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言うつもりのない『ごめんね』~友人と偶然に遭遇した日

その日 私は 市内のショッピングモールを歩いていた。
ここで使える 1000円のクーポンが 当選したのだ。
せっかくだから 日用品などでなく、贅沢品を買おう。そう決めていた。
贅沢品といっても 1000円がoffになるだけ。
ちょっといい ハンドクリームとか、プチプラの化粧品が いいな。1000円より少し高いもの。
そうすれば 差額 数百円払うだけで買えちゃうもん。

などと とにかく思考がセコい。
私の買い物はセコいのだ。

売り場に近づいた時、見覚えのある人物が こちらに向かって歩いてくる。Yちゃんだ。私は一瞬にしてわかった。
私は彼女に話しかけづらい。10年以上前のできごとに負い目を感じていたからだ。
だから 申し訳ない と思いながらも 知らんぷりをした。

すれ違って 内心『良かった。私だと気が付かなったみたいだ』とホッとしている自分。でもすぐさま
『どんちゃん?!』と 背中から 私を呼ぶYちゃんの声。向こうも気がついたみたいだった。私は 今更ながら気がついたように『Yちゃん?!』と応じた。

私は普段から こういうシチュエーションが苦手だ。
知らない訳ではなく、それほど親しくもなく。
でも一応 友人。
私は友人が多い方ではないので、ありがたい存在なのに、なんて偉そうなんだろう。

Yちゃんはあの頃と変わらず たくさん話をしてくれた。私は Yちゃんと、に関わらず聞き役になることが多い。彼女のテンションを下げまいとして オーバーリアクションになる私。10分くらい立ち話をして『じゃあ またね』と別れた。これはこれで楽しかった。

Yちゃんと私は 趣味のスポーツクラブの仲間だった。ある時 年に数回ある試合のメンバーを決める時に、私は彼女と同じチームに NGを出した。ものすごく身勝手なんだけど、彼女ではない 別の人が同じチームの方が 試合に勝てるし、プレーしている私も頑張れる。そう思った。

彼女は何も言わなかった。
代わりに 私の中に 引っかかるものが うまれた。

チームは違えど クラブでは顔を合わせる。私は自分の引っかかった気持ちを 表には出さないように彼女と接した。彼女も 気にしていないように見えた。

彼女はあっけらかんとした性格。けれど 繊細な部分も持ち合わせている。それを知っているのに…

『あの時はごめんね』
言うべきなのだろうか。
いや、彼女は気にしてないよ、きっと。
もう一人の私がささやく。

私は人から『優しいね』『思いやりがあるね』言われることがある。実際 人には 優しく 思いやりをもって接することを心がけている。しかし、それは取り繕っているのであって、内面はドロドロしているのだ。

結局 Yちゃんには『あの時は…』の話はしなかった。気にしてないよ、とささやく方が勝ったのだ。謝るつもりがないのだ。

『あの時』から 何年経っても 私は 自分で作ってしまった「引っかかるもの」と生きている。

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