泥コーヒーと夏 (酷暑篇)
太陽の下で野良犬がのぼせあがれば
僕らは夏のシャツを躰に貼りつかせる。
*
太陽の下で僕はまだ冷えきった頭持て余す。
《夏の日に
僕はあなたの真似をして
苦いコーヒー啜り飲んでみる》
そのガラスコップのコーヒーは…
そこまで云って君は口ごもる。
僕は君が飲みこんだ言葉
つづけさま吐き出してみせる。
僕らのコーヒーは何だか泥コーヒーみたい
濁ってるガラスの壁を苦渋の滴が垂れそうだ、
僕らの飲むコーヒーは何だか僕らの夢みたい、
苦く香る、ガラスを伝い浮かべた冷や汗が
流れそうで立ち止まる。
太陽の下で震えあがる僕は
ひしゃげた影を見つめている。
*
あらゆる人々が夏に向けて
焦躁の日々を歩き始めていた六月はもう昔のことだ、
蝉が爆発する声で
僕ら二人のくだらない青春の
日常の壜底をじりじりと焼き焦がす。
あらゆる人々は死んで、秋に向け歩きだす。
今年は暑い夏だったねと
お前が曇り声で拗ねる、
世間じゃこんな夏のことを酷な夏と呼ぶらしいけどね。
本当に今年の夏は身も溶けてしまいそうな灼けつく季節!
とにかくずっと熱が唸りをあげていた。
僕らの飲むコーヒーは何だか僕らの夢みたい、
最低だ、僕らのグラスが冷たい氷の音を立て
身震いをする。
太陽の下で僕はまだ
痺れた舌先で夢を舐める。
*
太陽の下で野良犬がのぼせあがれば
なんだか僕らの頭は冷えたジュースみたい。
(1993年8月、2020年8月一部改詩)