白い教室
ぼくは教室の片隅ではじめて
あなたの姿を見つけてしまった、
だけど《大きな人間》がやってきて
ぼくらは整列して黒い頭を傾けた。
*
ぼくらは黒い板と白い壁に閉じこめられて
動けずにここにいる。
黄色い肌をざわつかせて
この時間が終わりを告げる《あの音》だけをじっと待っている。
ぼくらはひとり遊びがとても下手だ、
秘密の手紙が廻るとぼくらはゆっくりとざわめきだす。
ぼくらは指をさされて返事をする、
名前を呼ばれて立ちあがる、
答えられずにひっそり俯いて。
もうどこにも戻れない、二度と。
知らないうちにすべてがはじまっていた。
水槽のなかでまどろみながら泳ぎつづけている幸福な魚たち。
*
こんど生まれるときは爬虫類になろう、いやらしい目つきをした
生きることだけを考えて
脇目もふらずに一生懸命生きるんだ!
ああ! ぼくらはまったく出来損ないだ。
まだ少しまともなやつらもいるのに
ぼくらの心が病んでいるのは
おそらくどこかでつくり間違えたんだろう?
*
机のうえ、塞ぎこんだぼくに《大きな人間》が訊ねる、
「おまえ、どっか具合でもわるいのか?」
「なんだか頭の具合がわるいみたいなんです」
それはこの教室に流行りはじめている
新しいウィルスみたいなもんだ。
白墨と机の匂いのサナトリウム、
なんとかまともになるために
ぼくらは手厚い治療を受けている、
ぼくらは歳の数ほど欠伸をする、
どうにも不器用な看護婦とやぶ医者ばかりじゃ治らない。
もうどこにも戻れない、二度と。
知らないうちにすべてがはじまっていた。
ぼくは教室の片隅ではじめて
あなたの姿を見つけてしまった。
もうどこにも戻れない、二度と。
知らないうちにすべてがはじまっている。
臆病な眼をしてあいまいに笑って
泳ぎつづけている幸福な魚たち。
*
ぼくらは今日も指をさされ俯き
欠伸を咽喉で殺して
うるんだ眼を見上げる。
(1988年2月7日〜1991年)
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