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【PPP】矢吹の難聴と、砺波の憑依時の聞こえに関する考察

PSYCHO-PASS PROVIDENCEのマニアックな考察第2弾です。
今回は、矢吹の難聴の種類、翻訳チップのクラッキングによる砺波憑依時の聞こえについて、医学的な視点から掘り下げてみたいと思います。

前回の考察第1弾『【PPP】ディバイダーの仕組みに関する考察』の内容を前提に進めますので、未読の方はもしよければ第1弾も覗いてみてください。
考察というより、もはや随所に妄想が散りばめられた難聴の教材と言った方が良さそうな内容になりましたが、それでも興味持てそうな方はお進みください。


【矢吹の耳関連の情報整理】

まずは、矢吹の耳に関する情報を以下に羅列します。
・高性能の補聴器を使用している(港で「他人の悪口は止めたほうがいい」の話してる時の矢吹と一係の距離間でも聞こえていそう)
・補聴器は両耳につけている
・砺波に攫われてから補聴器はつけていない
・阿蘇で煇に降ろされて、首を振りながら「お前か」と言ってる時は砺波憑依中※
・飛行機で阿蘇から出島へ移動中、矢吹に憑依した砺波の意識が一時的にあった可能性がある
・電波暗室の狡噛と煇を襲った時、聞こえにくいのか左耳に手を当てていた
・砺波が憑依している時は補聴器がなくても聞こえる※

※ 6月23〜24日の上映後座談会のレポを参照させていただきました。

【難聴について】

矢吹の難聴を掘り下げる前に、聞こえのしくみや難聴の種類を簡単に記しておきます。不要そうな方は読み飛ばしてください。更に詳しく興味ある方は各リンク先(かなりマニアック)や「難聴 種類」などで検索してみてください。

【音の聞こえ方】

耳から入った音は下記のルートで伝わります。

外耳→中耳→内耳→蝸牛神経→脳幹→一次聴覚野(前回の考察の図2にて、側頭葉につけた青丸付近)

耳介(👂)で集めた音は外耳道で増幅され鼓膜を振動させて、中耳の耳小骨で更に増幅されます。そして内耳の蝸牛に伝わり、蝸牛にある有毛細胞が音の高さに合わせて振動し電気信号に変換されると、蝸牛神経→脳幹→脳へと送られて音情報として処理されます。

音の聞こえの仕組みについては、こちらのサイトがとてもわかりやすいので良ければリンク先参照ください。

【難聴の種類】

難聴は大きく①伝音性難聴、②感音性難聴、③混合性難聴 の3つに分けられます。
※正式には伝音難聴、感音難聴といいます
そして、どの難聴も先天性(生まれつき)と後天性(生まれた後に起こるもの)に分かれます。
先天性難聴はざっくりですが約60〜70%は遺伝子が関わるもの、約20%は先天性サイトメガロウイルス感染症(日本は比較的少ない)、後はその他の要因とされています。

①伝音性難聴
外耳〜中耳の間に何らかの障害があることで起こる難聴。外耳道や鼓膜、耳小骨などの損傷や腫瘍、感染症などが原因になります。先天性の場合は奇形であることが多いようです。70db以上(高度難聴)になることは無く、治療法は様々ですが、感音性難聴と比べて治療によって聴力回復する場合が多いです。
伝音性難聴の詳しい原因や治療については、こちらのリンク先がわかりやすいです。

②感音性難聴
内耳や脳に障害があることで起こる難聴。多くの難聴が感音性難聴に当てはまります。内耳にある有毛細胞は、音の振動を電気信号に変えて脳に伝える役割をしていて、有毛細胞が傷つくと音を感じ取りにくくなり難聴になります。感音性難聴の一部として扱われる後迷路性難聴は、内耳から脳へ音の信号を送る蝸牛神経〜聴覚野のどこかに問題がある難聴です。言葉の聞き取りに支障が出ることが多く、補聴器の効果は限定的です。後迷路性難聴と内耳性難聴を合わせて感音性難聴といいます。
感音性難聴には主に以下のような種類があります。

