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警視庁の地下ドル批判に対する懸念について

はじめに

2022年12月15日警視庁生活安全部の公式アカウントがこのようなツイートを行った。

AV新法の時のように、未成年を守る前提の話から業界全体の締め付けになるような悪法を制定されないよう、別個の問題は別個の問題として考えていきたい。
私が考えるこのツイートの問題点および、未成年排斥の動きが地下ドル現場で起こった場合に起こる懸念について自論を語らせていただこう。

中高生がアイドル現場に通い詰めることは金銭的に可能か?

そもそも、中高生に地下ドルのライブにのめり込むほど通うことが可能なのか?
中高生の平均的なお小遣いの金額のアンケート結果、支出内容に関してのデータを参照しつつ、考えていきたい。


「2020年の中学生・高校生を対象にしたお小遣い調査」はお小遣いをもらっている子は全体の6割であった。
以下、お小遣いをもらっている子の金額詳細。

【中学生男女】
1000円未満       15.2%
1,000円〜3,000円未満   51.3%
3,000円〜5,000円未満   18.7%
5,000円〜7,000円未満     8.3%
7,000円〜10,000円未満   1.7%
10,000円〜15,000円未満    2.2%
15,000円以上                      2.6%

【高校生男女】
1000円未満         4.2%
1,000円〜3,000円未満   20.3%
3,000円〜5,000円未満      37.3%
5,000円〜7,000円未満    24.5%
7,000円〜10,000円未満    4.7%
10,000円〜15,000円未満     7.1%
15,000円以上                       1.9%

中学生男女は「1,000〜3,000円未満」が最も多く51.3%、高校生男女は「3,000〜5,000円未満」で37.3%となりました。

【2020年】中学生・高校生のお小遣い事情に関する調査
TasTee Lab.

高校生の場合、アルバイトもしている子もいるので、さらに高校生の平均アルバイト収入金額も追記する。

「収入はお小遣いのみ」と回答した人の割合は、高校生43.8%
~中略~
他方、「お小遣い以外の収入がある」と回答した人の割合は、高校生33.3%
~中略~
ひと月あたりに使っているお金の平均は、高校生では7,088円
~中略~
友だち付き合いや趣味にはいくらくらいかけているのでしょうか。
使っているお金の平均は、高校生では1,554円
~中略~
また、自分の趣味に、ひと月あたり、いくらくらいお金を使っているか聞いたところ
学生区分別にみると、使っているお金の平均は、高校生では2,903円

10代はどのようなものに自分のお金を使っている? TOP4は「ジュース・お菓子」「食事」「趣味」「ファッション・コスメ」 ≫ 「ファッション・コスメ」に自分のお金を使っている10代は35%、
その平均使用額はひと月あたり5,284円

10代の金銭感覚についての意識調査2020(9月調査) 
SMBC

上記がSMBCが2020年に調査した高校生の収入と支出先の割合である。
友人との交流に使う金額よりは趣味に使う金額が多く、支出のTOP4は食べ物・趣味ファッションなど。

高校生はアルバイトをするとしても親の扶養内(年間103万以内)の壁がある。
そもそも、日中は学校に通い、22時以内には帰宅しないといけないので、仮に18時半頃からバイトをしたとしても平日は約3時間ほどが限界だろう。
土日にガッツリとアルバイトを入れたとしても社会人ほど稼げない。

高校生の1カ月のバイト代は1万円台~3万円台で半数以上とタウンワークの調査結果では出ている。
月々数千円のお小遣いに加えて、せいぜい頑張って3~4万円程度が高校生の可処分所得といえるのではないだろうか?
アルバイトが禁止の学校も多いので、振れ幅はかなりあるだろうが、仮に月3万円使えたらかなりリッチな高校生ではないかと思われる。
タウンワーク調べでは、10万円以上が2.3%、さらに20万円以上も0.5%と高校生で高額に稼いだ人もいるとは記載されている。
稼げる高校生も存在はするが極めてマイノリティな存在といえるだろう。



一方、地下アイドルに通うのに1回あたりいくらかかるのか?

