3月21日(木)日記

久々に日記が書ける。
この2週間、僕は動物園で住み込みのアルバイトをしていたのだ。
充電器を家に忘れたので初日で携帯の電池がなくなり日記が書けなかったのだ。

知り合いの動物園を経営してる方からの頼みで、急遽働くことになった。
人手が足りないのだそう。
「ヒトデはいっぱいおるんだがなあ!がっはっは!」と笑っていたが、2週間ヒトデを見ることはなかった。

僕がまず担当になったのが、ゴリラショーのMC。
ゴリラが力いっぱいバランスボールを破壊していくショー。
バランスボールには紙が張られており、お客さんから破壊してほしいもののリクエストを受け、その紙に書き、
ゴリラがそれを力いっぱい抱き締め、パチーン!と破裂させる痛快なショーだ。
お客さんに何を書いてほしいか聞く時の
「旦那さんの名前でもいいですよ~」は本当によくウケた。

だが、ある日
ゴリラの「アーモンド菊地」がバランスボールを破裂させないという事件が起きた。
仕方なく僕が大きめの針でこっそり破裂させてショーは成立したが、アーモンド菊地の様子は終始おかしかった。

ショーの終了後、アーモンド菊地の小屋へいくと
アーモンド菊地はとても落ち込んでいる様子だった。
同じ小屋にいるゴリラのケースバイケース寺井やビール林も心配している様子。
アーモンド菊地は小さい声で悲しそうにウホウホ言っている。
ゴリラ通訳のウォーレンに話を聞きたいが、
ウォーレンは日本語がしゃべれないため
その話を通訳の梅木さんに通訳してもらう。

梅木さんは「アーモンド菊地はメスゴリラの「ユミ」がどこかに行ってしまったことで、悲しんでいるでがんす」と言った。

この「がんす」はアーモンド菊地の語尾なのかウォーレンの語尾なのか梅木さんの語尾なのか誰のか分からない。

ユミは少し体調が悪いため検査の為、別の小屋に入れられていた。
一週間もしたら元気になって帰ってくるということをアーモンド菊地に伝えたかったが
ウォーレンは受信をすることができるが発信はできないらしい。
こちらの言葉をゴリラに伝えることは出来ないと言うのだ。

ゴリラショーはここの動物園の名物なのだが、ショーが出来るのはアーモンド菊地のみ。ケースバイケース寺井とビール林は前説みたいなことしかできない。このままではまずいと園長もやってきた。

園長が梅木さんに「ゴリラの言葉がわかるんならゴリラに話しかけることもできるだろ!はやくしろよバカかよってウォーレンに言ってくれ」と言い
梅木さんがウォーレンに
そのことを伝えると
ウォーレンは梅木さんに何か言った後、パチンっと梅木さんをビンタした。

すると梅木さんは園長に
「ゴリラ語を発するのは本当に難しいんでがんす!無理なことを求めてくるなでがんす!」と言い
パチンっと園長をビンタした。

園長は「はぁ?」と言い梅木さんをビンタした。
梅木さんはそのままウォーレンをビンタしようとしたが
「いや、それはお前へのやつだ」と園長が言った。
梅木さんはびっくりした顔をしていた。

いったいどうしようかと皆が困っていると
ケースバイケース寺井とビール林がウホウホ叫びだした。
ウォーレンが話を聞き、その話を梅木さんに聞くと
「ショーを俺たちにやらしてほしいでがんす!」と言っているとのこと。
園長が「試してみるか…」と言い
バランスボールを寺井と林に渡した。

すると
寺井がバランスボールを支え、林が上から思いきりバランスボールを叩いた。
ただバランスボールは破裂しない。
力が足りないのだ。

林が支え寺井が叩くパターンも試したが
バランスボールは破裂しない。
力が足りないのだ。

何度も何度も試す寺井と林。
小屋に響き渡る「ボイーン」という音。
悔し涙を流す2頭のゴリラ。

ウォーレンが唯一喋れる日本語、
「万事休すか」という言葉を発した時

アーモンド菊地がやってきた。
頑張っている後輩が見てられなかったのだろう。
菊地はバランスボールを強くハグし
パチーン!!!と破裂させ、
寺井と林の頭を撫でた。

次の日からアーモンド菊地はいつも通りショーを行ってくれた。
寺井と、林の前説みたいなことにも気合いが入っているように見えた。

一週間後、ユミが戻ってきた。
アーモンド菊地は本当に嬉しそうだった。

ユミが帰ってきた日のショーは
バランスボールが跡形もなくなるくらいキレイに破裂していた。

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