ジムニー5ドアはなぜでないのか?
また全然方向性の違う話を始めた。でもここは私の落書き帳だからしょうがない。興味のない方はスルーしてください。
スズキ・ジムニーについては知らない人の方が少ないと思うけど、一応念のために書くとスズキが1970年代からミャクミャクと作り続けている軽または小型の四輪駆動車である。
軽自動車とは言え、ジムニーはそんじょそこらの四駆ではなく、ラダーフレームに本格的な四輪駆動システムを備えた「ガチのオフローダー」だ。
そんな車だから、ジムニーをわざわざ選ぶ人は一部の好事家もしくは必要に迫られて乗る人たちだけにとどまっていた。
実は私もその一人で、何度か書いている「鬱で死にそうになって山の家で転地療養してた」ときに一度乗っていたことがある。
その限界集落は一応「京都市内」にあるのだが、知らない人も多いけど実はかなりの積雪がある地域なのだ。
特に引っ越した初年度の冬は強烈だった。一晩で50センチくらい積もることもザラで、庭に1メートル以上積もっているような状態が冬中ずっと続いていた。
そんなところだと、車は四駆でないと話にならない。では、四駆かつ(道が狭いから)小型で取り回しよく、あまり高額でなく、ついでに外観がショボくないクルマというと、ほぼジムニーしかなかった。
当時はジムニーについては「軽のくせに本格オフロード四駆」ぐらいの知識しか無かったが、その乗り心地について「ジムニーに乗り心地など、無い」という話だけは聞いていた(笑)。
しかし実際乗ってみると「思っていたよりはるかにまとも」で拍子抜けした。なんや普通に快適な乗用車やんけ、とさえ思った。なんせエアコンが効いたからね😆
と言うのも、それまでに乗ってたのが2気筒サンバー、初代ワゴンR、ボルボ240と言う具合でいずれもいろんな意味でお世辞にも素晴らしい乗り心地とは言えないものばかりだったから。
ただしジムニーの後部座席に押し込められていた娘たちはひどくご不満だったようで、いまだに「あれは最悪だった」と言っている。
さてそんな風に何年かで計60,000キロくらい乗って手放したのだが、グレードや走行距離とヤレ具合の割にはだいぶ買い取りが高かったのを覚えている。
その後しばらくジムニーには縁のない日々を過ごしたが、三代目JB23ジムニーは1998年から2018年までなんと20年にも渡って粛々と売り続けられた。マイナーチェンジは10型にも及ぶ。
JB23が最初に出た時は、JA11/22系の角ばったデザインから一気に丸みを帯びたモダンなフォルムになったので、当時ずいぶん叩かれたものだった。しかしさすがに20年も売り続けると、そもそもの基本骨格がジムニーそのものだったこともあって「ジムニーでないとダメ」なコアなファンを固定客としてガッツリと市場を形成していたようだ。
しかしその様相が2018年発売の現行4代目、JB64そして小型車バージョンの74シエラが出たことで激変する。
JB64のデザインは、平たく言えば「先祖回帰」だった。JA11/22系のような角ばったフォルムを絶妙にモダナイズし、フェンダーやバンパー形状で巧妙な抑揚の付け方をして、アイコニックな丸目と5スロットグリルで「誰がどうみてもジムニー」かつ「なんか良いクルマ」と思わせるものになった。
これは私がジムニーが好きだから贔屓目が入っているのも確かだが、実際このデザインはグッドデザイン金賞を受賞している。つまり私ごとき「ただのデザイン屋の端くれ」ではなく、カーデザインの専門家の方々のお墨付きなのだ。
このデザインは、これまでジムニーなど歯牙にもかけなかった層にも訴えかけるものがあったらしく、4代目ジムニーは大ヒットすることになる。特にオフロード四駆など選択肢になかった筈の若い女性ユーザーも増え「ジムニー女子」なるカテゴリーまで爆誕する始末。
もう一つ特徴的だったのがシエラの割合が激増したことだ。JB23の時のシエラ(JB43)は、正直あまりパッとしなかった。その前のJB31/32の時もそうだったが、当時は「ジムニーは軽こそが正義。小型ジムニーなど何のメリットもない」という声が大勢を占めていたように思う。
小型車になると各種税金の負担がドッと増えるのに、排気量が増えることによるメリットもあまりない、しかも外観も単に「オバフェンつけたジムニー」というだけでは、わざわざシエラを選ぶユーザーがほとんど居ないのも頷けることだった。
