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合法LSD体験記

早朝5時、小指の爪ほどの紙をさらに2等分して舌に置く。
味はなかった。
効きは1時間半後に遅れてくると聞いていたから、しばらく部屋の掃除などして時間を潰して、コンビニへ行った。
レジの前で笑いが込み上げてくる。まずい。
スマホの時計は7時半を示していた。


部屋に戻ると壁紙が精密なアラベスク模様になっていた。
でも、それだけで、たいした変化なく3時間経った。

アラベスク模様
幻覚ではもっと精密でした


9時、紙をもう一枚舌に置いた。合計1.5枚

1時間ほど経ち、スマホに目をやると、文字に黄色と青のグリッチノイズがかかっている。キてる。
壁紙に目をやると、アラベスク模様が歯車のように噛み合いながら変化していることに気づく。
虹色で、ドクドク脈打つように絶えず色形を変える。
並べ替えられる模様は次第に奥行きを手に入れ、もはや映像と化していた。
壁紙の中に無数の目があった。
赤と青の瞳孔が交互に並ぶ。
ぐるぐる回りを見渡して、不意に一斉にこちらを向く。
妙に気持ち悪くて、ドキッと一瞬不安が込み上げる。
壁紙は見過ぎないようにしよう。

10時半、公園まで散歩に出る

歩きながら、手を見ると指の関節に目が浮かび上がっていることに気づいた。ベヘリットみたいでグロいのに妙に面白くてニヤける。
つまり、歩きながら顔の前で手を振り、ニヤける男。職質されなくて良かった。

ベヘリット


街路樹の影に入ると急激に憂鬱な気持ちが襲ってきた、かと思うと、日向に出た瞬間陽気で清々しい気分になる。影に入るたび交互に感情が襲いくる。なんだこれ。
一本道に差し掛かると全部日向で、清々しい気分が増幅され、体からはオーラがたちのぼり、スーパーサイヤ人になった。(気がした)
視界の端っこにも、水溜りに浮かぶ油膜みたいな虹色のオーラが見えた。
頭の回転も尋常じゃないくらい速い。

一本道を抜けるとちょっとした坂道で、5段の階段を降りるが20段は降りたんじゃないかと感じた。降りる最中、体はちいさくなり、不思議の国のアリスの世界に迷い込んだみたいだった。
坂道の先は公園だった。ベンチに腰掛けスマホを見ると家を出てから10分しか経ってなかった。1時間ぐらい歩いた気がしたんだけど。
時間の流れが遅くなっていることに気づく。
スマホの文字は高速で歪み、動き回り、蛍光色の残像を残す。
これ外に長居すると事故る、帰ろう。
帰り道では、視力が7.0くらいになってめちゃくちゃ遠くが見えたり、ビートルズになりながら横断歩道を渡ったりした。

11時、帰宅

帰宅と同時に心臓がバクバク脈打っているのを感じた。やばい気がする。

これ、俺、このまま死ぬ?

急激に不吉な考えが頭をよぎる。
飲み込まれまいと音楽を聴く。
歪んで無いはずの音が歪んでいる、聴き慣れてたはずの曲が。
どんどんピッチが下がる。
リバーブもかかり始めてもはや音楽というよりも効果音の洪水だった。
一定だったはずのリズムが刻まれていないということにパラレルワールドに迷い込んでしまったような、知っているあらゆる概念が覆されてしまったような、言いようもない恐怖を感じた。
窓から外を見ると、向かいの家の瓦屋根が見え、一瞬現実感を感じたのも束の間、頭部が瓦屋根と一体化していく。
これはやばい。
ギターを弾いて気を紛らわそうとしたが、Cコードを鳴らした瞬間、視界はイラストのように平面になり、青緑色に染まった。
元の世界に戻れないかも。
怖くなって不貞寝しようとすると、体から根が生えたみたいにベッドと体が一体化していく。
目を瞑っているのに周りの景色がサーモグラフィーみたいな色合いで瞼の裏に映る。
逃げれない。

瞬間、五感が一つの感覚に統合され、視界全体のカラフルなアラベスク模様として映し出される。
切り忘れていた音楽に合わせて音のイメージが尋常じゃない迫力と奥行きを持って映し出される。
恐怖は残っていたが目の前の光景に圧倒された。
効きのピークだった。
この状態はすぐに収まり、同時に自分が凄い体験をしたことを自覚して、すぐに書き留めたくなった。


その後、合計7時間ほど幻覚は続き、現実に戻ってきた。
体験の終わりぎわでは、まだ少し歪んだ音楽を聴きながら、強烈な幻覚世界を懐かしんだ。少し寂しかった。





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