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㊾ミャンマー情勢(中国から見たミャンマー)
前回の投稿からご無沙汰してしまいました(>_<)
ミャンマーのGDP=経済力(周辺国との比較)
まずはミャンマー経済の基本のおさらいです。
改めて、2023年のミャンマーのGDPと周辺国のグラフを作成しました。
そもそもGDPって何だっけ?
念のため、私が教えている大学生向けのGDPの説明を記載します。
GDPは、以下の計算式です。
Y(GDP)=C(消費)+I(投資)+G(政府支出)+(X-M)(輸出ー輸入)
日本のGDPは500兆円、ミャンマーのGDPは10兆円。
日本の1人あたりGDPは500万円(3万5,000ドル)、ミャンマーの1人あたりGDPは、18万円(1,200ドル)です。
1人あたりGDPは、年間の平均給与の近似値のため、日本人の年間平均給与は500万円、ミャンマー人は18万円になります。
年間18万円ですので12で割ると、ミャンマー人の平均月額給与は、1.5万円(=50万チャット)とわかります。
つまり、1人あたりGDPがわかれば、各国の平均年収がわかります!!!
2023年のミャンマーのGDP
ミャンマーのGDP成長率は、23・24年とそれぞれ1.0%の見込みで、今後、周辺諸国と比較して成長率の差がますまる開いていく状況です。
2023年のミャンマーのGDPは、650万ドルです。
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2023年のミャンマーの1人あたりGDP
ミャンマーの1人あたりGDP(1,188ドル)は、ラオス(2,529ドル)、バングラデシュ(2,075ドル)の2分の1であり、カンボジアより低いです。
1ドル=150円とすると、ミャンマーの1人あたりGDPは、18万円になります。ミャンマー人の平均年収は、おおよそ18万円ぐらいと言えます。
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最近の為替相場(ドル・チャットのレート)
●2022年8月5日に1 ドル=1,850チャットの固定相場が、2,100に切り上げられました。
●23年7月から一段のチャット安が進み1ドル=3,300チャット以上になった後、チャット安が進行して、同じタイミングで、オンライン取引制度・出稼ぎ労働者の送金レートとして、2,920チャットが設定されました。
●23年10月以降24年3月上旬まで3,400~3,500チャットで安定して、12 月には中銀オンライン取引の参考レート(1 ドル=2,920チャット)が撤廃されました。
●24年2 月10日の徴兵制の発表を契機に海外渡航者が増え、ミャンマー国内でドルをはじめとする外貨調達を望む個人が急増しています。
●この外貨需要の高まりの影響を受けて、徐々にチャット安が進行しました(5月19 日に 1 ドル= 4,000チャットを超え、 7 月後半には 5,000チャット)
●しかし、8月14日の6,800チャットをピークに両替商の取締り強化や海外渡航者の出国制限をすることで供給と需要を押さえつけることで、10月~11月と1ドル=4,500~5,000チャットで推移しています。
●更に、チャット相場が落ち着いている他の理由は、軍政が輸入ライセンスを発給しないため、本来であれば輸入時に外貨を支払って輸入が行われますが、輸入ができないため、外貨が必要なくなっている(=輸入が出来ないため、米ドル需要が生まれない)ためと言われています。
●為替市場は完全に軍政が管理しているため、今後の為替状況は不透明です。
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中国から見たミャンマーの利用価値
ミャンマーでは、中国が大きな影響を振るっているなどと噂されています。
小国と大国を比較すると、小国はいつも大国の動向が気になります。
これは、世の中の常です!!!
私が、以前ボストンで国際関係を専攻した際に、Professor(教授)が仰っていたのは、中国の気持ちになって考えましょう!、ということでした。
中国と国境を接する国
さて、中国と国境を接する国は、いくつあるでしょうか???
国境というのは、まず、陸の国境と、海の国境があります!、と気づけた方は、非常にセンスが良く、国際感覚がある方です。
それでは、中国と陸の国境を接する国は、何カ国あるのでしょうか???
14か国(モンゴル、ロシア、カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド、ネパール、ブータン、ミャンマー、ラオス、ベトナム、韓国)になります。
しかし、海の国境も含めると、フィリピン、日本、韓国、台湾(国?!)もあります。
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中国から見ると、ミャンマーは、14か国のうちの1つに過ぎません。
2,129kmの国境を接していますが、ミャンマーにとっての中国の大きさからすれば、中国にとってはミャンマーなんぞは、国境を接している雲南省がどうにかすれば良い国に過ぎません、、、
本当に中国にとってミャンマーってどうでもいい取るに足らない小国なの?
一見、中国にとって取るに足らない小国のミャンマーも、1点だけ利用価値があります。
それは、エネルギーです。
ミャンマーと中国は、石油とガスのパイプラインで接続されています。
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中国にとってのミャンマーの石油・天然ガスパイプラインの役割
●中国にとってのミャンマーの石油・天然ガスパイプラインの役割は、マラッカ海峡リスクに備えた輸入元の多元化が目的で、シュエガスの産出に依存しているわけではありません。
●胡錦濤国家主席が2003年11月に中国共産党中央経済会議において、マラッカ海峡リスクを指摘し、リスク分散を命じて以降、中国は積極的にエネルギー輸入ルートの多様化を進めてきました。
●2005年7月、中国の国家発展改革委員会とミャンマーのエネルギー省は石油パイプラインの協力覚書を調印し、2006年10月末に両国は最終的にパイプラインの建設で合意しました。2009年3月、温家宝、習近平らがミャンマーを訪問した際、「中国~ミャンマー石油と天然ガス・パイプラインの建設に関する政府協議」に署名し、CNPCがパイプラインを建設することになりました。
●2010年6月に着工し、13年11月に天然ガスパイプラインは稼働を開始。石油パイプラインは15年1月に試験操業が開始し、17年4月に稼働しました。
マラッカジレンマの解消
中国は、マラッカ海峡を通らない方法を編み出してきました。
その1つが、ミャンマーの利用でした。
ミャンマーを突っ切るパイプラインの敷設です!
