介護の話「99歳の友達」
とある介護事業所で責任者をしながら10年を振り返る男、Tatsuyaです。
「サービス提供者と利用者」
介護従業者の方々は利用者さんとどのような距離感を保っていますか?
正直、介護職員と利用者さんは「店と客」の関係とも言えます。
介護サービスという商品を売る人と買う人。
そこにサービスとお金が発生している以上、そう表現せざるを得ません。
むしろ、それが本来の形です。
そのため介護業界にも「利用者様」「お客様」として関わりなさい。という方針を職員に課す事業所はあるかと思います。
「一緒に過ごす」
グループホームはいわゆる「入居系」のサービス。
家賃を払って部屋を借り
介護サービス費を払って介護を受け
食費光熱費を払って一緒に食事をする
昼は三人、夜は一人の職員が常駐し、他8名の利用者含めて常に誰かがいる環境で生活します。
私の月の勤務時間は160時間〜200時間。
年間だと1920時間〜2400時間。
10年だと20000時間以上を利用者さんと一緒に過ごすことになりますね。
人間ですから当然それだけ長い時間をずっと「店と客」なんて関係でいたら互いに疲れてしまう。
「介護の楽しさを教えてくれた」
それまでの私は介護が嫌いでした。
それはもう大っ嫌い。
詳細は省きますが、私は望んでこの仕事に就いたわけではありません。
しかしこの99歳のおばあちゃんがお年寄りとの会話の楽しさを教えてくれました。
最初は少し小馬鹿にするようにおちょくっていた私でしたが、気付いたらそのおばあちゃんが私との会話を楽しむようになり、いつの間にかじゃれ合える関係になりました。
本来お客様である利用者さんを小馬鹿にするなどあってはいけないことです。
その時の私はしてはいけないことをしていた自覚なんてありません。
しかし気付いた時には私とおばあちゃんの間に信頼関係が生まれ、私が来るのを楽しみにしてくれるようになった時、店と客ではなく人と人で関われるようになったのです。
私はそのおばあちゃんと話すのが楽しくて仕事に向かうようになりました。
「終の住処」
グループホームはその人が終わりを迎えられる終の住処(ついのすみか)と呼ばれることがあります。
「気の許せない他人のいる家なんて安心できない」
誰でもそうですよね?
そのために私たちは利用者さんにとっての「隣人」「友人」「第二の家族」を目指し、ホームが利用者さんにとっての「私の家」になるよう信頼関係を築いていきます。
「36歳と99歳の友人関係」
入居10年のうち後半4年くらいは認知症進行もあり、段々と会話が難しくなっていました。
それでも私は彼女とじゃれあうことが楽しく、私の人生で最高齢の友達だと思っています。
彼女自身が私をどう捉えていたのかはわかりませんが、心を開ける相手であったことは間違い無いと確信できています。
だって、私が夜勤の時、興奮して全然寝てくれなかったですから😂
「最後の時」
そんな彼女が弱々しい呼吸でも必死に酸素を取り込み、少しずつ状態が悪化してから7時間もの間一生懸命終わりに向かう姿に「頑張れ」という思いはなく、手を握りただただ「楽しかった」「ありがとう」「頑張らなくていい」と声をかけていました。
夜中の1時頃からバイタルは取れず手足にはチアノーゼが出てサーチ(血中酸素濃度を測ること)も反応せず目は見えていたか怪しい様子。
スタッフにはさらに呼吸が浅くなった夜中の3時にメールをし、夜中であるにもかかわらず近隣に住む二人のスタッフが駆けつけてくれた。
そして状態悪化から7時間後
4/7 朝の5:10
最後に大きく一つ息を吸い
彼女は99年の人生に幕を下ろしました。
表情に苦痛は一切感じられず、眠るように旅立たれました。
「介護の仕事」
看取りケアはどこでもできることではありません。
病院であればホスピスと呼ばれ、医療的な苦痛緩和ケアを行いながら終わりへ導きます。
しかしグループホームでの看取りケアは医療的な処置は行わす、「私たちがそばにいる」と声をかけながら人間本来の自然な死へ導きます。
私は介護の仕事が特別な仕事であると思っておらず、世間の方々が「立派な仕事」と口を揃えて言うようなものを感じていません。
現在の私は好きでお年寄りのお手伝いをしているし、それは好きで服を売ったり髪を切ったり音楽をしたりする人たちと何も変わはないから。
しかし看取りケアだけは特別。
医療とは異なる形で一人の人間の人生の終わりを任される仕事。
こんなに誇らしいことはありません。
そして他のどんな仕事よりも責任があり、旅立たれる利用者さんにとって良き最後が迎えられた時、その度にこの仕事が最高だと思うようになりました。
今日、私は友達にそんな穏やかで温かい最後を迎えさせてやれたと思います。
明日から友達のいない仕事は少し寂しいですが、気持ち新たに笑顔でケアにあたります。
約2000文字にも及ぶ私の思いの丈にお付き合いいただき、ありがとうございました。