遺伝性難聴:先天性のものと後天性のものがあります。原因遺伝子も様々です。他の要因によらず特定の遺伝子が原因で若年(40歳未満)で発症し、両耳とも徐々に難聴が進む「若年発症型両側性感音難聴」は、現代において指定難病となっています。
遺伝性難聴については後ほど詳しく触れます。

騒音性難聴:ライブ、工場や工事現場など、大音響や騒音にさらされる環境にいることで発症する難聴。主に中〜高音域が悪化し、爆発音などの一時的な騒音でも内耳性難聴を引き起こすことがあります。

老人性難聴(加齢性難聴):加齢によって、内耳の有毛細胞が傷つくことや聴神経の機能低下などで起こる難聴です。両耳性で、高音域から徐々に悪化します。早い人では40代から補聴器対象になるようです。

メニエール病:内耳のリンパ液が過剰になることで起こるといわれる病気で、症状としてはめまいが有名ですね。一部の患者は突発性の感音性難聴を伴うことがあります(めまいはなく低音障害性の感音性難聴のみのケースもあります)。一般的には、片側の耳に20〜50代で発症します。

突発性難聴:ある日突然片耳に発症する難聴で、原因には様々な説があります。治療法は確立されていないものの、早めの治療開始が重要とされます。

薬剤性難聴:医薬品によって内耳が傷つけられて生じる難聴です。原因となる薬剤にはアミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチン、アスピリンなどの解熱消炎鎮痛薬、ループ利尿薬などがあります。

聴神経腫瘍:聴覚を司る蝸牛神経と平衡感覚を司る前庭神経のシュワン細胞から発生する腫瘍の総称です。片側に症状が出ることがほとんどです。後迷路性難聴の一種にあたります。

③混合性難聴
①②の混合型。難聴の程度も、伝音性、感音性どちらの症状が重いかも人それぞれです。

【矢吹の難聴について】

矢吹が③混合性難聴である可能性は、「①伝音性難聴②感音性難聴の可能性から総合的に判断」としか言えず考察しようがないので割愛し(可能性は低いとは思います)、①②の可能性について深く探ります。

【矢吹の補聴器の性能】

高性能です(終)。
……だと考察にならないので、どう高性能なのかざっくり予想します。
矢吹が使用している補聴器は、現代でいう耳かけ型補聴器です。外耳道に増幅した音を出力して、難聴を補うタイプ。そのため、音は外耳道→鼓膜→中耳→内耳→聴神経→脳のルートを辿ります。
現代の高性能補聴器も、ただ音量を大きくするだけでなく、会話などの必要な音を聞こえやすくし、環境騒音を抑えてくれます。個人に合わせて、聞こえにくい周波数帯の聞こえや、音の方向性や両耳のバランスもカバーできます。矢吹の補聴器なら正常の耳と同じように音が聞こえるどころか、もっと遠くの音声までストレスフリーで聞き取れる性能でもおかしくないと思います。
なお、違う音の補い方をする補聴器として、骨伝導の仕組みを利用した骨導補聴器があります。外耳や中耳を介さず直接内耳に音を届けることができるので、伝音性難聴にはかなり効果があります。矢吹が使用しているタイプは形状からしてこちらではなく、耳かけ型の通常タイプの補聴器のようですね。

