民法記述式実戦練習問題集のサンプル
ですが、amazonだと問答無用で、最初の数ページの本自体の紹介部分が、サンプルとして読めるようになってしまい、肝腎の問題部分をサンプルとして読めるようになっていませんので、noteで1問、セレクトして、発表します。
[第7問] 動機の錯誤 ランクA
Aは近い将来、新幹線が走る噂を聞きつけ、沿線近くの土地をBから買ったが、実は隣町のことだとわかり、本件売買契約を取り消したいと考えている。この場合、どういう要件であれば、Aは取消が出来るか。民法の規定に照らし、40文字程度で記述しなさい。なお、BにはAと同様の錯誤はないとする。
{解説}
条文は95条です。
第95条
1 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
1 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
2 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取り消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取り消しをすることができない。
1 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき
2 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき
4 第1項の規定による意思表示の取り消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
いつものように問いに答えていきましょう。
①本件売買契約を取り消せるのか?
錯誤というのは、勘違いのことですね。Aさんは、新幹線が近くを走るようになれば、土地の時価が上がると踏んだんですね。ところが、実際はその土地じゃなくて、隣町だとわかったので、取り消したいんです。錯誤で取り消せる要件って何でしたか?
・要素の錯誤であること
・表意者に悪意・重過失がないこと
・相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときではない場合
要素というのは、大事な事という意味です。この契約の要の大事な部分かどうかです。土地の値段が上がるというのは普通は大事なことでしょうね。ただし、新幹線が走るかどうかは、Aにとっては契約の重要な部分ですが、これは、Bに伝わっているかが問題です。元々、ガセネタなわけですから、Bが知らないのは当然の話です。どういう理由でAが購入するのか、Bは通常は知りようがありません。土地の面積とか、外観でわかる立地条件とか、そういうものは当然、Bも把握しているでしょうが、新幹線の話は言われなければ知らなくても当然の話ですね。そうです、本問のポイントは
動機の錯誤
ということですね。Aさんが土地を買う動機、つまり、
新幹線の沿線になる前に購入して、土地の値上がりを期待しているから
ということが、暗黙の了解でもいいので、この契約の内容になっているかどうかなんです。つまり、Aさんが、
「いやぁ、新幹線が近く、通るでしょ?だから、今のうちに買おうと思っていて」
と、Bさんと会話していて、Bさんも、
「へぇ、そんなこと聞いたことないけど、それで買うというなら、別にそれでいいや」
と思っているくらいでいいんです。契約書なんかに書いて無くてもいいんです。このように、動機が表現されていることが大事です。それだと、
「すいません、隣町だったんですよ。あれ、勘違いしていたんです」
となかったことに出来る場合があるということです(実際は言った、言わないで揉めるでしょうけど)。もちろん、重過失がないことがポイントになります。新聞に載っていたけど、その新聞が嘘を載せていたとかですね、それならおそらく、重過失とまでは言えないでしょう。居酒屋で酔っ払いが噂していたのを小耳に挟んだとか程度だと、重過失かもしれません。そんな細かいことはまず、試験には出ませんので、ご安心を。それじゃ、問いに答えますと、
取り消せる。
です。
②どんな場合か?
というと、
Aの錯誤に故意・重過失がなく、Bにその動機を表示していた場合
ですね。今回、BにはAと同様の錯誤はないとするとあるので、除外されましたが、他にも、お互いが錯誤に陥っていた場合も取消できます。そうなれば、通常はお互い、なかったことにしたいでしょうからね。もちろん、本問の状況に限っていえば、同じ錯誤になっていても、Bさんは損しないからなかったことにはしたくないでしょうけど。
参考答案
「Aの錯誤に故意・重過失がなく、Bにその動機を表示していた場合、錯誤による取消が可能となる。」
45文字
こんな感じになっています。全30問、今回は総則だけです。