Train Simulator 山手線配信で思うこと
STEAMで配信中
ご存知、JR東日本が公式の実写映像を使った「運転シミュレーター」です。
多数の路線追加DLCが配信されており、7月25日にDLC第7弾「山手線(内回り)」が配信されました。
最近では運転士気分が味わえる、手袋や行路表ケースなどのグッズも発売されていて、なかなかJR東日本側も気合を入れて展開していることが伺えます。
運転席の後ろにも広告が
実際にJR東日本の列車に乗ると、運転席後ろの広告スペースによくこのソフトの広告が貼られています。たしかに効果バツグンの位置でしょう。
そしてそれを見た子供達からは、「いつか将来はJRの運転士に」と考える子達も現れることでしょう。
誰のためにこのソフトを発売したのか?
ただ、どんこめも元電車運転士として、このソフトについて前々から思う所がありました。特に今回配信された山手線の内容を見て、ますます複雑な感情にかられているのです。
ずばり、このソフトは「誰のために」発売されたのでしょうか?
社員を増やすため?
たとえば、このソフトを通じて電車の運転に興味をもった子供達が、将来JR東日本の社員になってくれることを願っているのでしょうか?
もしそうなのだとしたら、おそらく子供達が運転士になれる頃には、ゲームとは全く違う仕事になっているかもしれません。
山手線にはTASCというシステムが搭載されていて、これはゲームでも再現されています。デフォルトではオフになっていますが、設定で有効にできるそうです。
TASCは「定位置停止装置」、つまり駅停車時に自動で正確な位置に停車してくれるシステムです。
電車の運転において一番難しいのは駅停車時のブレーキ扱いでしょう。それを自動化してくれるシステムなのですから、運転士としてはこれほどありがたい物はありません。
一方でそんな物をゲームで使ってしまえば、半分はやることが無くなってしまうことでしょう。加速した後はただ流れる風景を見るだけになってしまいそうです。
そして電車というのは加速時の操作ではそれほど個人差が出ないもので、その分自動化もしやすい所でもあります。現実の山手線でも、発車から停車まで全てを自動で行う、ATOというシステムを使った試運転が行われています。
もうおわかりでしょうか?
電車の運転というのは、大手ほど自動運転化が進んでいくと考えられます。
必然的に運転士という職業も、だんだんと枠の狭い世界となっていくことになります。
これは都会の大手幹線だけでなく、地方路線も例外ではありません。
JR九州では踏切のある非電化路線で、蓄電池方式の電車を使った自動運転の実証実験を実施しています。
今のところは大きなトラブルは特に起きていないようです。
ワンマン化、自動運転化が全日本的に浸透していけば、必要な運転士も減っていくのです。
だとすれば、将来の運転士候補、あるいはJR東日本の社員の種を蒔くためというのは、このゲームの目的とは違うような気がします。
利益貢献?
このソフトは、早期アクセス版が980円で発売され、製品版へ無料アップデートして安く購入することができました。
その後、各路線データが2,980~3,980円で追加販売され、発売中のDLC全てを揃えると軽く2万円が必要となる販売スタイルです。
steamユーザーは全世界で3000万人がいると言われており、もしその全ユーザーが全DLCを購入したら、約6000億円の売上を出すことができるでしょう。
ただし、それはまずありえないでしょうし、早期アクセス版のみしか購入していない人ばかりであれば、売上はぐっと下がるはずです。
それでも1%のユーザーが早期アクセス版を購入したならば、約3億円。
ゲーム業界ならばそれなりのヒットした数字かもしれませんが、鉄道会社の売上の足しと考えると、かなり小さな金額です。何しろ以前のJR東日本は、単年売上3兆円規模の企業でした。
それに、プレゼントを除いて同じ人が2度買うことも基本的にはありえませんから、新しいDLCを出し続けない限りは、売上はどこかでストップします。毎年期待できる売上ではありません。
こう考えると、JR東日本がお金欲しさに販売した、という理由も弱いのです。
電車でGO!!の立場は…
もう1つ無視できないのが、電車でGO!!です。
2017年に10数年ぶりの新作アーケード版、ゲームセンターでも巨大な筐体が目立つでしょうから、それなりに知名度はあるのではないかと思います。
のちに家庭用移植版として 「電車でGO!! はしろう山手線」が2020年に登場しています。
TrainSimulatorとは長年のライバル関係でありましたが、いよいよ内容まで被り始めました。
電車でGO!!は、ゲーム性を強くするために、旧作よりも速度や時間調整、指差称呼の動作などを点数方式で取り入れています。
ところがTrain Simulatorでは、これらの要素はそこまで重要視されていません。元々が運転士教育用ということもあって、信号確認さえ声を出すこともありません。
方向性が違うとはいえ、どちらも同じ運転ゲームなのに全く違う性質の物
となってしまっています。
つまり片方は嘘、ニセモノの運転ということが際立ってしまうのです。
正直、一緒にゲームを作っていた人達は開いた口がふさがらない思いだっったのではないかと思います。(同時進行でそんな物を作ってたのかよ…)と。
これが原因かはわかりませんが、半年に1度のペースで追加されていた電車でGO!!の路線追加は、2022年4月の山手線池袋→新宿間を最後に、1年以上止まったままです。
なお、Train Simulatorは2022年11月に正式発売されました。
(早期アクセス版は9月20日発売)
運転士になりたいひとたちへ
おそらく、鉄道の運転士という職業は今後も「ゼロにはならない」と思います。ただ、現在と同じ仕事内容であるとは限らないでしょう。
ワンマン運転が基本というスタイルがより定着し、自動運転の導入が進み、導入不可の路線はより細心の注意が必要な路面電車のような難しい運転環境であることが予想されます。
ハッキリ言って仕事がキツい所でしか、運転士の仕事は残っていないかもしれません。
どんこめが運転士を退職した4年前と比べても、目に見えて環境が変わっているなと感じています。現場の人達は尚更強く感じているでしょう。
それでも運転士を目指す人達は、おそらく鉄道が好きで好きでたまらない人達だと思います。そういう後輩たちを何人も見てきました。その好きで好きでたまらない気持ちを、どうか失わないでほしいと願います。
願わくば鉄道会社におかれましては、そういった人達への希望に応えられるよう、せめて賃金面など不満の出ないような労働環境を整え続けてほしいと思います。
※この記事は7月当時に書きかけだったものに加筆修正したものです。
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