では、矢吹の難聴の種類に触れていきます。

【先天性か後天性か】

矢吹は後天性の可能性が気持ち高いと思います。具体的に言うと、先天性難聴に分類される難聴でも発症時期が遅かった、もしくは発症時に比較的軽く、補聴器や薬物等による治療で言語習得が十分可能なレベル(〜90db)の難聴だったかと思われます。重度(90db以上)の先天性難聴だった場合は、人工内耳を入れる等、補聴器以外の措置をとっていたでしょう。
矢吹は補聴器で音を補えば問題なく言葉を聞き取り、喋ることができています。正常な聴力の人と同じように聞き取るだけでなく発音もできるようになるには、幼少期の語音形成が重要です。脳の発達の観点からは、少なくとも9歳くらいまでに言語刺激を得ることが重要とされています。なので、この時期の聞こえにはあまり問題がなかった→先天性よりは後天性の方が可能性がある、という考えです。
他に後天性を推す根拠としては「先天性でそれなりに重い難聴だったとしたら、仮に治療で正常レベルの言語習得が可能だったとして、外務省や国防省等の適性診断が下っただろうか?」という点があります。補聴器のみで補えないレベルの先天性難聴だった場合、戦闘で前線に立つなど比較的騒音に晒されやすい職業より、他のもっと耳に優しい職業の方が高適性が出ていたのではないかと思いました。
※念の為断っておきますが、難聴では外務省・国防省の仕事は厳しいという差別的なニュアンスを含むつもりはありません。あくまで、シビュラの職業適性診断結果がどのように出るかなという観点での考察です。

【伝音性難聴の可能性】

伝音性難聴の可能性はかなり低いと考えます。
伝音性難聴は外耳〜中耳の障害で、現代医療でもある程度外科的治療、薬物療法で改善が可能です。100年後のPPの医療水準なら、大半の伝音性難聴には対応可能だろうと考えます。あとは、先程触れた補聴器の種類ですね。伝音性なら、補聴器は耳かけ型よりも骨導性を採用したのでは?(一般的に「補聴器」と聞いて思い浮かべる形は耳かけ型なので、視聴者に補聴器だと伝わりやすいビジュアルを採用した線も捨てきれませんが)

【感音性難聴のうち、どの種類の可能性が高いか】

以上より、矢吹の難聴は感音性難聴だろうという考えの元考察を進めます。
両耳に補聴器をつけていることと、「矢吹さん、もう大丈夫です」の聞こえ方から、両耳とも同程度で中等度〜高度(60〜90dbの間くらい)の難聴でしょう。なので、基本片耳に症状が出る『メニエール病』『突発性難聴』は可能性が低いと考えます。また、補聴器で聞こえを補いにくい『後迷路性難聴(聴神経腫瘍含む)』も可能性が低いと判断します。
あと薬剤性難聴ですが、これもシビュラがあること、薬剤開発や各種検査が現代より充実しているであろうことから、回避できると考えます。ただし、現代に存在しないタイプの新薬の副作用で難聴になった、という設定は、できなくはないですね。
残るは『遺伝性難聴』『老人性難聴』『騒音性難聴』ですね。順に見ていきます。

●騒音性難聴
可能性は結構高いと思います。先程もちらっと触れましたが、若い頃の矢吹の経歴は外務省または国防省の可能性が高そうだからです。慎導篤志とともに主導で2098年にピースブレイカー隊を創設し、国防省の砺波を引き入れたということは、国防省ともそれなりに深い付き合いがあったことが想定されます。慎導篤志が厚生省なので、外務省または国防省にいた矢吹の方が砺波(国防省)とより多くの接点があったのかなと。
だとしたら、外務省にいたにしても国防省にいたことがあったしても、若い時はそれなりに戦闘・紛争参加経験があったと考えられます。銃火器・武器の騒音、爆撃音などで内耳の有毛細胞がやられて騒音性難聴になったとしても、おかしくはないでしょう。
なお、現代でも騒音性難聴になりやすい傾向がある遺伝子としてNRF2の産生に関わる遺伝子が見つかっています(常染色体にある)。矢吹の難聴の原因にこういった遺伝背景があってもおかしくなさそうです。