これは私の経験則から計算させていただく。
まず、「無料ライブ」はCDショップのイベントスペースやショッピングモール等のリリースイベントの場合、完全無料だが「ライブハウス」で開催される場合通常「ドリンク代」がかかる。

ドリンク代はライブハウス側の収益となるが、実質入場料のようなもの。
入場する際に必ず支払う必要がある。ライブハウスは名目上は「飲食店」のため、入場ドリンク=1オーダーと換算されているのだと思う。
1ドリンク600円はマストでかかると考えていい。

そして、地下ドルの物販。
これは運営やグループによって販売内容・値段が異なる。

ランダムチェキ(トーク無し・メンバーランダムのチェキ)
500~1000円
2ショットチェキ(トークあり・サイン有無で値段変動するグループもあり)
1000~3000円
宿題チェキ(トークあり。メンバーが持ち帰ってポスカで落書きを派手にしてくれる)
2000~ランダムチェキのアタリやイベント企画など限定の場合もあり

ちなみに、購買は必須ではなくライブだけを見て帰る人もいる。
地下アイドルの賃金は歩合制の場合が多く、チェキの収入のバックや配信・オンラインチェキ会や有料トークアプリなどが重要な収入源なのは間違いない。
ただし、無理な課金を強いられることはほぼ無い。あくまで任意の購入であり義務ではないからだ。

地下アイドルに1回ライブに行く際にかかる費用まとめ
・往復の交通費X円(居住地・開催地によって変動)
・ドリンク代600円(確定)
・チェキ代1000円~3000円×X枚
・その他グッズ代+α
(地下の場合、あまり頻繁にグッズは出ない生誕グッズや、大箱ワンマン記念などの際に発表されることはある)

大体、交通費込みで最低1000円以上、それ以上はチェキやグッズの購入額に連動して増加すると考えられる。
平均お小遣いが1000~3000円の中学生からしたら、もともと頻繁に通える場所とは言い難いだろう。
オフ会やデート風イベントの場合、スタッフ同伴で1万円以上とかするのでさらに敷居が上がる。
高校生の場合、通えるがテストや受験などもあり、バイトをしていても、そこまで頻繁には来れないのが実情。

高校生の子にライブ現場で会うことはあったが、少なくとも女性地下アイドル現場でP活や親金を使ってまで通い詰めてしまう人は見たことがない。
飲食店でバイトをしている子、塾講師のバイトをしている大学生など一般的な学生バイトをしている人が大半だった。
高校生の平均お小遣いや支出金額を見ても、大半の学生は自分の収入の範囲内で趣味や交友にお金を使っているように見える。

もし仮に、伝票の長さや金額で同担(好きなメンバーが自分と被っている他のファン)を殴る廃課金バトルになりがちなホスト文化を、メンズコンカフェやメン地下が踏襲しているとするならば、女性地下アイドル文化とは別世界といえる。
伝票の長さや課金額でマウントをとる世界であれば、なおさら補導リスクや、扶養内に収入を抑えなければならない学生は本来通いにくいはずだと考えられる。

私はあまりお金のない学生時代は、メジャーデビューしているアイドルの完全無料リリースイベントなどチケット代金がかからないライブをメインに通い、リリイベのライブ現場ではCDを1枚買って握手するような課金の仕方をしていた。
高校時代、同級生でジャニーズにハマっていた子たちは、チケット自体が高倍率で当たりにくいと嘆いていて、48系にハマっていた子はCDは何枚も積めないから、数百円のモバイル会員に総選挙のある時だけ入って投票権をなるべく安く少しでも多く手に入れるために知恵を出し合ったりなどしていた。

私の知人で当時大学生でキャバクラで働いていた人は推し活ではなく、学費と生活費のために働いていた。

インタビュー者の人数は多いとは言えないが「風俗で働くようになったキッカケ」をまとめた記事を参考資料として提示させていただく。

・学費、奨学金
・就職がうまくいかなかった
・親の借金返済
・子育てのため
・美容整形
・抗がん剤の支払いのため
また、軽い気持ちで風俗行で働き賃金の高さから一般職では割に合わないと感じて抜け出せなくなる人もいるようだ。

警視庁のツイートの「推し活にハマりすぎると~」と「#地下アイドル」のタグをつけられてツイートされると男女問わず地下アイドル全体に誤解が生じるのでやめていただきたい。
趣味のために風俗やP活を行う人も存在するだろうが、それは全体のごく少数のはずだ。

そして、大前提として
①親の金を勝手に持ち出すことは理由問わず許されることではない。
②売春行為これらは中高生でなくても許されることではない。
さらに、未成年の場合「児童買春」に分類されるため通常の売春行為より刑が重くなる。
③原因や理由ではなく、売春のリスクや依存症対策の啓蒙が必要
であり、推し活が悪いかのような言い方に違和感を覚える。
次に各問題点について語らせていただきたい。

