鳥と鼠
冬の街路に羽ばたく鳥たちは
雪の街灯かすめて小さな無名の旅に出る。
地上に残された者は
見えない荷物を背負っている、
やつれた空の頭のうえから足の先まで!
地上人ならば泥の翼もついていない、
おもい衣装をひきずって
身軽な犬や猫でさえもない。
*
重い病に倒れることだけが
いまのわれらには残されている栄光か?
余命でも宣告されたとたんに
ぼくは生きはじめる!
落葉の路を急ぎ足で駆けてゆく
ちいさな濡れ鼠にでもなれるかもしれないね、
ただこの坂道を真っすぐに駆けおりる。
*
町の朝霧に倒れし者たちよ。
おまえがゆうべの夜更けに見たやつが
最後の夢だ!
落陽の路を千鳥足で駆けぬけて
一生をこの地表にはりついて生きてゆく
ちいさな濡れ鼠がきっと僕たちだ。
*
雪の街路に羽ばたく鳥たちが
行き先も分からない曇り空に向けて
いまぼくを鼻で笑って
飛び去った!
(1990年3月9日〜1994年12月)
* 扉写真は、図録「没後20年 鴨居玲 私の話を聞いてくれ」より
鴨居玲「雪と鳥 於能登輪島」(1980年)
Snow and birds(at Noto Wazima)
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