ところが、これがJB74シエラが出たことで覆った。74シエラのオーバーフェンダーは、それまでの「ちょっと出してみました」というものではなく「これが、オーバーフェンダー、じゃーい!!」というものすごく主張するもので、車体そのものが軽ジムニーのままスタンスが左右それぞれ8.5センチも広がったものだから迫力が半端ない。
これが一部の車好きにはドストライクだった模様で、それまでほとんど売れてなかったシエラの販売台数が突然伸び始め、街中でも74シエラを目撃する割合が下手すると64と同じくらいではないか、と思うほどになった。
そんなこともあって、64/74ジムニーの納期はたちまち半年、一年と伸びた。スズキも慌てて増産に励み、一時は納期が改善されたこともあったようだが、市場にジムニーがポツポツと現れ、自動車メディアにそのヒットが取り上げられるようになるとさらに注目度が増し、限界まで増産しても納期が全く縮まらないようになってしまった。
最近ではオートマは場合によっては1年半も待たないと入手できないと言われており、そのため中古車価格が新車価格を上回るという異常な状態がずっと続いている。
そんなに売れているのなら、スズキはちゃんと設備投資してラインを増やせばいいではないか?・・・ところがジムニーという車両の性格から、それができないという。
まずジムニーというのは上記のとおりラダーフレームを備えた本格四輪駆動車だ。その車体構成は独特で、他のモノコックの車両と全く異なる。だから他の車種と混流生産ができない。
つまり生産ラインはジムニー専用になってしまう。いま売れているからと言ってラインを増やしてしまうと、モデル末期に売れ行きが落ちてきたらラインが持ち腐れになってしまうのだ。それは当然余計なコストになってしまうので企業としては避けたい。
まぁ、今の売れ方を見ているとある種「普遍的な人気」を博しているように見えるのでそうそう売れ行きが落ちることも無いのではないかとも思うが。
もう一つが、ジムニーは「スズキ自身が売りたくても売れない」という根本的な事情だ。どういうことか。
これは後述する5ドアが出ない理由の一つでもあるのだが「CAFE規制」によるものだ。
CAFE規制とは「Corporate Average Fuel Efficiency」の略で「企業平均燃費基準」という概念だ。
これは個別の車種ごとに燃費をいくつ以下にする、という基準ではなく、企業全体で生産販売する車の燃費を全部平均して出した値を基準にして規制する、という考え方。
ざっくりいうと、たとえば排出ガスを(概念的には)出さないEVやHEVを大量に売っているトヨタや日産の場合、非常に燃費の悪いスープラやGTRやランクルなどが多少売れようが問題ない。
しかし、EVやハイブリッドの車種をあまり持たず、ガソリン車をメインに売っているスズキの場合、燃費の悪いジムニーのようなSUVを多く売ろうとするとたちまち規制に引っかかってしまう・・・といったことが起こる。
もしラインを増設してジムニーを片っ端から売れるだけ売ったら、スズキは政府に罰金を払わなくてはならない。その罰金が発生する閾値がどこにあるのかは分からないが、利益を出すためにクルマを販売しているのに、罰金を取られるとなると、売ろうにもある程度以上は売れないのである。
そこへきて5ドアの噂が出てきて話はさらにややこしくなった。たしか64が出た頃にはすでに「そのうちに5ドアが追加モデルとして出るらしい」という噂がポワッと界隈に漂い始めていた。火のないところに煙は立たない。
それまでも「シエラに長いのがあったらエエナ」とぼんやり思っていた私はもちろんその話にくぎ付けになった。
最初のうちは「ただの噂レベル」だったものが、年を経るとともに次第に明確化し、そのうちに何度か迷彩を施されたテスト車両が目撃されたりして徐々に市販化の機運が高まってきた。
しかし一部界隈には「ジムニー原理主義者」とでもいうべき人達が居て、曰く「軽ジムニーこそが至宝。デカいのは認めない」などと言い出す始末。いや、それ自体は言論の自由だし、そう思う人が居るのも解る。
でも、もうどう考えてもスズキ本体が実際に5ドアを開発してるのは覆しようのない事実なんだから、それは市場に需要があるってことだよね?だからそういうジムニーがあっても良いんじゃないのかなぁ・・・
そしてついに2023年の1月、インド生産のジムニー5ドアが現地で公開される。ジムニー界隈は大いに湧いた。マボロシかツチノコかのようにありそうで無いと言われ続けてきたジムニー5ドアがついに現実のものとなったのだ。
