『手しごとで暮らす』という仕事
はじめまして。
京都東山で、『Dongreeコーヒースタンドと暮らしの道具店』を営む柴崎友佑と申します。
「就職をしない」という生産性のない志だけを胸に、京都の芸術大学を卒業。
フリーランスのWEB制作業や、いろんな派遣・アルバイトでその時その時を食いつなぎ、30歳を過ぎるまでのらりくらり生きてきた人間として、漠然とした人生や世の中の不安を感じる日々を送っておりました。
しかし、そんな安定しない低所得の暮らしの中で、
『それでも豊かな暮らしがしたい!』
と切に願った末、約3年かけて考え、ひねり出した
『手しごと』と『暮らし』
という人生のテーマを掲げ、今は店主を名乗らせてもらっています。
まずは自らの環境を変えるべく、店主となってから豊かな暮らしを目指しますことに決めました。
そんなお店は京都5人の焙煎職人による新鮮なコーヒ豆と、様々なジャンルの職人が作る「暮らしの道具」を扱う小さなお店です。
一人から一人へ。
より少なく、より豊かに。
値段の高い安いではなく、一人の確かな職人さんが作る上質な物を選び、日々楽しみ、末長く使う。
そんな『丁寧な手しごと』が世の中を少しずつ豊かにしていくと信じ、その実現のためにどうすればいいか、自らの暮らしも含めて考えながら、経営しています。
物を作る人がいて、それを求める人がいる。既存の経済に左右されないお互いに顔の見えるちょうどいいサイズ感の暮らしのコミュニティ。
Dongreeコーヒースタンドと暮らしの道具店は、そんな理想郷を作り、お金に頼りすぎない持続可能で豊かな暮らしの形を目指しています。
では豊かな暮らしとは何か。
前述の通り、その答えを見つけたくて、京都東山のお店を始めました。
そして今もまだ模索中です。
ただ、店主となって3年目に入り、最近は少しだけ道筋が見えてきました。
それが
『手しごとで暮らす』
というテーマです。
ここで言う『手しごと』とは、
顔のわかる一人一人の職人さんにより作られた物(器、衣類、食品、家具、その他生活道具)、
または
農作業や料理をはじめ、自分自身の手で作る物や生活にまつわる行為を意味します。
お金や時間にとらわれて、効率ばかり考えるのではなく、本当に良いと思えるもの(物・者)を暮らしに取り入れていく。
それが私の考える『手しごとで暮らす』、です。
『丁寧な暮らしのディレクション』
そもそも店のコンセプトを考える段階で『手しごと』と『暮らし』というテーマは出ていました。
ただ、それがどんな形で表現し、事業として落とし込んでゆけばいいのかは分からないままでした。
分からないなりにも、日々のコーヒー提供や物販、そして年に数回行う各職人さんごとの展示会を通して、なんとかして世の中に表現できる形を模索してきました。
同時にその活動を、自分達の生きる糧(お金)にしていきながら。(これが中々にサバイバルです)
そして最近、そのDongreeの活動には以下の要素があるということが分かってきました。
・作る人を大切にする
(手しごとが持続的な活動となるために)
↓
・使う人を大切にする
(作る人とお店を支えてもらうために)
↓
・時間を大切にする
(手しごとの事をしっかり考え、丁寧に伝えるために)
↓
・お金を大切にする
(作る人に対価を支払い、伝える仕事を続けるために)
↓
・物を大切にする
(消費を減らしお金と時間を有意義に活用するために)
つまり『手しごとで暮らす』というのは、単に手作りの物を丁寧に扱い、販売紹介するだけではだめで、
まず自分の身の回りを良い物にしていき、お金と時間を管理することからはじまり、
作り手やお客さんのお金や時間の過ごし方を大切にし、
『みんなが豊かになるバランス』を考え、提案し、表現する。
生活にまつわるあらゆる物事に携わり、場や時間を創出していく
