中古品リユース販売業
あの人と私はあまりに歳が離れている。
休日に2人で街を歩いていたりなんかしたら、世間にはどのような関係に見られるのだろうか。
彼は言った
「誰かに見られたらあなたはイタい人に見られるだろうね」
私は言った
「あなたが、じゃないですか?」
そんな会話をしながら2人で歩く誰もいない湖のほとりは静かで寂しい。
「寒いね、ほら手貸して」
あの人が私の手を優しく包んでポケットに入れた時、
湖の水よりも冷たい風が足下の木の葉をさらっていった。
でも不思議とあの人と一緒に
人々の声がキラキラと輝くような明るい場所に行きたいとは思わなくて、
湖の水面のように、
静かで穏やかな時間がゆったりと流れていくだけだった。
そんな私たちが好んで赴くのは中古品リユース販売業のチェーン店。
色落ちした青地に黄色いアルファベットが書かれた看板が時の流れを演出していてなんとも寂しい。
しかしその寂しさが私たちには心地良いのだ。
店の中に入る。もちろんお客は私たちだけ。
古びた香りが鼻をかすめ、今日も私があの人と同じ時間を過ごしていることを実感する。
ここで使い古された商品を見ると、「人に値段をつけられるとしたら自分はいくらで売られるのだろうか」と考えることがある。
人には値段をつけられないと言うが、それはその人の中身に値段がつけられないのであって、
その人の「若さ」には値段をつけられるのではないだろうか。
それを測る1つのものさしが年齢なのだろうが、ここでは値段を見た目で判断したい。
そうすれば多少の努力次第で自分につく値段が変えられるからだ。
果たして私はあの人と同じ棚に売り出されるのだろうか。
と、いつもは静かなこの店に、カップルと思われる若い男女がキラキラした声を振りまきながら入ってきた。
その瞬間私たちは熱いものに触れたように、絡めていた手をほぐした。
条件反射だった。
あのカップルに何を見られようと、私たちのこれからには関係ない。
それなのに、
私たちは私たちの間に不自然な空間を作った。
きっとあのカップルの瞳に映る世界には私たちなんか存在しなくて、
私たちの手がどうなってたかなんて、興味もないだろうに、
私の心臓は縮み上がり、変な汗まで滲んだ。
私は世間を気にしすぎている。
最初からわかっていた。
あの人と一緒に、人々の声がキラキラと輝くような明るい場所に行きたいと思わないのは、
世間にどう思われるか怖いからだ。
でも今私は思う。
世間とは何か。
それは自分が作り出す架空世界の人々のことだろう。
自分が思うほど他人は私のことを見ていない。自意識過剰とはこういうことを言うのだ。
そう思うとなんだか少しだけホッとした。
もう一度あの人の手に触れる。
あの人は私を真っ直ぐに見つめ、そして静かに優しく微笑んだ。
「いつもより美味しいものを食べに行こうか」