1分で読める『Hip Hop黄金期』①‐東海岸編
【前置き】
80年代から90年代前半にかけ、ラップはいわゆる「Hip Hop黄金期」に突入し、言葉選びや押韻、音楽性の多様化により数々の新たな様式が生まれていきます。
今回は主に1990年代前半に焦点をあて、各海岸のラップの特性と独自発展について、1分で読めるようにまとめていきます。
「1分で読める『Hip Hop黄金期』‐東海岸編」
1986年以降、Hip HopはEric B & Rakim, Public Enemy, Boogie Down ProductionsやJuice Crewなどの出現により、冒頭で書いた通り文学、芸術としても向上していきます。90年代前半になると、前述のアーティスト達を基礎にしつつも、音楽性もより多角的になっていきます。
1990年代の幕開けは、A Tribe Called Quest、De La Soul、Jungle Brothers等のNative Tongue界隈や、Pete Rock & CL Smooth、Brand Nubian、Digable Planets等、ファンクやソウル、ジャズなど黒人音楽を中心としたサンプリングを多用し、主にアフリカ中心主義を謳うサウンドが主流化していきます。この動きは後に一部からAlternative Rapと幅広く定義されますが、この概念やサウンドは東海岸を皮切りに、西海岸含め米国全土に広がっていきます。
1992年になると、所属レーベルTommy Boyを除籍されたPrince RakeemはRZAに改名し、従兄弟のGZA、Ol'Dirty Bastardとともに、同郷Staten Island出身のMethod Man, Ghostface KillahやRaekwon含む個性派ラッパー達を集め、Wu-Tang Clanを結成し、翌年(1993年)にデビューアルバム「燃えよ!ウータン(邦題)」を発表。ジャズやソウル音楽と、カンフー映画の吹替版音源をサンプルした奇妙奇天烈なビートと、メンバーそれぞれの個性的かつ切れ味鋭いラップはアングラを飛び抜け、予想外の大ヒットとなり、のちの東海岸のBoom Bapサウンドに大きな影響を与えていきます。
同じく1993年、当時所属してた大手レーベルから独立したDiddy(当時のPuff Daddy)によってBad Boy Recordsが設立され、翌年リリースされた看板アーティストのThe Notorious B.I.G.のデビューアルバム、「Ready to Die」の大ヒットにより、Bad Boyはアメリカ東海岸を代表するレーベル、BiggieはNew Yorkを代表的するラッパーの1人として脚光を浴びるようになります。ストリートでの過酷な日常や、貧困に抗うべく成功を手にする過程を、独自のフロウや押韻、ユーモラスな歌詞や語り口に感銘を受け、Biggieを最高のラッパーと呼ぶMC達は没後27年経った今でも後を絶ちません。
一方で同時期、Hip Hop好きならその名を一度は聞いたことがあろう、Nasのデビューアルバム、「Illmatic」もColumbiaからリリースされます。ジャズやソウルをサンプルしつつどこか不穏で重厚感のあるビートに乗っかる、Nasの機智に飛んだ言葉選びに、予測不可能な押韻、鋭い情景描写は、DJ PremierやPete Rock、Large Professor達アルバム参加したプロデューサー含めラップシーンに大きな衝撃を与え、リリース30周年が経過した今でもなお、Hip Hop史屈指の名盤中の名盤として挙げられています。
なお、Illmatic収録曲のリリックについては、Hip Hop翻訳家のShotGunDandy氏が、XやNoteで文化背景などを交えた、精度の高い和訳解説を執筆しておりますので、是非ともご一読いただければと思います。
出典:
"Alternative Rap Music Genre Overview". AllMusic. All Media Guide.