6月25日(木)日記

壮絶な20日間だった。

日記が書けなくなるのも仕方ないほどの。
そう、仕方がなかったのだ。

親知らずを抜くために歯医者にいったのだが、
どうやら僕の親知らずがとても悪い方に進行していたらしく、その場での抜歯は不可能と判断された。

数日前の診断では、親知らずが奥歯の後ろから少し顔をだしていた状態だったのだが
今回の診断では、親知らずがだいぶ引っ込んでしまっているとのことだった。

レントゲンで見てみると
親知らずが肩の辺りまで引っ込んでいた。

引っ込んでいる親知らずは基本的には抜かなくてもいいらしいのだが
僕の場合は肩の障害を引き起こしてしまうということで、早急に親知らずを抜かなければいけないと言われた。

しかしこの手術は現在の日本では難しいらしく、

僕は歯医者の本場、カナダへと旅立つことになった。

関西空港から、シアトルへ。
シアトルで飛行機を乗り換え、
カナダのマークランド空港へ到着。

6月のカナダは気温9度。
半袖の僕の体を突き刺す寒さ。

まずは長袖を買うことに。
空港近くの服屋さん「jemabi」へ。

コーディネーターのガモさんが店員さんとのやり取りをしてくれ、無事に長袖を購入。

店員さんが
「あなたのコーディネーターは服のコーディネートもしてくれるのね」
的なジョークを言っていたが、

その時の僕は全く理解できず、
ずっと両手を挙げていた。

ただ、理解したいという欲求があまりに強く
店員さんが「もう、もういい」的な言葉を発していたが
僕はしつこく意味を問いただした。

20分ほどかけて
まあ、なんとなく理解した僕は店を出た。

早速歯医者へと向かうことに。

しかしまあカナダのガードレールの多いこと。

噂には聞いていたが、
見渡す限りのガードレール。

ガードレールと歯医者とメープルシロップで国が成り立っているだけのことはある。

歯医者に到着。

思ったより小さい病院。
本当にこんなところで大丈夫なのかと思ったが

ガモさんが
「ココハ、カナダイチノ歯医者サン。カナダイチ少年ノ事件簿。」
と言うので、信頼することに。

そうこうしているうちに手術が始まった。

肩から首、口にかけて麻酔を打たれる。
歯医者さんが僕の肩をさすり、親知らずの位置を把握する。
親知らずを見つけると、
肩に手を置きぐーっと力を入れ
親知らずを押し上げていく。

麻酔のおかげで痛みこそないが、
すごい圧力がかかっているのは感じ取れた。

麻酔がないと、あまりの痛さで絶命してしまうらしい。
ガモさんが僕の左手を握りながら
「ガンバッテイキマッショイ」
と励ましてくれる。

親知らずは首元まで上がってきた。
僕の首を締め上げるようにして、親知らずを口まで押し上げていく。

ついに口の辺りまで親知らずが上がってきた。

歯医者さんがゴム手袋を外し、ボクシンググローブを装着する。
親知らずがある顎付近に小さいジャブを連打する。
ジャブで場所を微調整した後、

本気のアッパーを繰り出す。

親知らずが口から飛び出し、壁にカチンッと当たった。

手術は無事に成功した。

望むなら抜けた親知らずをネックレスにしてもらえるとのことだったが
半年ほど時間がかかるということと、12.3万の費用がかかるということで

僕は望まなかった。

そして、歯医者さんが
「親知らずを抜いた穴が肩まで繋がっている状態なのでしばらくご飯を食べないでください、肩に食いかすが溜まります。大体、2週間ほどの絶食をしてもらうんですが、それはまあ気分的にしんどいと思うので…」
と言ったかと思うと

僕の顎に鋭いフックを放った。
視界が一瞬だけ赤くなったのを覚えている。

目が覚めると、日本の病室にいた。
2週間ほど意識が無い状態で点滴から栄養を摂取していたらしい。
それがカナダのやり方らしい。

携帯を確認すると、ガモさんからLINEが入っていた。

「歯、ダイジョウブナッタ?
ワタシハワタシデ、最近ギターハジメタ。
ヘンシンフヨウ。」

返信不要なので何も返さなかった。

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