件で利益を出すのは、ほぼ不可能。

モノレールのメリット

 モノレールは、鉄道よりも簡便な輸送機関として期待され、昭和中期頃に活発に建設されました。鉄道よりも有利な点としては、急曲線・急勾配が作りやすく、路線の自由度が高いことです。

 特に懸垂式を採用した千葉モノレール、湘南モノレールはその大半が道路上に建設されており、デッドスペースを活かした構造となっています。

 発展型として、更に簡便化した「新交通システム」と呼ばれる交通機関も登場し、主に大都市などで採用されています。

新交通システム舎人ライナー
自動無人運転で、モノレールの進化系の1つともいえる。

モノレールのデメリット

 モノレールも基本的には大量輸送を目指しているため、車両には大型の物が使われ、その重量に耐えうる堅牢な橋脚が必要です。たとえ鉄道より小型だとしても、やはり維持管理コストが発生することは避けられません。

 さらに、鉄道とは異なり独自の規格を採用することになりますから、基本的に他社線への乗り入れができません。(よほど条件の揃う路線が近接していれば話は別ですが...)したがって、鉄道のような拡張性は期待できず、輸送規模はある程度の上限が見えてしまいます。

懸垂式の湘南モノレール。
道路上のデッドスペースを活かせるが、極めて堅牢な柱や軌道の建築が必要。
独自な構造もあり、拡張性に難あり。

では、Zipparなら?

 Zipparの定員は約8名。カゴ1つあたりの重量は、鉄道やモノレールの車両に比べればかなり軽量そうに見えます。したがって、支柱などの構造物も鉄道やモノレールほど堅牢な物は必要なさそうで、建設費だけでなく維持コストの削減も期待できそうです。(これは運行本数などにもよるかもしれません)

 また、鉄道やモノレールの場合、軌道が鉄やコンクリートと言った重量物であるため、支柱の建設間隔はよほどの長大橋脚で無い限り50mに1本程度は必要です。
 Zipparの場合、ロープ軌道ならば鉄やコンクリートよりも明らかに軽量ですから長大スパンが実現しますし、支柱の設置間隔も少なくて済むことでしょう。
 これらのことから、まず初期の建設費用を格段に安くすることができると考えられます。


エスカレーターとエレベーター の進化系?

 また、Zipparが想定している乗車口スタイルには2種類あるようです。
大規模輸送を想定した降車口と乗車口が分かれた「低速スルー」タイプと、
小規模輸送、もしくは優先乗車を想定した「一旦停止」タイプです。

 詳しくは冒頭の動画を見ていただければわかるかと思いますが、イメージとしては前者がエスカレーター、後者はエレベーターが近いでしょう。

 そもそもZippar自体が、”横に動くエレベーター”に近い物を目指しているように思います。


 自動運転
 分岐(複数の目的地)に対応
 需要がある時だけ運行


 特徴を書き連ねると、エレベーターとよく似ていることがわかります。
違うのは目的地が上下にあるか横にあるかですし、Zipparもやろうと思えば上下にも動けることでしょう。


どこに導入しうるか?

 さて、これだけ褒めちぎったZipparですが、実際の所どこに導入しうるでしょうか?

 既存の鉄道、モノレール、ロープウェイを丸々置き換えられるか?と言うと、それは違うと思います。

 Zipparはその構造上、すし詰めの混雑状態は不向きであると考えられます。したがって、輸送量にはある程度の上限が考えられますし、大量輸送需要は引き続き鉄道が担うべきであると考えられます。

 また、極端に地表までとの距離があるロープウェイにも、Zipparは不向きであると考えられます。自走式である以上、ロープ軌道からの脱線というリスクも考える必要がありますから、ある程度の保安が保たれた路線であることが望ましいと考えられます。

Zipparはこういう場所には不向きかもしれない。(箱根大涌谷)

 以上のことから、Zipparの導入に向いているのは下記のような路線であると考えられます。

Zipparの導入に向いた路線

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