冬の野の犬
故郷の町。
傾いた背中のうえ
白い大群がこの町を襲撃に来る。
春の大雪にぼくは心震わせて
黒い屋根瓦に最後の雪が降りつもる。
ああ、きみの影を曳きずりながら歩こう。
痩せた胸をそっと震わせよう。
ぼくはポケットの拳を握りしめて歩いていく。
ぼくの故郷は遠くにあるものじゃない、
心の内側でぼくを縛りつけるものだ。
*
故郷の道。
懐かしいものどもの群れ、
古い地下街は無名の人ごみもない。
裏の通りには今でも昔の赤煉瓦、
十年前のぼくたちにばったり出会ってしまいそう!
ああ、きみの影を曳きずりながら歩こう。
痩せた腕をそっと震わせよう。
ぼくはポケットの孤独を握りしめて歩いていく。
ぼくの故郷は呻きをあげている町だ、
心の内側で震える涙声で。
ぼくらの故郷は雪に埋もれた町だ、
遥か遠い日の悲しみの向こう。
まるでダム底に沈み去る村のよう、
今やどこにもあの日の町はないんだから、さあ!
*
昔日の町に集えや黒い鳥たちよ、
辺り一面を漆黒の羽根で埋め尽くせ。
貧しきつがいどもは二度と還ることはない、
どこか別の場所で行き倒れにでもなるよ。
駅前大通りでビル風に立ち向かってゆく
ひどい猫背のぼくは
冬の野を行く犬だ!
ああ、きみの影を曳きずりながら歩こう。
痩せた胸をそっと震わせよう。
ぼくはポケットの孤独を握りしめて暖める。
らんらんらら、らんらん、らんらんらら
(1991年2月〜1994年3月)