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私とあなたの折り合い

川上未映子の「わたくし率 イン 歯ー、または世界」という小説がある。
タイトルが主題をそのまま表していると思っている。
わたくし率=自意識
イン=in
歯=her=自分自身
または=or
世界=社会
のように置き換えるなら、
「自分または社会の中の自意識」となる。
私は大学生の頃このタイトル、小説の内容に共感し、川上未映子にどっぷりはまった。

我儘で我の強い性格だから、自分の中の自意識を社会でどう折合いをつけていけばいいかいつも悩んでいたから。

なんとも贅沢な悩みだ。幼少期から自我を殺して生きていかなければならなかった人達だって大勢いたのに。
甘やかされて、田舎で、井の中の蛙のようにぬくぬくと育ってきたんだなと自分に思う。

その本を読んだ二十歳そこそこの自分と今もほとんど何も変わらない。
それなのに、結婚して子供を二人産んだ。
まだ子供に自我や自意識が産まれたばかりで可愛いものだからいいけれど、今後大きくなったら私の性の悪さとぶつかったり、それ故に傷ついたりするのではないかと心配だ。

なにより、今夫とのもめごとがとても多いから。
私の中に「思いやり」が欠如しているらしい。
相手の為にすることは、いつも私の自我に反することで妥協やあきらめが混じっている。
そんな自覚がある。
それくらい私は「私のやりたいこと、気持ち」に縛られている。
「本当は私はこうしたいのに…」
「あなたのために我慢している」
どうしてもそういう気持ちをもって共同生活をしてしまうのだ。

そんな自我の強さ、というかただの自己中心的な性格は、今までたくさんの人に指摘されてきた。
中学生の頃に、友達間の大きなトラブルを引き起こし、ものすごくショックを受けた。
その時に自分の気持ちを出しすぎるのは人を傷つけるし、何より自分が大損だとしみじみ思い、そこから友達には適切な距離を保てるようになった。
家族に対しては好き放題だけど、大学進学を機にずっと一人暮らしをしており適度な距離があるからぶつかることはない。呆れられている。
問題は、恋人だった。
歴代の恋人と散々な喧嘩をして、大暴れして、今に至る。
しかも、友達との関係とは違って恋人に関しては絶対に反省しなかった。
「私のことを完全に理解してくれる人が絶対にいる」
そう思って鼻息を荒くしていた。

それでいて、女性的にも、人間的にも魅力を磨こうともしていなかった。
ありのままの私を愛している。

包容力のある人!
そう思って選んだつもりだった結婚相手も、どうやら最近ついに堪忍袋の緒が切れたらしい。
というか、そもそも私が思っていたタイプではなかったのかも。
もっとおっとり、もっさりした人だと思っていたけど、成長意欲に溢れて勇ましい、自分勝手な男だった。

一昨日、夫に言われたこと。
「俺が死んだらどうなるか考えているのか」
「~」
もう一つは忘れてしまった。
ただ、二つとも現状に感謝や謙虚な気持ちを持つようにということが本質だったように思う。
ちなみに夫はその二つの気持ちが常にあるらしい。
それがこのままずっとないなら離婚したいとまで言われた。

その時、さーっと気持ちが引いてきて、思ったのは、
「あっやっぱり私の性格では受け入れられないんだ」
「この性格でいつか娘たちを傷つけそう」
の二つの気持ち。

一つ目は私が思春期に友人とトラブルを起こし、絶望して諦めた時と同じ感じ。
夫に対しても、自意識を押し殺し、多少は偽らなくてはならないな。
そういえば何気なく聞いていたラジオでジェーン・スーさんが言っていた。
「パートナーを大切な同性の友人のように扱うこと」って。

本当にその通りで、大切な同性の友人には地雷を踏まないようにかなり気を付けるし、一緒に過ごしていても相手も楽しんでくれているか気にするし、贈り物も慎重に選ぶ。もちろん、めちゃくちゃ爆笑して楽しい時間も一緒に過ごせる。思想が完璧に一致することなんて求めないし、むしろ違う考えを聞けて視野が広がって嬉しいとすら思う。でも、傷ついたことや大変なことには共感して欲しい。
そういう気持ちで夫と接することは全くできていなかったな。
いつも、私を分かって!認めて!って気持ちでいっぱいだった気がする。

もう一つの娘に関わることは、もっと深刻だ。
こんな風に大切なひとと傷つけあっていたら、いつか娘ともぶつかるかもしれない。その時に、私の性格が悪すぎて拒絶されたらものすごく悲しい。そのために、自分の性格を変えていかなければならないと思った。
そもそも、夫との喧嘩の絶えない生活を娘たちに見せたくもないし…。

こう書いていて思ったことは、私の人生において娘たちは替えの効かない存在だけど、夫のことは別の人がいるかも…と甘ったれた気持ちがあるのかもしれないということ。
私を理解してくれる人、愛してくれる人は別にいるのかも!

そんな少女漫画の幻想に取りつかれた30代半ばの冴えない女(おばさんという言葉を自虐的に使うのは好きじゃないから使わない)が果たして、人として魅力的なのか?

夫の言う通り、私は彼を大切にしていないのだと気づく。
だって「替えが効く」と思っているのだもん。

夫婦生活、学ぶことが多いです。
自分らしさ、自分の気持ちに囚われずに、緩く優しく、いい意味で諦めていきたい。

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