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コンサル探偵の事件簿2008-厄-
事件が起きた。
そいつは、今まで私が扱ってきた数多の難事件からは、想像も付かない代物だった。
先日、組織のトイレ(個室)が全てウォシュレット対応になった。
私の在籍する6階は男性トイレがあり(ビルがしょぼいので、男女トイレが別々のフロアにある不便さ)、そこには個室が2つあるのだが、かねてよりそのうちの一つにはウォシュレットが整備されていた。今回の工事では、付いていなかった方の個室にもウォシュレットが整備され、とどのつまり、私のオフィスは、全館完全ウォシュレット対応の「インテリジェントオフィス」になったって訳だ。。。
ちなみに私はハードボイルドな探偵なので、ウォシュレットが大嫌いだ。よって、こよなくウォシュレット未整備のフツーの個室を愛用していたが、ついにこのオフィスでの私の最後の聖域にまで機械化の波が押し寄せてしまったことになる。
私はこれからこの疲れた体を一体どこで癒せばいいのか・・・
私は、奪われた聖域と自身のすさんだ心のために、今からここでウォシュレットが整備されて1週間後の今日に私を襲った事件の全貌を記しておく。
諸君、多少お聞き苦しい点はあろうが、心して聞いてもらいたい。
なお、事件簿をお届けするのは大変久しぶりだが、もちろん探偵の私に事件がなかったわけではない、ただ、厄年(本厄)のせいか、いまいち創作(創作じゃないって)意欲がわかなかっただけだ(言い訳)。
しかし、愛読者の諸君、本日のこの恐ろしい事件については、書かねばならぬ。
また同じ被害者を生まないためにも!いや、既にこの忌まわしい事件は私の身の回りで起きているのかもしれない!
さて、自他共に認める「う○こ野郎」(本当にゴメンナサイ)の私は、大変よくトイレ(個室)にお邪魔する。汚い話だが、別に出ようが出まいがそんなのお構いなしに個室で休憩したりする。そんな人達には、今日の事件はとてつもなく恐ろしいことであろう。そんな人は少ないかもしれないが・・・
本日も私は「癒し」を求めて、愛用する6階トイレの入り口に近い個室に向かった。
なお、この今は亡きウォシュレット無しの個室は、今まであまり人気のある個室ではなかった。私にとってはラッキーなことだったのだが、世の中にはウォシュレット好きな人たちが沢山いるようだ(それとも我が組織だけか?)。
思い起こせば、今までは私が個室で癒されていると、隣の個室からは、時々、
「チャァーーーーーー・・・・チョロチョロチョロ」
と、あの不気味なウォシュレット音が響いてきたものだ。ああ、考えただけでも身の毛がよだつ。
しかし、私の愛するウォシュレット無し個室は今はもうない。しかも、本日はいつもなら空いているはずの私が愛用する入り口側の個室に先客がいらっしゃるではないか!
なんと言う不運。
これも本厄のせいか、はたまたウォシュレット効果か。。。私は自分の不幸をのろい、心の中で舌打ちをするが、しかし、、、(まぁどっちもウォシュレット付きになっちゃったんだから、どっちに入ろうが関係ないか・・・)と例によって前向きな姿勢で奥のトイレの扉を開けた。
当然今回のこの訪問も、ちょっとした気分転換で、果たしてお通じがあるかどうかなんてのは二の次である。私はズボンを下ろし、これまた気持ちの悪い高温に設定された便座に腰掛ける。
しかしなんだ、冬の冷たい便座はまだ我慢できるが(ちなみに、高齢者の死因の上位に冬のトイレでの寒さ(温度差)による心臓への負担増と言うのがあるが、私は、温かい便座でのほほんと生き延びるよりは、冷たい便座に座って心臓がダメになるなら本望だと思っている←ちょっと嘘)、この暖かい便座はどうだ、我慢がならん!なんというハーフボイルド!探偵に便座ウォーマーとウォシュレットは厳禁だ!