数々の報道写真や広報の写真をみてつくづくおもったのだが、シエラのプロポーションは本来こうあるべきだったのではないか、と言うこと。
「5ドアは間延びしてる」と言う人もいるが「カッコいい」と言う人の方がむしろ多いと感じる。実際、5ドアを見慣れてくると逆に3ドアシエラが寸詰まりに見えてくるほどだ。
そして5ドアは同年6月から実際にインドで発売され、さらにオーストラリアやニュージーランド、一部東南アジアなど主に右ハンドルの地域を先頭に順次各国で販売が開始され始めた。
そうなると面白くないのが私を始め国内で5ドアの発売を待ち焦がれるジムニーファンたちだ。
「何だスズキは日本のメーカーの癖に日本市場をないがしろにしている!」「売る気も無いんだったら出すな!」「どうせこんなに経済が落ち込んでる日本じゃ売らないんだよ」などと恨み節のオンパレードだ。
しかし、スズキがそんな風に思ってないことは様々な周辺情報から既に明らかになっている。
まず一つが、インドのマルチスズキのトップに近い人物がインド発売時のインタビューにて「いずれ日本でも発売する」と発言している。
もちろんこれは日本のスズキ本社の発言ではないからこれが絶対に実現する証拠とはならないだろう。しかし全く予定もないのに勝手にそんなことを口走るとも思えない。
それだけではない。
実は既にジムニー5ドアは国交省の型式認定を済ませているのだ。この情報は本当に国交省のサイトを家探しすると出てくる。
さらに決定的な情報がある。5ドアのジムニーは、既に日本の特許庁にて「日本仕様にしか要らないサイドアンダーミラーを付けた状態」で意匠登録が済んでいるのだ。
つまり、ジムニー5ドアは既に「スズキがその気になればいつでも売り出せる」状態にあると言っても過言ではないのだ。
そこでのしかかってくるのが、当の日本法人が明言した「現行ジムニーおよびシエラの納期問題が落ち着くまでは、5ドアは日本では出せない(出さない)」ということだ。
上述したとおり、現行ジムニーは登場してからすでに6年が経過しているにもかかわらず、いまだに売れまくっていて納期が1年以上になっている。そんなにお客様を待たせている状況で追加車種など出してさらなる市場の混乱を招くわけにはいかない、ということだ。
それに加えてCAFE規制の話がのしかかる。ジムニー5ドアへの市場の期待値の高さは、さまざまなニュースサイトやSNSが報じる海外での5ドアの発売状況への注目度合いの高さからだいたい推し測ることができる。
「欲しい欲しいと言っておきながら、いざ本当に発売されたらやっぱり何だかんだ言って買わない」層がいるのは承知している(私もよくやるから)。しかしそれを割り引いても、ジムニー5ドアが欲しい!買いたい!と言っている人は非常に多いと感じる。
そんなのはスズキの中のプロのマーケターなら重々承知しているはずで、多分「これは発売したらまたとんでもないことになりかねない」と分かっているだろう。となるとますますCAFE規制をどうにかしないと発売するわけにはいかないのだ。
しかしここに、もう一つネタがある。スズキだって別に指を咥えて「CAFE規制がなけりゃーなー」などと言っているわけではない。それをどうにかするためのロードマップがすでに公開されている。
それが、ヨーロッパへの今後の車種展開を説明したこちらのスライド。今後、このように多様な車種を電動化していくというのだ。
右上のシルエット。どうみてもジムニーだ。しかもなんかちょっとヘッドライトに新規軸のLEDか何かが仕込まれてそうな雰囲気まで漂わせている。
これをもって、ただちに電動ジムニーが日本にも展開されて、CAFE規制を回避!バンザーイという流れになるというわけでもないだろうし、日本のジムニーファンが電動ジムニーにどういう反応をするのかもわからない(速度ゼロから最大トルクを発生することができる電動モーターは、実はガチのオフロードに向いている、という話もある)。
でも、少なくとも(当たり前だが)「スズキの中の人たちは、ちゃんと考えてる」ということは言える。ただ、それがいつになるか、読めないというだけだ。
スズキはなぜかスクープネタが出ないことで知られている。いつも突然「えっいつの間に作ってたの?」というタイミングで突然新型車を出してくることが多い。情報統制が行き届いているのかもしれない。
だからジムニー5ドアも、全く出そうにない状況から突然出るのかもしれないし、あるいは本当に日本市場を見限って出さないの「かも」しれない。出して欲しいけど。
