
4年ぶりのカップラーメン
僕は4年前にカップラーメンを食べないと決めた。
きっかけはコロナである。2020年の4月に緊急事態宣言が発令され、上京したて、社会人になりたての僕も在宅勤務を命じられた。不要不急の外出禁止と言われていたので、一応外食はせずに自宅で食事する日々。料理自体は苦にならなかったので、料理本を買ったりして自炊を続けていた。しかし、作り置きをする計画性や在宅勤務中の短い昼休みに料理する気力は無かったので、昼ご飯はカップラーメンを買って食べることが多かった。今思うと、ずっと家にいたことが主な原因だと思うけれど、1ヶ月くらいその生活を続けていると、なんだか体調が悪いような気がして、食生活を見直すことにした。そこで取り組んだのがカップラーメン断ちである。ラーメンに限らず、いわゆるカップ麺は全面的に禁止とした。もともと、ラーメンは好きだったので、ラーメン屋のラーメンは食べてもよいという逃げ道を作り、カップラーメン断ちを実行した。
カップラーメン断ちは難なく成し遂げたが、たまに友人や同僚がカップラーメンを食べている姿を見て羨ましく感じていた。ラーメン屋のラーメンは食べていたけれど、カップラーメンの背徳性には勝てないなあと思っていたからだ。何より久しぶりに食べるカップラーメンはめちゃくちゃ美味しい。だからモザンビークへの赴任が決まった時、モザンビークで久しぶりにカップラーメンを食べようと決めていた。たぶんモザンビークにラーメン屋はないし、あったとしても、多分それはラーメンとは似て非なる料理だろうから。
そういうわけで日本を出国する時にカップラーメンを持って行こうと思っていたのだが、意外と体積が大きくて荷物になるし、冷静に考えてカップラーメンより大事なものがありすぎたので、赴任時の荷物には入れなかった。
でもやっぱり食べたい。モザンビークに到着してから家族に日本から送ってもらおうかなと思っていたら、どうやら東京にいる同僚が出張で来モするらしい。同僚からは「日本から欲しい物があれば遠慮なくリクエストしてね」という有り難いメッセージをいただいたので、その方にカップラーメンを頼むことにした。「カップラーメン持ってきてください」と連絡したら、「カップラーメンなんかでいいの?」と返信があった。同僚は僕の4年分の思いを知る由もない。
そして遂に先日、そのカップラーメンを受け取った。
選んだのは日清食品「カップヌードル」。

これぞカップラーメンの原点。
世界初のカップ麺にして、なおも進化を続けるパイオニア。最後に食べたのもこのカップヌードルだった。4年ぶりのカップラーメンはお前しかいない!
ん?
ちょっと見た目が変わっているぞ。
フタの開け口が2つある。お湯を入れてからフタを閉めておきやすいからか?えーなんかダサくなってないか。正面に開け口がある方がかっこいいだろ。4年食べない間にこんなことになっていたとは。
まあよい、水を沸かそう。
フタを開けて、沸かしたミネラルウォーターを注ぐ。2つ口の効果をあまり感じないのはさておき、フタを閉める。
東京事変の能動的三分間を流してその時を待つ。
曲が終わった。
少し緊張しつつフタを開ける。カップヌードルの匂いが立ちこめる。4年以上前だというのに、匂いだけで味を思い出してしまい、唾液が出る。これまでカップヌードルを食べてきた場面が思い出される。こんなところでプルースト効果が。
いざ食さん。
まずは麺からすする。匂いとイメージした通りの味で笑ってしまった。美味しい。これは、4年間ラーメン屋で食べていたラーメンとは別ジャンルの食べ物である。カップヌードルというジャンルを新たに作ろうではないか。
謎肉でしか味わったことのない肉みたいな味、絶対に卵だけで作られていない黄色い炒り卵みたいなやつ、そして妙にマッチしている小さいエビ。4年前と全然変わらずに美味しい。カップを左手で持ち、かき込んで食べる。普段ラーメンのスープは飲み干さないようにしているけれど、今回は飲み干した。
これ半世紀以上前からあるのかよ。すごいぜ安藤百福。
こうして第1回モザンビークカップ(ラーメン)は極めて個人的大盛況の中閉幕した。