達人

明石は立呑が多い。ここでいう立呑とは酒の販売店が傍らでやってるもの。
簡単な袋物のつまみや缶詰だけのところから、居酒屋顔負け豊富なメニューのところもある。
明石市内に立呑は30軒近くあるとか。私ももっぱら立呑に。

最近なぜか会えぬ達人に。何の達人かって、決まってる立呑の達人。


年のころは65過ぎコールテンの上着とコールテンのズボン、丸眼鏡。
午後6時ぴったりにきて
濁り酒 コップ半分と6Pチーズの1ピース。150円、さっとカウンターにおいて
まず一口、酒を含み、チーズを半分。酒を半分飲んで、チーズ完、ついで酒完。
そしてさっと帰ってしまう。その間1分30秒。
なんと見事な呑み方だろう。なんという節制。これぞ達人。
達人を見ると私もコップ2杯で打ち切ることができた。
それが去年の秋口からか、ぴたりと達人をみなくなった。
それから私の呑む量はだんだん増え歯止めがきかなくなってしまった。
その日も午後になっても昨日の酒が残っていた。
それでも性懲りもなく立呑に向かう
反対の歩道をもうすっかりできあがってふらふら歩いている男がいる。
あー危ない。縁石につまずいちまった。あれ眼鏡がはずれちまった。
「おっちゃん大丈夫かい」と思わず。
男は眼鏡をひろうとしてまたころがった。
見かねて車道を半分わたったところで、トラックに阻まれた、
やっとトラックが通り過ぎた。
男は立ち上がってふらふら歩き始めていた。
コールテンの上着、コールテンのズボン。

読み切り。投げ銭スタイル。

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