二十万年
僕らは二十世紀の冷えた街路のうえで
足元のジュースに浮かぶ揺れる満月をまだ眺めている。
僕らの先祖たちも僕らと同じように
満月と焚き火に照らされ獣の肉を喰ったんだろう!
僕たちは誰も彼もが新しい衣装を身につけている、
心のなかには今でも古い《過去》が充満している。
二十四時間、僕らの言葉は走りつづけている。
*
僕らの先祖たちがアフリカの地を旅立ち
足元の水場で揺れる夕暮れの陽に深く嘆息する。
僕らは二十世紀の渇いた都市の縁で
動物のマークのガムを取り出して噛みしめている。
何回も傷つき倒れて
飢えていることさえもう分からなくなって
覚悟を決めてこの跳躍台から跳び出した、
いっせいに、そっと!
二十一番目の人間はまだ居眠りをしている。
*
僕らは二十年前、古い世紀の夜更けに生まれ
砲弾と濁流を逃れ世界中に散らばっていった子ども。
この人生の川のほとりで僕はおまえと出会い
恋をしてやっと初めて本当の《人間》になれたのだ。
僕らの心のなかには古いものと新しいものが
混じり合っていて、それでもいい、
僕らはそういう《人間》だ。
二十万年先まで僕らは生き残ってみせるよ。
*
そんな僕らの運命は誰にも分りはしない、
満月がいつまでも優しく
僕らを冷笑してくれる。
(1998年10月〜1999年3月、2020年10月4日〜10月10日 一部改詩)
分子人類学者・篠田謙一氏の言葉
「現代で人種差別と呼ばれるものの多くは
文化や宗教の違いからくるもので、
生物学的な違いではない」
「私たちはみんなアフリカ人である」
に影響を受け、一部の詩を改変いたしました。
(参考文献:ビッグイシュー日本版 第326号掲載
篠田謙一氏インタビュー
「私たちはみんなアフリカ人。
絶滅した旧人類の血も受け継ぐ」)
詳細はこちら↓
コンクリートの《森の人》
https://note.com/dollylp02/n/ne55db38c7859