さてそこで気になるのが「インドで売ってるなら、インドから輸入すれば、良くね?」ということ。実際、インドで発売されてからさまざまな車輸入関連の業者が水面化で動き出していたようだ。
その市販化はそう簡単にはいかなかった。通常、海外で売られている車を輸入する場合、現地の生産証明があれば日本でガス検さえ通せば比較的スムーズに販売にこぎつけることができる(らしい。詳しくはもちろん知らない)。
ところが、なぜかこのインド製ジムニー5ドアには生産証明がつかないらしく、そのためそう簡単には日本で登録できないらしいのだ。
しかしそこは蛇の道は蛇。インド発売から1年が過ぎた2024年初の東京オートサロンで、突如5ドアが展示されたのだ。展示したのはアクセルオートという業者。みんな全く知らなかったから呆気にとられた。
そこでは「日本での登録に向けて関係各所に働きかけ、前向きに検討中」という話だった。しかし当然のことながら、そのように本来無理なものをどうにかして登録するためには、何某かコストが掛かるものだ。
結局最初に販売にこぎつけたのは別の業者だったようだが、販売価格は(予約しないと明かさないようだが)400万円オーバーだと言われている。
これがまた車メディアで中途半端に報道されるものだから「ジムニーに400万など馬鹿げている」「スズキは強欲」などと全く見当違いの批判コメントをする人たちが現れる始末。みんな、ちゃんと読もうよ・・・
常識的に考えて、現行シエラが200万円台序盤〜中盤の価格設定なのだから、5ドアは良いとこ250万円〜270万円始まりの価格帯であろう。これなら、退職金を一部融通して老後の楽しみにする、という計画もチラ見えしてくる。
ただ・・・ただ・・・少なくとも現在各国で販売されているインド製ジムニー5ドアには、微妙〜な欠点が二つある。
一つがリアシートの格納。現行74シエラの場合(当然64も同じ)、リアシートのシートバックをかなり水平に近い角度まで倒すことができ、荷室の床を少し嵩上げすることでほぼフラットな荷室にすることができる。
ところが5ドアの場合、何をトチ狂ったのかシートバックがものすごく中途半端に斜めの状態までしか倒せないのだ。人が乗らない席はシートを平らに収納できて、荷物をきれいに積める、というのはこの手のキャンプなどに使われやすいSUVでは大変重要なスペックなのに・・・
当然この件については5ドアを切望していた人たちでも「これじゃあ候補から落とさざるを得ない」とまで言う人がいるくらいである。
これがもしそのまま日本で発売されたら、期待されることとしてはサードパーティのオプションで「シートバックしっかり格納リンクキット」的なものが出たり・・・しないかな・・・
スズキの中の人もそんなこと百も承知のはずだから、日本で発売する際には何とかしてくれることを期待しているのだが。
もう一つが取り回しだ。ジムニーは本格オフロード四駆だから、そもそも前輪のステアリング切れ角はあまり大きくない。それでも軽ベースのジムニーだとホイールベースがめちゃ短いから、最小回転半径は4.8mと十分小さくなっている。
ところが、ホイールベースが340ミリ伸びた5ドアの場合、なんと最小回転半径が5.7mになってしまうのだ。最初これを聞いたとき、ウソだろ?!と思って思わずイラレで図面を引いてみた。
・・・本当だった。切れ角が少ない場合、ホイールベースの延長がものすごく効いてしまうのだ。
これまた狭い道での取り回しが良いことがジムニーの美点の一つ、と思っている日本のユーザーにとっては痛い欠点になってしまう。もちろん私だってそうだ。
ただ、これは私自身以前乗っていたボルボXC70の最小回転半径がまさに5.7mだったのだが、日常使いでそんなに困ることはなかった。ましてジムニーは5ドアで長くなるとは言え、全長も全幅も圧倒的に小さい。たぶん数字からのイメージほど困ることはないのではないかと言う気はする。
こればっかりはステアリングの機構ともかね合うから、改造してどうにかなるものでもない。それが嫌ならハスラーでも買っとけ、ということになるからあんまり気にしてもしょうがない。
そんなこんなで、ジムニー5ドアの話を熱く語ってるだけで8千字に迫る長文になってしまった。よくぞここまで読まれましたね?暇だったんですか😆(ドツかれるぞ)
こんだけ語っといて、いざ発売されたときに「えっ?買うって言いましたっけ?」とか言い出したら笑ってください。
おしまい