●老人性難聴
こちらに関しては、可能性はなくはない…という感じです。早い人では50代から症状が出るようです。ただ、老人性難聴は、加齢による聴力低下を原因とする難聴を指すので、矢吹の年齢(恐らく50代)で60db以上の難聴の原因が加齢だけ、というのはかなりレアケースかなという気がします。他の原因による難聴に加齢による衰えが重なって、というケースならあるでしょう。

●遺伝性難聴
これも可能性は高いですね。というのも、騒音性難聴にしても老人性難聴にしても、ある程度遺伝との相関関係があるとされており、大半の難聴には遺伝的要因が関わってくるからです。
遺伝性感音難聴は先天性のものもあれば後天性のものもあり、細かくタイプが分かれていて、症状の重さや傾向、発症時期も個人差が激しく、「この遺伝子の変異によるものだ!」という特定は普通に不可能です。ただ、どのタイプの遺伝性の可能性が高いかまではある程度予想できそうなので、掘り下げてみます。

まず、ここまで触れた矢吹の難聴の特徴は
・両耳性、恐らく中等度〜高度(60〜90db)くらいの難聴
・耳かけ型補聴器をしている
・音さえ聞こえれば言葉の聞き取りや発音に問題はない
・上記から重度以上の先天性難聴の可能性は低く、言語習得可能な先天性難聴か後天性難聴
でした。これらを前提に見ていきます。

遺伝性難聴には、下記の4種類があります。
(1)常染色体優性遺伝(顕性遺伝)
(2)常染色体劣性遺伝(潜性遺伝)
(3)X連鎖性劣性遺伝(伴性劣性遺伝)
(4)ミトコンドリア遺伝
※現在は優性遺伝を顕性遺伝、劣性遺伝を潜性遺伝と言いますが、私がこの言い方にまだ慣れていないので優性、劣性で書き進めます。ご注意ください。

また、遺伝性難聴は
症候性難聴:難聴意外の臨床症状がみられる
非症候性難聴:難聴意外の症状を伴わないもの
のどちらかに当てはまりますが、矢吹の場合は後者の非症候性難聴と思われます。(難聴以外に持病はなさそうに見えるため)
なのでこの先は非症候性難聴前提で進めます。

✱ 遺伝のしくみについて
ここで一旦、遺伝形式を見ていく上で必要な染色体の知識について簡単に説明しておきます。
遺伝情報の本体であるDNAは、細胞の中でヒストンというタンパク質に巻き付いて複合体を作っています。こうしてできた、糸状の構造物を染色体といいます。
ヒトは22対の常染色体と1対の性染色体を、計46(44+2)個持っています。子どもは両親から1対の染色体のうち1本ずつを引き継いで産まれるので、各染色体の組み合わせパターンは4通りあります。
性染色体は、男性はXとY1本ずつ、女性はXを2本持っており、父からYを引き継げば男の子、Xを引き継げば女の子が生まれます。X連鎖性とは、X染色体上に変異遺伝子をもつもののことです。
遺伝形式についてはこちらのリンク先こちらのPDFが簡潔にまとまっていますので、興味あれば参照ください。

(1)常染色体優性遺伝
言語習得前の非症候性難聴の20〜25%がこれにあてはまるようです。一方、言語習得後の非症候性難聴のほとんどがこのタイプのようなので、矢吹もこれにあてはまる可能性は十分あると思います。高音から聞き取りにくくなる進行性の難聴が多いようです。難聴の程度も平均聴力58.2db(標準偏差25.7db)で個人差はあるものの、比較的軽めみたいです。
このタイプは、両親のどちらかが難聴に関わる優性遺伝子を持っていた場合、子どもは50%の確率でそれを受け継ぎます。矢吹がこれにあてはまるなら、片親もしくは両親が難聴だったことになります。
※日本人は、海外よりも常染色体優性の難聴患者の割合が少し高いようです。

