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【ショートショート】月夜の寝ぐせ

 仕事をクビになってから、俺は何をするでもなく家でダラダラしていた。
 昼間ダラダラと寝たりして過ごしているので、夜はなかなか寝付けない。
 そんな夜は庭へ出て、月を見ながら酒を飲む。
 ああ、今夜は特段綺麗な月だ。
 そして段々とウトウトしてきて、いつの間にか眠りの世界へ……。

 朝。妻に起こされた。
「貴方。貴方」
「……ん? 何だよ。仕事ならその内探すからもう少し寝させてくれ」
「違うわよ。寝ぐせよ。寝ぐせ。まるで竹みたいになってるわ」
「竹?」
 庭先の水溜まりに俺の顔が反射する。確かに髪が竹のように垂直に何本も伸びている。
「月夜の晩に竹のような寝ぐせ。何だか物語が書けそうね。暇なら何か書いてみたら?」
「俺にそんな才能はない」
「なくたっていいじゃない。気分転換になるわよ」
 気乗りはしなかったが、とりあえず紙に走り書きしてみた。作者名は書かなかった。どうせ誰も見ない。冒頭はこうだ。

『今は昔、竹取の翁といふものありけり。野山にまじりて竹を取りつつ……』

                (441字)

今週も、たらはかに(田原にか)様の企画【毎週ショートショートnote】に参加させていただきました!

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