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ミャンマーのパイプラインを敷設したCNPCってどんな企業?
CNPCは中国の国有企業です。
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石油・天然ガスの生産とその供給、石油化学工業製品の製造販売において中国最大の規模となっています。
子会社のPetro Chinaは、サウジアラビアの「サウジアラムコ」、マレーシアの「ペトロナス」、ブラジルの「ペトロブラス」、ロシアの「ガスプロム」、イランの「イラン国営石油」、ベネズエラの「ベネズエラ国営石油会社」の大手7国有石油会社と並んで「新・セブンシスターズ」と呼ばれています。
●CNPCは世界中で石油資源の獲得に全力を挙げており、アルジェリア、アゼルバイジャン、エジプト、カナダ、インドネシア、ミャンマー、オマーン、ペルー、スーダン、南スーダン、リビア、シリア、ベネズエラ、イラク、イラン、ロシア、トルクメニスタン、アラブ首長国連邦などで30箇所以上の油田・ガス田の探査や開発にあたっています。
中国はミャンマーにエネルギー源を頼っているのか?
それでは、パイプラインを敷設した中国は、ミャンマーに天然ガスのどれぐらいを頼っているのでしょうか?
ミャンマーは重要なのでしょうか?
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正解は、
●エネルギーの確保の多元化という観点から、パイプライン自体は重要。
●しかし、ミャンマーには、中国の天然ガスの輸入の全体の3%しか頼っていない。豪州(26%)、トルクメニスタン(20%)、ロシア(10%)の方がはるかに重要。
レアアース
ミャンマーは、意外にも世界で3番目にレアアースが取れる国です。
●米国政府の科学研究機関の1つである米国地質調査所(USGS:US Geological Survey)のMineral Commodity Summaries 2024によれば、ミャンマーの2023年のレアアースの生産量は、3.8万トンです。
●中国の24万トン、米国の4.3万トンに次ぐ世界3位の生産量(世界シェア11%)になっています。
●2019年の生産量は2.5万トン、20年は3.1万トン、21年は2.6万トン、22年は1.2万トンであり、23年は著しく生産量が増加しています。
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ミャンマーは、レアアースのなかでもEVのモーターの磁石に使用される、ジルプロシウムとテルビウムの生産が多くなっているようです。
日経新聞2024年11月6日の記事を抜粋します。
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中国に隣接する北部カチン州で11月初めまでに、少数民族武装勢力のカチン独立軍(KIA)がレアアース産地のチプウィやソーロー、パンワの支配権を国軍傘下の国境警備隊(BGF)から相次いで奪取した。
KIAの報道官によると、政治部門のカチン独立機構(KIO)幹部が10月半ば、中国外務省の鄧錫軍アジア問題特使と同国で会談した。鄧氏は軍事政権への抵抗の停止を求めたもようだが、KIAは会談直後にパンワを占拠した。
中国側はKIA支配地域を出入りする物資の国境貿易を止めて圧力をかける。KIAは「採掘を管理するためのチームを設けた」(報道官)と言うが、今後の鉱山運営の方針は不明だ。
(中略)
ミャンマー産レアアースの大半を買い取るのは中国企業だ。鉱物の精錬能力に乏しいミャンマーと、資源を大量に加工して第三国に輸出する中国が相互に依存してきた。
21年2月の政変後に国の統治が混乱するミャンマーでは、レアアースの乱開発が進んだ。国際非政府組織(NGO)のグローバル・ウィットネスによると、ミャンマーから中国への重希土類の輸出は21年の1万9500トンから23年には4万1700トンへと急増した。
カナダの資源調査会社アダマス・インテリジェンスは10月のリポートで「23年のミャンマーは世界のジスプロシウムとテルビウム供給の57%を占めた。混乱が長引くと(各素材を使う)磁石メーカーへの供給が圧迫される」と警戒する。
ミャンマーは電子機器の「はんだ」などに使うスズの鉱石生産量でも世界2位につける。23年8月に北東部シャン州のワ自治管区で大型鉱山の採掘が停止すると、スズの国際価格が急騰した。
23年10月からはシャン州を起点に少数民族武装勢力などによる反国軍蜂起が急拡大した。鉱山は軍事政権の資金源であることから、抵抗勢力によるニッケルや銅の鉱山への攻撃も散発した。シャン州のタアン民族解放軍(TNLA)は中部マンダレー近郊まで進軍し、ルビーの有力産地であるモゴクを占拠した。
カチン州やシャン州を拠点とする反軍政の勢力は、地理的・民族的に中国とのつながりが深い。中国政府は軍政に融和的で、今後、中国の介入が強まる公算が大きい。
意外と資源大国のミャンマー!!!
しかし、その資源は、ほとんど全て、お隣の中国に渡っています。
最近、ミャンマー人は、ミャンマーのことを、「中国のなかのミャンマー国」と言っています。
私は、「中国のなかのミャンマー州」か、「雲南省のなかのミャンマー県」の間違いではないのか?!と思いますが、可哀想ですので、心の奥底にしまっています( ´Д`)