①親の金を勝手に持ち出すことは理由問わず許されることではない

泥棒は泥棒である。
ただし、親族間の窃盗の場合、親告罪となり告訴がなければ刑事罰に処されることはない。

(親族間の犯罪に関する特例)
第二百四十四条 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第二百三十五条の罪、第二百三十五条の二の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
2 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
3 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。

第二百四十四条

親が子を、祖父母が孫を訴えるのは心情的にもキツいだろう。
「優しいうちの子がこんなことをしてしまった原因を作ったものが悪い」
そういう考えをしてしまう気持ちもわからなくはない。

しかし、それは問題の他責化であり悪い事をしてしまったのであれば、家庭内で再発防止に向けた話し合いや躾を行う話だと思う。

②売春行為は中高生でなくても違法行為

売春防止法により、日本において売春は全年齢で本来は違法行為である。
「売春」の定義とは以下の内容を指す

(定義)
第二条 この法律で「売春」とは、対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交することをいう。

昭和三十一年法律第百十八号
売春防止法

つまり、対価と引き換えに不特定多数の人と性交を行うのは違法であるとされている。

一般的な風俗業種の場合、挿入(性交)は行わない前提(ピンサロ)、ソープランドは入浴をしに来た客と店員の自由恋愛とされるため違法性はないという体裁がとられている。
「たまたま恋愛に発展して情事に及んだ」という体裁がとられており、AVの場合「性交の対価」ではなく「撮影の対価としての出演料」のため売春にはあたらないと解釈されている。

パパ活も「性行為を伴わない」デートだけであれば売春防止法には触れないと考えられる。
しかし、性行為の代償として直接金銭的取引が行われる場合、売春防止法の対象になるだろう。
所得に関しても金額によっては納税義務が生じる可能性も高い。

売春に関する刑事処分に関しては以下一部抜粋。

第二章 刑事処分
(勧誘等)
第五条 売春をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者は、六月以下の懲役又は一万円以下の罰金に処する。
一 公衆の目にふれるような方法で、人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 公衆の目にふれるような方法で客待ちをし、又は広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。
(周旋等)
第六条 売春の周旋をした者は、二年以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
2 売春の周旋をする目的で、次の各号の一に該当する行為をした者の処罰も、前項と同様とする。
一 人を売春の相手方となるように勧誘すること。
二 売春の相手方となるように勧誘するため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。
三 広告その他これに類似する方法により人を売春の相手方となるように誘引すること。
~中略~
(対償の収受等)
第八条 前条第一項又は第二項の罪を犯した者が、その売春の対償の全部若しくは一部を収受し、又はこれを要求し、若しくは約束したときは、五年以下の懲役及び二十万円以下の罰金に処する。
2 売春をした者に対し、親族関係による影響力を利用して、売春の対償の全部又は一部の提供を要求した者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
(前貸等)
第九条 売春をさせる目的で、前貸その他の方法により人に金品その他の財産上の利益を供与した者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
(売春をさせる契約)
第十条 人に売春をさせることを内容とする契約をした者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2 前項の未遂罪は、罰する。

昭和三十一年法律第百十八号
売春防止法

売春は行ったものだけでなく、売春を目的にした金貸し・勧誘・契約自体も処罰の対象である。

さらに未成年の児童買春の場合、罰金刑ではなくほぼ確実に有期懲役になるため、刑は重くなる。

(児童買春等目的人身売買等)
第八条 児童を児童買春における性交等の相手方とさせ又は第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を描写して児童ポルノを製造する目的で、当該児童を売買した者は、一年以上十年以下の懲役に処する。
2 前項の目的で、外国に居住する児童で略取され、誘拐され、又は売買されたものをその居住国外に移送した日本国民は、二年以上の有期懲役に処する。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。
(児童の年齢の知情)
第九条 児童を使用する者は、児童の年齢を知らないことを理由として、第五条、第六条、第七条第二項から第八項まで及び前条の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失がないときは、この限りでない。

平成十一年法律第五十二号
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律

以上のことから、買う側もハイリスクであり、推し活を批判することより、未成年に手を出したら通常の売春より重い刑になるということをもっとアピールしたほうがいいのではないかと思う。

