未決囚
痩せこけた改造自動車が
白っぽい粉末を撒き散らしながら
中央通りを進んでゆく、
振り返った僕の眼の前で
ふいにそれが消えて
心の内側にちいさな砂埃をあげた。
おおお、ガソリンスタンドには誰もいなくて
もとの砂漠にでも戻ったみたいだ。
*
市役所と裁判所、
律儀な背広のオンパレード、
外されたナンバープレートは受理済み離婚届、
いつの時代にも犯罪に必要なものは
欲求不満と渇ききったみすぼらしい焦躁。
おおお、ながく垂れ下がるホースから滴る濁る油(オイル)!
*
おまえには博愛と淫売の区別がつかなくて
僕にも熱情と劣情の区別がつかなくなった、
忘れることなんてきっとないと思ってたのに!
今はもう何もかも忘れ去ってしまったみたいなんだ、
たとえどんなふうに生きたとしても
自分を欺いている気がするのはなぜだろう?
暗闇からやって来て
やがてまた暗闇に吸い込まれてゆく一条の光、
ほんのささやかな一瞬の出来事。
(2000年5月24日〜11月20日)