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見たことがないスポーツ   #毎週ショートショートnote

高い壁に囲まれたその場所からは、青い空を見上げることしか出来ない。
その限られた空間の中に置かれたトレーラーハウスの一つで、私は妻との生活を送りながら、太陽の動き、星の動き、風の匂いを脳に刻んだ。

ここには、国を代表して多くの夫婦が送られてきている。
ある満月の日から、我々はこの限られた空間の中で妻との愛情を深めていった。

そして2度目の満月の日、妻との別れがやってきた。
皆、妻との別れを惜しむように抱き合っている。
私たちは目隠しをされたまま、半日ほど大型バスでの移動を強いられた。

視界が自由になったのは、真っ白な個室の中であった。
そこで出された夕食のジビエ肉に食らいつき、野性を目覚めさせる。

明日の朝には、何もない草原に放たれ自由となる。
地図もコンパスも持たず、己の感覚を研ぎ澄まし、空を見上げ、自分の信じた方向へその一歩を踏み出すのだ。

最後の夜、強く抱きしめた妻の耳元で
「必ず一番で帰ってくるよ。」
の言葉を実行するために。

410文字
 
子供のころに飼っていた伝書鳩
帰巣本能を強めるためにツガイにし、場合によって抱卵させるようにしたりもした。
そんな帰巣本能を競う競技が人間でも可能なのか?
 
久しぶりの投稿、よろしくお願いします。
画像は、Lucaさんの「木陰で」を使用させていただきました。


たらはかに(田原にか)さんの
毎週ショートショートnoteに参加しています。


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