(2)常染色体劣性遺伝
言語習得前の非症候性難聴の約75〜80%がこれにあてはまるようです。また、非症候性難聴の約80このタイプのようなのですが、矢吹は言語習得はできているので、あてはまる可能性はやや低いと考えます。PP世界の医療技術によって、幼少期に中等度〜高度の難聴であっても言語習得に問題がないのであれば、このタイプでもおかしくはないのですが……。

(3)X連鎖性劣性遺伝
言語習得前非症候性難聴の1〜1.5%があてはまるようです。かといって、言語習得後の非症候性難聴になりやすいというわけでもないようです。あてはまる可能性はなくはないですね。
このタイプの場合、矢吹は母親から原因遺伝子を受け継いでいることになります。

(4)ミトコンドリア遺伝
こちらも(3)同様、遺伝性難聴の中で占める割合が少ないようですが、現時点でわかっている代表的なミトコンドリア変異は、後天性で両側対称、水平〜高音障害型、進行性などの特徴があり、矢吹にあてはまりそうではあります。(一部の変異は薬剤性難聴を引き起こしやすい特徴があります)
これに当てはまる場合も、矢吹は母親から原因遺伝子を受け継いでいることになります。

以上から、矢吹が遺伝性難聴だった場合、
・非症候性で、常染色体優性遺伝、X連鎖性劣性遺伝、ミトコンドリア遺伝の可能性がやや高く、常染色体劣性遺伝の可能性がやや低い
・矢吹の母親の方が原因遺伝子を持っている可能性が僅かだが高い

と考えられるかなと思います。

【矢吹の難聴についてまとめ】

断定できることはほとんどないのですが、可能性が高い順にまとめます。

──公式情報からもわかる、ほぼ確定事項──
・高性能の耳かけ型補聴器を両耳に使用しており、両側性の難聴
・言語習得に問題なし。音が聞こえれば言葉は聞き取れるし、発音も大丈夫

──可能性が高い──
・人工内耳は恐らく入れていない
・上記と聞こえ方より、高度(71〜90db)くらいの難聴
・有毛細胞に障害がある非症候性の感音性難聴

──可能性がやや高い──
・後天性難聴である
・感音性難聴の中では、騒音性難聴、遺伝性難聴、老人性難聴の順に可能性が高い
・難聴になる/なりやすい何らかの遺伝的要因を持っている
・遺伝性難聴だった場合、常染色体優性遺伝、X連鎖性劣性遺伝、ミトコンドリア遺伝のいずれか

──可能性がやや低い──
・先天性難聴である(ただし、人工内耳以外の治療などにより言語習得が十分に可能なレベルの難聴だった場合は可能性はもう一段階高い)
・薬剤性難聴(現代には存在しないタイプの新薬の副作用)
・遺伝性難聴だった場合、常染色体劣性遺伝

──可能性はかなり低い──
・伝音性難聴、混合性難聴
・症候性難聴である
・感音性難聴のうち、突発性難聴、メニエール病、後迷路性難聴

──特定不可──
・難聴の原因となる遺伝子
・難聴発症年齢(騒音性や老人性なら成人以降、それ以外は0〜40歳くらいまで可能性あり。個人的には10〜20代で補聴器をつけ始めて徐々に悪化しているか、成人後に職務で騒音に晒されてある時から難聴になったか…あたりを想像しています)

【矢吹に砺波が憑依した時の聞こえについて】

矢吹の難聴を前提に、ようやく進めたかった考察へ着手です(笑)
そして念の為ワンクッション置きます。上映後座談会での公式発言などに対して反対側の意見を見ても大丈夫そうな方のみ、この先にお進みください。(無理そうでしたらそっ閉じか、この項目を飛ばしてください)

