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雨に降られても味方はいる

 外に出ると、引くくらいの土砂降りだった。
 草木はもはや垂れる頭を上げられず、コンクリートはその身を穿たんとする雨垂れに絶叫している。
 災害である。台風9号の接近に伴い、豪雨と暴風が日本列島を襲った。しかし襲撃も束の間、人々が主だった活動を始める時間、午前9時頃に9号は温帯低気圧へと変化していったとのことだ。
 これは、その午前9時以前の話。まだ豪雨が幅を利かせ、暴風が己が身を振り回していた頃に行動を始めた、哀れな男の回顧録である。


 午前5時。前日の睡眠過多が祟り、自然と目が覚める。時間帯の割に冴えた目を擦りながら、リビングへと降りる。既に母と飼い犬は目覚めており、待ってましたと言わんばかりにキャンキャンと吠えられた。ソファに座り、グラブルの日課を消化する。
 


 午前6時半。半分寝ていた。やばい、遅刻だと叫びながら飛び起き、身支度を始める。そう、今日は珍しく用事があった。『劇場版 少女歌劇レビュースタァライト』を観る、という用事が。
 シャワーを浴び、着替えて荷物を調える。朝の報道番組では何回目かの女子バスケットボールの快進撃が報道されていた。だから天気なんて気にする余地もなかったのだ。本当だ。
 急いで身支度を済ませたおかげで、時間にかなり余裕ができた。何も食っていないが、どうせ腹の調子が悪くなるだろうと予見し、早めに家を出ることに決めた。靴を履いて、ドアを開けた。次の瞬間、


 ドボガガガガガガガガガガガガガガガガガ

 

 呆然とする、という言葉はまさにこの時の俺にこそ相応しいだろう。その場で10秒ほど立ち尽くした。背後には、俺を見送りにきた飼い犬がキョトンと首を傾げている。とりあえずひと撫で。
 キャンセルを考えた。当たり前だ。こんな雨の中、映画を見に行くバカはそうそういない。いたとしても、映画バカか雨好きのバカしかいないだろう。
 無論、俺はどちらのバカでもない。
 
 
 俺は、第3のバカだった。「クレカ支払いしちゃったからもったいない」理論を振りかざすバカとは俺のことだ。1900円とずぶ濡れを天秤にかけ、1900円を選んだバカだったのだ。


 意を決して、滝のような雨の中を歩き出す。
 5歩で靴下が濡れた。10歩でズボンがびちゃびちゃだ。1,2分もしないうちに、俺は全身雨水に塗れ、ぐじゅぐじゅと音を立てて歩くことになった。
 それでも雨に慣れてきて、ここまで濡れると逆に気持ちいいな、と思っていた次の瞬間、地獄が眼前に広がった。
 
 
 池ができていた。
 そこは凹型に高低差ができたトンネルの出口。排水溝から雨水が溢れ出し、逃げ場を失った水達が集い、凹の字の右側部分を支配していたのだ。
 茫然自失、この時の俺を表現するなら、この言葉しかない。引き返すか迷ったが、その道しか目的地に辿り着くルートはない。覚悟を決めて、雨の被害が少ない所を歩き始めた。
 
 
 靴から液体が滲み出したのはいつぶりだろうか。多分高校の部活の時、夏合宿で死ぬほど汗をかいた時以来だ。あの時は靴裏から汗が滲み出して、何をしても滑っていた。同期からも嫌がられた。俺も嫌だった。軽いトラウマだ。
 激しい嫌悪感とやりきれない虚脱感で、家から出て10分、俺のメンタルはズタボロだった。なんとか電車を乗り継ぎ、映画館に着き、トイレで靴下を絞りながら「俺、1900円のために何やってるんだろう」と己の愚かしさを悔いた。
 
 
 映画館を出ると、空は腹立つくらいにカンカン照り。映画が良かったから怒りが相殺されたものの、どうしようもないくらいに俺の心は曇っていた。太陽はニコニコサンサン、ピーカン照りのパッパラパーである。俺の頭もパッパラパーになるくらい疲弊し切っていた。


 しかし、俺には味方がいた。心強い味方が。
 それは、



 たべる牧場ミルクである。

 帰りにたべぼくミルク2倍を買って食ったら幸せになった。不幸なんてたべぼくミルクがあれば吹き飛ばせる。俺はこのために外出したんだ。そう思うと何もかもを許せるようになった。

 たべぼくミルク、みんなも食べよう!!


 

 おやすみなさい。

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