夏の残り滓
ちいさく背伸びをして
八月の空を見上げていたら
ぼくの右眼にひと粒だけ
つめたい雨が落ちてきた。
もう終わりなんだな、
夏の虫が高い樹でまだ騒いでいる。
*
消し忘れた扇風機が
ばかみたいに頭を振っている、
夏の虫の死に殻がぺしゃんこになって
雨に打たれる。
思い出したように照りかえす日射しのなかで
過ぎてゆく夏の残り滓に
眼を潤ませているぼくがいるだろう、
ちょっと暑さにやられただけだ。
*
夏の残り滓が
きみの肩のあたりで剥けかかっている、
ぼくの子供時代最後の夏が終わる。
(1989年8月)