矢吹に砺波が憑依する時は翻訳チップをクラッキングしますが、その仕組みは前回の考察で触れた通りです。
つまり、音の情報も電気信号として翻訳チップからある程度増幅しながら受け取り、ジェネラルの補助を受けつつ砺波が処理していると考えます。
さて、矢吹の難聴は中等度〜高度くらいの感音性難聴で、恐らく有毛細胞に問題があります。感音性難聴は、音が聞こえていても言葉として何と言っているか聞き取りにくいのが特徴です。矢吹レベルなら、音の大きさ、バランス、方向、ノイズ削減あたりを全てカバーできそうな高性能の補聴器がなければ、言葉を聞きとるのはちょっと音量を大きくしたくらいではキツいはずです。
砺波が憑依しても、一度損傷したら二度と回復しない有毛細胞の機能をカバーすることはできません。砺波が翻訳チップを介して脳から受け取れる、音に関する電気信号は、あくまで矢吹の聴力で聞き取ったものと同じです。だから、砺波が憑依すれば補聴器がなくても聞こえる(聞き取れる)ためには、拾えた電気信号を増幅して、それでも音声が不明瞭な音の中から「言葉を抽出・解析する」作業をジェネラルが担い、ジェネラルから解析結果を砺波が受け取って言葉を聞きとるくらいのことができないと、説明がつけられません。砺波側にこれができたとして、矢吹の耳が拾えない声はいくら増幅しても聞こえるようにはならないので、補聴器なくても大丈夫というほどの聞こえにはならないかと…。なので、部分的であっても音声さえ拾えていれば、必要な音情報を増幅して、聞こえなかった内容をジェネラルが解析・予測で補うということである程度筋は通せます。うーんでも「矢吹さん、もう大丈夫です」では音量も言葉の聞き取りやすさも殆ど補えている感じはないですね。言葉としての聞き取りは砺波の方が少しマシかも、という程度。ここ耳に水が詰まってただけっていうオチだったらどうしよう。
以上から、耳と脳神経の構造や機能、翻訳チップや憑依の仕組み上、砺波なら補聴器いらずになるほど聞こえるとするには科学的に筋の通った説明は厳しい。という答えを私は出します。「(憑依している)砺波なら補聴器がなくても聞こえる」という旨の公式発言とは逆の答えになってしまいましたが、どうしてもここで引っかかり、自分なりに納得のできる科学的根拠を元に答えを出したかったんです。
そもそも制作陣が設定を考える時に、難聴のしくみや種類、程度などについて、これほどまで深くは考えていない可能性の方が高く(他にもっと練られるべき内容がいっぱいあります)、掘り下げて考察する私が異端なのは承知しています。
補聴器の有無と矢吹、砺波の聞こえは科学的辻褄より演出が重視された、というだけかもしれません。

ところで、憑依した砺波は電波暗室のことをどう知ったんでしょう。ストレッチャーで外務省ビルに運ばれるまでの間に交わされた会話を聞いたんでしょうか。
矢吹自身の聴力がどのくらいかによりますが、60dbくらいなら各シーンの台詞の断片くらいは拾えていたかもしれません。(「砺波だから補聴器いらない」にはどのみち矛盾します)
70db以上の高度までいくと、煇が矢吹を肩に担いで「外務省の潜入捜査官だ」って言っている時は意識があればギリ聞こえていた可能性はあっても、「今すぐ俺を拘束しろ。砺波に気づかれたらまずい」は口の動きなどの視覚情報も無く、音量を抑えられた声だから聞こえてないんじゃないかな、と思います。
輸送中の機内で砺波in矢吹の意識が戻っていた説もあるようですが、密室で小声でなくても60db以上の感音性難聴であの距離だと言葉を聞き取るのは厳しいはず。70db超えると多分もうきつくて、一番声が大きくはきはき話すフレデリカの台詞だけ断片的に聞こえたかも…?くらいでしょうか。
運ばれる間の会話を聞き取れていなくても、煇(甲斐)のディバイダーへの憑依を試みようとしたら繋がらなくて、電波暗室にいると踏んで場所を探ったorフレデリカ達から聞きだした、とかも考えられるので、聞こえていたかどうかで展開に矛盾はでません。そこは安心です。
なお、電波暗室入口で左耳に手を当てていた時は、「動くな!」「よせ、撃つな!」の叫び声なら矢吹だろうが砺波in矢吹だろうが、聞こえててもおかしくはないかなぁという認識です。