『暮らしのための総合ディレクション』
であると改めて気づいたのです。
資金がないと事業は立ち行かない。
これは分かりやすい
ただ、十分な資金があるからといって、良いもの、良い手しごとを大切にする事業ができるとは限らない。
何故なら経済的な裕福度に関係なく、手しごとに関わる人、興味を持つ人、が増えないと、社会全体としての『手しごと』の需要は上がりません。
丁寧な手しごとで作られる良い物というのは、多くの場合は手間がかかったり、素材を厳選していることにより、大量生産品と比べるとどうしても高価で、『暮らし』とは離れたお金持ちの趣味になってしまいがちだと思うのです。
生活必需品として捉える食器や衣類などは、安いものを探せばいくらでも出てくるので、経済的に余裕のない人たちは、どうしても『丁寧な手しごと』よりも、手の届きやすい安価な大量生産品を求めやすくなります。
経済的にゆとりがある人だけが、良いものを買って時間を豊かに過ごすのではなく、人それぞれに豊かな暮らし方が出来るように。
それを事業として成り立たせるには、資金がなくても継続させる意思や、アイデアが必要です。
『手しごと』を大切にして暮らす。
それはお金が入ってからやろう、ではなく、お金がなくもと大切にしたい。
それがDongreeの基本的な考え方であり、今一番伝えたいことです。
その活動の先に、目指すべき豊かな暮らしがあると思っていますし、そうであって欲しいと願います。
といいつつ、自分自身その方針が正しい方角を向いているのか正直まだ半信半疑で、いつ力尽きてお店がなくなってしまうか、心配事は絶えません。
だから力尽きるその前に、一つでも多く、確信が持てる活動を積み重ねています。
その活動とは大きく分けて以下の3つです。
1.『五焙』のドリップコーヒー
京都5人の焙煎職人による、5つのコーヒーから選ぶドリップコーヒー。
同じ京都の町で新鮮なコーヒー豆を焼く人達をはじめ、その先にある世界中の人々の丁寧な手しごとが、美味しいコーヒーを支えている。その手しごとの繋がりを伝えながら日々、挽きたて淹れたてのコーヒーを提供する。
2.企画展『暮らしと手しごと』
年に数回Dongree店内で行う、一人の作り手による展示会。
職人さんとお客さんが直接触れ合える場を設け、丁寧なものづくりが日々の暮らしに添えられることの楽しさ、大切さを伝える。
3.常設展『暮らしの道具店』
イートインスペースの座敷で、いろんなジャンルの職人による製品を販売。コーヒーを飲みゆっくり寛ぎながら、手しごとに触れてもらう。職人のことや、ものづくりのことを知ってもらう機会をつくる。
「人との繋がりを楽しみに来ている」方々が当店のお客様には比較的多いのですが、その楽しみ方は人それぞれ。
繋がりを求めて休みのたびにコーヒーを飲みに来てくれたり、当店で出会った作家さんの手しごとに興味を持ち、買ってくれた後も大切に使ってくれる方がいるのは、大変嬉しいことです。
「ここにいると、個性豊かな人達に会えるから楽しい」
よく来てくれるお客さん達は、最近みな口を揃えてそんな風に言ってくれます。
お互い顔のわかるマーケット作りを目指し、始まったお店は、いつの間にか様々な方の『暮らしの交差点』となりつつあるのかもしれません。
そしてその真ん中で、店主として立っていられることに幸せを感謝しながら、まだ見ぬ暮らしと手しごとの理想郷を目指すべくこれからも信頼できる仲間達とともに活動していきます。
Dongreeがこれから起こす何かに少しでも感じるものがあれば、そして何か一緒に起こしてみたいことがある方、いつでもメッセージをお待ちしております。
願わくば、Dongreeの活動が他のだれかの種(どんぐり)になることを楽しみにしつつ。
Dongree コーヒースタンドと暮らしの道具店
店主 柴崎 友佑