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友だち認定

路上を歩いてると「amigo!」と声をかけられる。
amigoは、ポルトガル語で「友だち」という意味だ。もちろん、声をかけてくる現地人は友だちではない。その人たちは大抵、何か買わないかと言ってきたり、金をくれと言ってくる。
別にモザンビークに限った話ではないが、ここでは外国人であるというだけで目立ち、声をかけられる。

そういう時の対応は基本的には無視である。

モザンビークではないけれど、実際に海外で騙されて金を取られたこともあるし、無視をすると決めておかなければ心が持たないほど色々な人から声をかけられる。
アミーゴもマイフレンドもニーハオも全部無視だ。



そもそも「友だち」という意味の声かけはいかがなものか、と前から思っていた。親しみを持たせたい意図は分かるのだが、全く見ず知らずの人からamigoと言われても、警戒心が高まるばかりだ。
多くの日本人は「友だち」の範囲はとても狭い。
仲の良い先輩や後輩のことも友だちとは呼ばないし、「友だちというよりは知り合い」とか、「(Aさんが私のことをどう思っているのか知らないけど)私はAさんのことを友だちだと思っている」というような表現もよく聞く。
僕も「この人とは友だちです」と自信を持って言い切れる友だちはそんなに多くない。
それほど友だち認定のハードルは高いのだ。気軽にamigoと呼んでくるんじゃないよ、と思う時もある。



先日も仕事終わりの薄暗い時間帯(現在マプトの日没は17時半頃)に職場から徒歩で家に帰っていると、背中から「amigo!」と男の声がした。人通りもそれなりにある道だったのだが、時間帯もあって自分の中の警戒スイッチが入り、体がこわばる。
もちろん呼びかけには無視したが、彼は横に並んでついてくる。チラッと姿を確認すると、20代〜30代くらいの若者のようだ。小さめのリュックを背負った身軽な格好である。肌は暗闇に溶け込み、白目と歯だけが白く浮かび上がる。
どうやら何か物を売ろうとしているわけではなさそうだ。

彼は最初こそポルトガル語で話しかけてきたが、無視を続けると英語に切り替わった。それでも無視をすると「そんなに警戒するなよ」というようなことを言ってくる。これ以上無視するのも逆に危険なのではと思い、歩きながら適当に英会話することにした。
彼は僕に「モザンビークにいつからいるのか」、「どういう仕事をしているのか」と質問をしてきた。「どのあたりに住んでいるのか」とか細かいことも聞いてくる。僕は警戒心を高めつつ、適当に答える。
「今どこに向かっているのか」と僕からも質問をすると、「今から仕事なんだ」と彼は答える。僕は嘘だろうと思った。時間も遅かったし、仕事前なら僕に話しかけてこないだろ、と思ったからだ。そもそもモザンビーク人にしては英語がかなり上手い。単に彼の教育レベルが高いだけなのかもしれないが、外国人を騙すことに慣れているのかもしれない。僕を騙そうとしている賢いヤツなのではないだろうか。
しばらく中学生の教科書に出てくるような適当な英会話を続けていたが、このまま家までついて来られるのではないかと思った。あるいは、やっぱり最終的に何かを売りつけてきたり、言葉巧みに連絡先を聞いてきたりするのではないだろうか、と嫌なパターンが頭の中でいくつか思い浮かぶ。
彼と会話しつつ、彼から逃れるための作戦を「スーパーに寄るからまた今度ね作戦」にしようかと考えていた時、

「じゃ俺こっちの道だから」

というようなことを彼は言った。
そして、友だちにそうするように親指を立て、違う方向に進み出した。
僕は、安心したと同時に罪悪感が込み上げてきて、去っていく彼に力強く親指を立てた。

友だちを作るのは難しい。

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