【おまけ:矢吹が遺伝性難聴だった場合のちょっとした妄想】

矢吹と慎導篤志は、かなり長くそして浅からぬ付き合いだったようですが、出会いについては謎ですよね。(矢吹もインスペクターだったと思いますが、インスペクターになる前から知り合いだった可能性もある?)
矢吹が遺伝性難聴だった場合、慎導篤志と篤志の奥さんとの出会いの妄想の幅が少し広がるかもしれません。
何故かというと、慎導篤志の奥さん(灼の母)、死因が「遺伝子疾患による長期闘病の末、安楽死」なんですよね。ここで遺伝子疾患持ちとして矢吹と共通点が生まれます。遺伝子検査や治療などで来ていた病院で出会ったとか、慎導篤志より先に矢吹と知り合いだったとか、そういう可能性が見出だせるようになります。別に灼の母が若くして亡くなる理由は、事故でも事件でも別の疾患でも良かった筈ですよね。何故制作陣は「遺伝子疾患」という設定にしたんでしょうか。あの慎導篤志が選ぶ相手ですよ。PPの世界で若くして亡くなるならこの辺の理由だろうってなんとなく決めたんでしょうか?
矢吹はどの時点で設定されたキャラクターかわかりませんが、SS3ではフレデリカの通信相手が矢吹だったようですし、3期放送時には矢吹の存在は考えられていてもおかしくはなさそうですね(どこかで言及されてましたっけ?)。なので、矢吹と慎導篤志の間に何か接点となりうる設定を、と考えた時、矢吹と奥さんが遺伝子疾患持ち、になった可能性は…ありますかね…こんなに深く細かく考えられてたら嬉しいし感動ものです。
いやもうこの際遺伝とか関係なくていいので、慎導篤志が奥さんや矢吹といつどこでどう出会ったか知りたいです…オフィプロやノベライズ、今後のシリーズでワンチャンないですかね…!

【さいごに (+ 参照先一覧)】

ピンポイントに掘り下げた考察を読んでくださり、ありがとうございました…!!頭オーバーロードしながら書いたので読みづらかったかもですが、少しでもへぇ〜と思っていただけてたら幸いです。
これを機に、難聴にも種類や程度が色々あるんだなとか、何か新しい興味を持ってもらえたら嬉しいです。

次回は……PPPの時系列考察(煇と慎導篤志の命日中心)をやろうかなと思っていた時期もありましたが、今のところ未定です。また何か気が向いたら考察なり感想なりを記事化してみたいと思っています。その時はよければ覗いてみてください。

〈参照サイト一覧〉※本文中に貼ったリンクも含む
聞こえのしくみの解説
耳のしくみと難聴の種類

補聴器の性能・機能(PDF)
補聴器の機能について
デジタル補聴器の機能
骨伝導補聴器について

伝音性難聴について① 
後迷路性難聴について①  
老人性難聴のしくみ
メニエール病について
メニエール病と感音性難聴
突発性難聴について
感音性難聴について① 
感音性・伝音性難聴について

遺伝性難聴について①  
若年発症型両側性感音難聴の遺伝子診断
優性遺伝形式をとる遺伝性難聴の診療ガイドライン(試案)(PDF)
難聴の遺伝医学(PDF)
ミトコンドリア遺伝子異常と内耳障害(PDF)

薬剤性難聴について(重篤副作用疾患別対応マニュアル:難聴 ※PDF)
聴神経腫瘍の詳細

染色体と遺伝形式について
遺伝性難聴と遺伝形式について(PDF)
先天性難聴児への対応(PDF)
騒音性難聴に関する遺伝子について① 


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