座ってはみたがどうにもやりきれず、すぐさま席(席じゃないって)を立とうと思った次の瞬間!
「チャーーーーーーーーーーーーーーーーー」
!
と!!!
なんと、誰も頼んでもいないのに、どこから現れたのか、体温よりちょっと高めに設定された温水が私のおしりに!!!!
なんとも気が抜けるこの嫌な感じ!
たたでさえ気を抜きに(サボりに)来ているのに、これ以上気を抜いてどうする!
(おいおい、なんだよ、俺ってば、間違ってボタン押しちゃったのか?大丈夫か、俺?勘弁してくれよ。。。これだから厄年は・・・)と「止める」ボタンを押しながら、生まれ持っての探偵回路が作動し、一瞬の閃きが私の頭をよぎる・・・
(ち、違う、、、これは断じて違う!!!)
(こ、これは・・・)
なんと、かつて私が愛してやまなかった隣の、そう、入り口側の個室の住人(住んでない)が、ウォシュレット機能を使っているのだ!!!
そう、賢明な読者なら既にお分かりであろう!あるいは私と同じ目にあった人がいるなら正直に申し出て欲しい。6階でなくても構わない、女性トイレのある5階・4階・2階でもいい!
そうだ、リモコンのセンサーが同調しちゃってるんだよぉ!兄さん!
(おいおい、たまらんな、コレ!)
利用者の意思を無視して勝手に人の尻を洗う恐怖のトイレ!
こいつは勘弁して欲しい、ちょっと恥ずかしいが、早速総務の山○さんに報告しようと思った瞬間!!!
またまた!
「チャーーーーーーーーーーーーーーーー」
迫り来る第二のウェーブ!
(おいおい、お隣さん、何度もケツを洗うなよ!あんた地主さん?)
今の自分の情けない顔を鏡で見てみたい衝動にかられながら、「止まる」ボタンを連打する。
(ふぅ、止まった。)
し、しかし、このえもいわれぬ脱力感。
少し涙目になるウォシュレット探偵、いや、コンサル探偵。
しかし、こうしてはいられぬ、いつ第三の攻撃が始まるとも知れぬ。隣の住人(だから住んでない)はまだ物足りていないようだ、一向に尻を乾かす気配は感じられない。
私は濡れた尻を急いで拭き、次の攻撃が襲ってこないうちに便器を離れ、ズボンをあげた。こんなときに隣でウォシュレットボタンを押されたらどんな目にあうのか!考えただけでも恐ろしい。初めてウォシュレットをつけた家の子供が、試しに立ったまま「洗う」ボタンを押してしまい床を水浸しにするという話は聞いた事があるが、そんなことでは済まされまい、今ここで隣から指令が出されたら、、、私のお尻を襲ったあの水圧から想像すると、ちょうど私の股間あたりをめがけて恐怖の水鉄砲が発射されることになる!
そんな攻撃をもろに食らってみろ!私はどんな顔をして執務空間に復帰すればいいのだ!
どんな言い訳をしても信じてもらえないぞ、きっと。
顔で「それは大変でした」みたいなことを言うが、きっとココロの中では、「お漏らし君」とか「お漏らしオヤジ」とか・・・ええい、私は得意の被害妄想を頭から拭い去り個室を飛び出した。
どうやら隣の奴は私を攻撃することはあきらめたようだ。
しかし、隙を見せることが出来ない探偵稼業のこの私が、唯一心を開放する瞬間を狙っての恐ろしいテロ行為!こうしてはいられない、組織の男性達のため、いや、女性達にも降りかかるかも知れないこの恐怖の瞬間を早く取り除かねば!!!
私は探偵として取るべき行動を速やかに遂行するために、執務空間に復帰した。早くこの危険から組織の仲間を守らなくては!
と言うわけで、総務の〇田さん、〇原さん、ちょっとトイレのチェック、宜しくお願いします。
完