【ネタバレ】Civil War
ここしばらく映画見に行ってなかったので、何やってるのかなと思って上映リストを見たら出て来たのがこれ。予告編を見るとなかなかに痺れる(Civilだけに)内容のようだ。
この週末は土曜にトラ仲間U原さんが歌うオーケストラのバックコーラス(!)を見に行ったり、日曜に箱ヒルを冷やかしに行ったりとなかなか振れ幅が大きかったのだが、さらに映画で締めることにした。
※以下、ネタバレを含むのでご注意ください。
大ざっぱな感想を言うと「思ってたのと違った」。想像していたのは、アメリカ映画特有の勧善懲悪的構図に民主党・共和党の対立構造や西と東の国民性の違いなどをブチ込んでグワーッと派手にドンパチしてみんなボロボロになるけど最終的にうまくまとまって「俺たち最高だぜ!」みたいな・・・全然そうじゃなかった。
というのも、制作が「A24」という独立系の制作会社で、非常に尖ったテーマの映画を作ることで最近特にコアな映画ファンの評価が高まっているらしい。
最近では「関心領域」もここの作品だった。そう聞くと改めて公開中に見逃したのは失敗だったな・・・
見ていて特に思ったのが、音楽の使い方がものすごく個性的と言うこと。普通、こういう曲は使わんやろ?みたいな。全編に渡ってパンク?っぽい、平たく言うと「めっちゃヘンな曲」ばかり使われていて、状況の異様さに拍車を掛けている。
映画って最初に様々なシーンを組み合わせて「主役は誰なのか」「いまどこに居るのか」「何が起きているのか」「これまでの経緯は」といったことを直接描かないまでも「匂わせる」ことぐらいはする筈だ。
ところが本作では「なんか分らんけどアメリカが内戦状態」ということしか分からない。そして、描写は終始それを追うフォトジャーナリストの視点しかない。だから、結局「なんでこうなったの?」とか、内戦そのものの全体感とかは分からないままである。
気になったのは、これはやっぱりアメリカ人向けの映画(当たり前と言えば当たり前だが)で、アメリカの地理とか、人種差別のリアルとか、格差社会の構図とかを解ってないとイマイチ感情移入できないところ。
例えば主人公たちが最終的にワシントン入りを目標にして移動を開始するのだが、どこそこを経由してフィラデルフィアから行くのだ、とか言ってるのだがそれが具体的にどのあたりなのかよくわからないから「んー・・・なんとなく東の方かな」ぐらいにしか思えないわけだ。
俳優さん達は意図したのかどうかは定かでないが、いわゆる世界的に有名なスーパースター的な人はいない。それが自分にとっては新鮮というか「ああ、あの人ね」という顔がないので、逆にリアルに感じた。
話は暴動(?)が起きている、ある街を取材しているベテランジャーナリストのリーと、彼女をロールモデルにしているジェシー(ケイリー・スピーニー)のやり取りから始まる。
彼らは「危ない、死ぬかもしれない」と知りつつニューヨークへ向かい、戦争終結までに大統領へのインタビューを果たすことを目的に旅に出るのだが・・・
行く先々で次々とおぞましい戦争の惨禍を目撃することになる。このあたりの描写はものすごくリアルかつ悲惨、情け容赦のない光景が繰り広げられるので、そういうのに耐性の無い人は見に行ってはいけない。下手するとトラウマになって寝られなくなってもおかしくない。
個人的には、戦争映画の金字塔と言われる「プライベート・ライアン」に匹敵すると思う(異論は認める)。
特に、冒頭にも出した赤サングラスの兵士(これが主役のキルスティン・ダンストの旦那だっていうからそれもまた凄い話だけど)が、彼らに対し「へぇお前らアメリカ人なの。そう。で、どういうアメリカ人なの?」と聞くのが例の場面。
「答えろほら。声出せよ。どこ出身なんだよ?」と銃を突きつける。サングラス越しの目が完全に座っていてメチャクチャ恐ろしい。共演者たちもあまりのエグさに、カットされてから涙を流したらしい。
これはもう主役4人のうち誰が最初に死ぬのか?というほどの緊張感だったのだが、結局「爺さんは走れないだろ、ここで待っとけ」と言われて歯噛みしていたサミー(スティーブン・ヘンダーソン)の機転でギリギリのところで切り抜けた。しかしそれがためにサミーは撃たれてしまう。
一方で、戦闘の影響が及んでいない街では全くの平穏が保たれていて、一同呆気に取られるというシーンが挟まれている。服屋の店員がさも当然のように「関わらないようにしてるだけよ」と言う。これもまた戦争(が起きている国)の一面なのかもしれない。
クライマックスは、西側の革命軍(?)が首都ワシントンに猛攻を掛け、ついに大統領を追い詰めて殺害するという、いくら何でも強烈すぎる筋書きである。
しかし、あくまで視点はリー達ジャーナリストが「戦場を撮影する」という位置から淡々と描き続けている。初めの頃は虐殺の現場で震えあがっていたジェシーがいつの間にか活き活きとシャッターを切り続け、逆にベテランのリーが過去のトラウマから動けなくなっている様が対比的に描かれている。
そして「大統領が専用車で脱出するぞ!(実はダミー)」という展開があったが、さすがに分かりやすすぎて「いや、それはダミーやろ。なんでみんな引っ掛かってんねん」という感じではあったが、さすがにリーはいち早く異変に気づきホワイトハウスに踏み込む。
衝撃のラストも、いくら何でもそんなにホイホイと「撃たれるに決まってる場所」に出ていくわけないやろ(誰がどう、についてはさすがに伏せておこう)とは思うのだが・・・演出上しょうがないか。
結局リーも(大統領も)撃たれて死んでしまう。何とも言えない虚脱感だけが残る。今のアメリカが抱える病理を抉り「ほっといたらこうなっても知らんで」というメッセージがあるような気がした。
監督はアレックス・ガーランド。他に知ってる映画では「エクス・マキナ」を撮った人らしいが、観てないのでわからない。
上にも書いたとおり、よくあるドンパチ映画でもないし、アメリカ万歳映画でもない。非常に個性的な表現手法で、どちらかというと「鬱映画」の類だと思うけど、良くできていると感じた。
これを読んでなお「面白そう」と思える奇特な方は映画館へどうぞ。
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