『竜の卵』ロバート・フォワード◆SF100冊ノック#25◆
■1 あらすじ
ブラックホールについて論文を書いているジャクリーンは、ある日、衛星からの観測データの「かすれ」から、小さな中性子星、パルサーを発見する。しかもその星は、地球のかなり近くを通過することが分かった。見つかったのは「りゅう座」の方角であることから、そのパルサーは「竜の卵」と名付けられた。
発見から30年後、ジャクリーンの息子ピエールは宇宙船で、地球に最接近する「竜の卵」の観測に向かっていた。たった半径20キロしかない「竜の卵」は、1秒間に5回転し、地球の半分ほどの質量を持つ不思議な天体だった。パルサーから数十キロの場所まで近づき、調査を開始した観測船「ドラゴンスレイヤー号」は、ある時驚くべき観測結果を得る……
■2 空想科学小説
科学的なアイディアがまず中心にあって、そこに物語が付随しているタイプ……という点で、『地球の長い午後』や『ブラッド・ミュージック』に近いカテゴリに入る作品。「ハードSF」ってくくりはまたちょっと違う気もするのだけど……
好き嫌いでいったらあまり好きではないタイプなんだけど、後半ちょっと面白くなるところもあった、という程度、地動説と天動説が入れ替わってるところなんかはシャレが効いていた。著者は実際に科学者ということで、中性子星の話だけではなく、論文の業績を教授のものにされたり、資産がなければコンピューターが動かせない、みたいな裏話っぽいところも楽しい。
理系はあまり……という方は、ある程度読み進めたところで、巻末の補遺部分を読むとだいぶイメージしやすくなるはず。
■3 異なる存在の目線から世界を見る
さて、この物語のウリの一つが、「全く異なる存在の目線から世界を見る」というところにある。これをじっくり時間をかけて、本当に自分がその世界を旅するかのように読む……というのがこの本を楽しむこつ。ストーリーテリングが好きでスピード上げようとするとつまづきます。
僕としては、ウサギの目から世界を見る児童文学『ウォーターシップダウンのウサギたち』を強烈に思い出していた。よくある動物物語ー動物が考えるけれど、どこか人間の視座を持っているものーと違って、この物語ではウサギの知覚、ウサギの身体感覚を元に世界を眺めている。「船が川の上を移動する」ことを理解できずに戸惑うウサギの姿はとても楽しい。この意味では、先日の『ヴァーチャル・ガール』でも、ロボットの知覚を元に世界を見る描写とも通じるかもしれない。
苦手なタイプといいつつ、ラストの「邂逅」のシーンは非常に心に残る。「彼らの文明は私たちを追い抜いていったよ」と話すときの人類の言葉。100万倍の速度で生きる存在との出会い、という複雑な出来事が、そこまで積み重ねてきた物語のおかげでクリアに楽しめる。
知的生命体チーラがたどり着いた様々な技術よりも、「さあ、どちらが先にまばたきをするか勝負しようか」と語るチーラの宇宙飛行士の優しくユーモラスな言葉に、「人間性」を感じていた。