6月3日(水)日記

アイコから連絡があった。
アイコは昔一緒の派遣先で働いてた人だ。
梱包がすごくうまい。

最近彼氏にフラれてしまったらしく、暇だからご飯にいこうとのことだった。

なんかいけそうだったので、いくことに。

場所は府内の某焼肉屋さん。
普通の値段で美味しい味の店だ。

アイコと会うのは1年ぶりくらいだったが話は程よく弾んだ。
今は不動産屋で働いているらしい。

僕が
「不動産屋やったらあんま梱包できんのちゃうん」
と言ったら

アイコはゲラゲラと笑った。
本当に笑いすぎなんじゃないかと思うくらい笑った。
笑いすぎて店員さんが来た。

しばらくして
会話も落ち着き、少しの静寂が訪れた。
すると突然、アイコがシクシクと泣き出した。
シクシクという音が大きすぎて店員さんが来た。

僕が
「どうした?」と聞くと

「ごめんごめん、彼氏…焼肉好きやったなあって…」

どうやら元彼のことをまだ引きずっているようだ。

僕は何と言って励ましていいのかイマイチ分からず、
肘を立てて手を組み、その上に顎を乗せ

「どの部位が好きやったとか…聞かせてくれる?」

と言った。
紳士的な聞き上手を演出しようとしたが、失敗。
こんなものただの肉紳士だ。

しかし、アイコは切なそうな顔で
「…インサイドスカート」と答えた。

インサイドスカート…?
アイコがふざけたのだろうか。しかしふざけているようには見えない。

僕はアイコにバレないようにこっそりとテーブルの下で携帯をいじり、
「インサイドスカート」と検索する。

“どちらかといえばハラミに近いバラ肉“

と出た。
何やそれ。旨そうやな。
僕は何とか笑いを堪えながら
「美味しいよな、インサイドスカート」と言った。

するとアイコは
「…ごめんね、変な感じにして。
よし!冷麺とか食べる?ここのめっちゃ美味しいで!」
と明るく気丈に振る舞ってくれた。

僕は今しかないと思い、

「良かったら今夜俺のこと梱包せえへん?」

と、アイコを口説いた。

アイコは、どこか物憂げな笑みを浮かべたかと思うと
次の瞬間、フッと表情を変え
挑発的な眼で僕の顔を見ながら

「…布ガムテープは、ござい?」

と言ってきた。

布ガムテープは、ござい???
どういう意味か分からなかったので、
しばらく無言で考えていたが

すごく恥ずかしい空気になっているのをお互い感じとり、

冷麺も頼まずそそくさと店を出て
元気の良い「お疲れ!」を言い合い
それぞれの家へ帰った。





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