③原因や理由ではなく、売春のリスクや依存症対策の啓蒙が必要

売春はいけないことだからやめましょうとただ言うのではなく、行った場合のリスクについての啓蒙や、推し活依存症(仮)になってしまった場合の対象についてこそ啓蒙を行うべきだと思う。

たとえば、梅毒に関して年々増加傾向にあり、10代~20代までは女性のほうが罹患者が多く、30代以降で男女の感染者数が逆転するデータが出ている。

厚生労働省『性感染症』

この事から、若い女性をターゲットにした「パパ活」に梅毒感染拡大の要因を感じるのはわかる。

梅毒は過去においては死亡・妊婦が感染した際は新生児にも感染してしまう危険な病であり、感染時の症状及び危険性に関しての周知が足りないように感じる。
また、前項で述べたように売春自体が本来は刑法で禁止された行為であり、親バレ・学校にバレた場合に未成年の子が背負う心理的リスクは計り知れない。

依存症に関しては厚生労働省により、依存症に関する理解を深めるための取り組みは行われている。
依存症は孤独・孤立時の息抜きや心のよりどころとして、ジワジワ依存化していくもの。
仮に、推し活にもギャンブル依存症やアルコール依存症のように現実逃避の側面があるとすれば、まず現状理解と適度な付き合い方を行うための方策こそ広めるべきだと思う。

未成年が現場にいること自体がリスクであるとなった場合、起こりえること

ここからは、未成年がコンカフェや地下ドルを含む推し活を行うことにより警察の目が厳しくなったり、法規制が起きる可能性が高まった場合、現場で起こりうることに対して考えられる懸念をまとめさせていただく。

まず、未成年の過剰な課金を抑止したいのであれば対策として有効なのは
①入場時に年齢確認を行う
②未成年の場合、月間の支出可能上限を定め、ポイントカードなどで管理

これは運営側によって対応可能だが、入場時の年齢確認を必須化すると、入場の際の時間がかかる。
未成年の支出確認に関しては、ポイントカードを導入しているのであれば、過剰な支出をある程度抑制できるような制限は可能だろう。
しかし、運営の手間を考えると未成年自体を避ける方向に作用する可能性が高いのではないかと思う。

次に、運営ではなくファンダム(ファン間のコミュニティ)で起こる可能性が高いのが、未成年排斥による自治だ。

AV新法が元々18~19歳だけを守ろうと立案され、最終的に全年齢に対象が拡大。業界全体が締め付けられる結果となったことは記憶に新しい。

その二の舞を防ぐことと、警察や世間からの目を逸らすために、ファンが良かれと思って、未成年によるチェキの大量購入や現場に来ること自体を排斥する動きが出る可能性は十分ある。
最悪、大人による中高生イジメに発展しかねない。
排他的なファン同士の人間関係に病んで、他界する人は界隈問わず実際に大人でもある。
それを誘発してしまう可能性がある。

重要なのは、未成年がライブに来ることやチェキをとるのが悪いのではなく、自分の支払い能力に見合わない課金をしてしまうことを防ぐこと。
そこを見誤ってはいけない。

地下アイドル・メンズ地下アイドルの反応

最後に警視庁のツイートを見たアイドルたちの反応をまとめさせていただく

営業妨害・言葉の選び方が下手であるという指摘

私自身、女性地下アイドルのオタクなので対バン・アイドルフェスなども行くが未成年の数自体少なくほとんどが成人。
夜職のオタク仲間もいるが、昼職がほとんどであり、偏見を助長する発言だと感じた。

元警察官のメンズアイドルも傷つける発言であると指摘。

地下アイドル公式達による大喜利大会化

ネタとして消費して笑いに変えるグループも多数あった。

警視庁生活安全部を口説くアイドル

警視庁推し活危険構文応用編。

メン地下達にとっては流行に乗るチャンスでもあるので、YouTuberプロデュースのグループはこのチャンスを見逃さなかった。

さりげなく自分のワンマンをPRするアイドル

最後に

地下アイドル業界はメディア露出も少ないので、話題になったことで悪ノリするところも多い。
へこんでいる人より、ネタとして消費している人のほうが一般人のコメントの割合も多い。

しかし、AV新法のスピード制定の前例ができてしまった以上、警視庁や表現規制派政治家および、AV新法制定にも携わった団体の代表達が地下アイドルの締め付けの強化を求める世論を形成しないよう注視していきたい。

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