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忙しい人のためのHip Hop史⑤ 『東西抗争編 その①ー幕開けー』
Hip Hopカルチャーは80年代から90年代にかけて、生誕地ニューヨークを飛び出し全米に広がり、それぞれの地域で独自の進化を遂げていきます。なお、Hip Hop黄金期も終盤に差し掛かると、西海岸と東海岸のシーンは互いをライバル視し始め、競争は抗争へと急発展していくのです。
''F*ck Compton'' - 東西抗争の幕開け
1990年代に入るとN.W.A.が先陣を切り、DJ QuikやTha Alkoholiks等の躍進で西海岸のGangsta Rapシーンが脚光を浴び、東海岸勢の闘争心にも火がつきます。
1991年リリースされた、サウスブロンクス出身のTim Dogのデビュー・アルバム、Penicillin on Wax収録のファーストシングル「F*ck Compton」ではタイトル通り、Dr. Dreを筆頭にN.W.A.のメンバーたちに対して痛烈な批判を繰り広げます。この他にも「DJ Quik Beat Down (Skit)」ではDJ Quikを暴行する音声だとされる42秒間のSkit、Step to Meではコンプトンのラッパー達とDJ Quikをディスし、Tim Dogはウェストコーストに宣戦布告します。
もちろん西海岸のアーティストたちも黙ってはおらず、「F*ck Compton」リリース翌年の1992年、MC Eiht率いるCompton's Most Wantedはサードアルバム、「Music to Driveby」収録の「Who's F*cking Who?」や「Another Victim」で反撃し、DJ Quikもセカンド・アルバム、Way 2 Fonkyのアルバムタイトル同名のシングルで切り替えします。
また、これに対するDr.Dreのアンサーは、N.W.A.を脱退し、Death Row Records設立直後リリースしたSnoop Doggy Dogg共演の大ヒットシングル「F*ck With Dre Day (And Everybody's Celebratin')」で聴くことができます。
ラップ音楽の黄金期を経て全世界に広がったHip Hopカルチャーも過渡期に入り、金と権力渦巻くショービジネスの世界に徐々に取り込まれていきます。Tim DogのComptonへの宣戦布告で火蓋が切られ、数年後にはある事件をきっかけに各海岸を代表する某2大巨頭レーベル同士の権力闘争が勃発し、東西抗争は血気盛んなラッパー達を巻き込んでさらに激化していきます。