1分で読める『Hip Hop黄金期』③‐南海岸編
【前置き】
80年代から90年代前半にかけ、ラップはいわゆる「Hip Hop黄金期」に突入し、言葉選びや押韻、音楽性の多様化により数々の新たな様式が生まれていきます。
今回は主に1990年代前半に焦点を宛て、各海岸のラップの特性と独自発展について、1分で読めるようにまとめていきます。
「1分で読める『Hip Hop黄金期』‐南海岸編」
ニューヨークとロサンゼルスのHip Hopがメインストリームに進出し始めるとともに、80年代後半になると南海岸も盛り上がりを見せ始めます。
1986年、フロリダ州マイアミ市で結成された、Uncle Luke(当時はLuke Skyywalker名義)率いる4人組、The 2 Live Crewのデビューが大きく話題になります。ファーストアルバム「The 2 Live Crew Is What We Are」での露骨な性的描写が社会問題になるにも関わらず、その話題性と、AC/DCやBob James、FunkadelicやAfrika Bambaataa等のサンプリングを多用した遊び心あふれる音楽性がヒットし、デビュー間もなくRIAAからゴールド認定されます。
セカンド・アルバムの「Move Somethin'(1988)」は卑猥な歌詞はそのままに、サンプリングのネタをより広め、Roland TR-808を多用しテンポを早めたビートでMiami Bassという独自のサウンドを編み出し、後世のいわゆる「Dirty South」サウンドの原点となっていきます。売上、評価ともに好調だった1st、2ndアルバムを背に、1989年にリリースされた「As Nasty as They Wanna Be」は、さらなる商業的成功を収めるのと同時に、音楽史で初めて「法的わいせつ性の有無」について議論されるほどの話題作となりました。
その一方で同時期、デビューアルバムの「Making Trouble(1988)」が不発に終わってから一転、1989年リリースのセカンド・アルバム、「Grip It! On That Other Level」がThe Source誌から最高評価のマイク5本を獲得した事により、テキサス州のラップグループ、The Ghetto Boys(後にGeto Boysに改名)がHip Hopシーンで注目され始めます。劣悪な環境による精神不安定、ドラッグ中毒、女性蔑視等、当時のHip Hopでは珍しい題材のラップはDef Jamの創設者Rick Rubinの目に止まり、Rubinはグループ名同名のサード・アルバムのプロデュースを手掛け、収録曲の「Mind of A Lunatic」は精神異常者の視点でラップした過激な歌詞が物議を醸し、話題になりました。
同じくRick Rubinがプロデュースした4作目、「We Can't Be Stopped(1991)」は、メンバーのBushwick Billが恋人に目を銃で打たれ病院の廊下で、同じくメンバーのScarfaceとWillie Dに搬送されてるところをアルバムカバーに起用した衝撃的なものでした。しかし、カバーの話題性に負けず、西海岸のGangsta Rapの外的危機をラップするものとは対象的な、PTSDや自◯衝動、孤独感など内面の闇をスキルフルかつ赤裸々に綴ったラップは評論家達からも高い評価を得ます。同アルバムは南海岸をメインストリームにのしあげ、Geto BoysはUGKやT.I.、2Pac、Eminemや50Cent等州境を超え、その後第一線で活躍する次世代のラッパー達に大きな影響を与えていきます。
所変わってアトランタ州では、2024年に他界してしまったプロデューサー・故Rico Wadeの実家の地下スタジオにて、The Dungeon Familyという伝説的なHip Hop集団が誕生します。Rico自身も所属するプロデューサーグループOrganized Noiseを中心に、同グループは他にもOutkastやGoodie Mob、TLCなど数多くの伝説的グループを輩出していきます。
Organized Noiseのソウルフルでファンキーなビートの上に乗っかる、Outkastのデビュー・シングル「Player's Ball(1993)」ではわかりし頃のAndre 3000とBig Boiの早口で軽快なフロウが楽しめます。同シングルは翌年6月にゴールド認定され、デビューアルバム「Southernplayalisticadillacmuzik(1994)」も大ヒットし、Outkastのその後の活躍は我々の知るとおりです。
なお、The Dungeon Familyは上記のアーティスト以外にもFuture(所属時はMeathead名義だったそう)、Janelle Monaeや、Killer Mike等、ポップカルチャーにも今後大きな影響を与えるアーティストを多く世に出し、アトランタのHip Hop、RnBアーティストたちの登竜門だった事がよくわかりますね。Rest In Peace, Rico Wade.