【ミクロ-09:不動産鑑定士試験のための経済学】 完全競争市場における余剰分析 をわかりやすく(余剰分析)
1. 余剰分析の意義
余剰分析は、市場の効率性や福祉を評価するための重要なツールです。ミクロ経済学では、資源配分に焦点を当てて、各経済主体が財やサービスをどのように受け取るのかを分析します。社会全体の利益、つまり社会的総余剰が最大になっているかどうかを基に、資源配分が最適かどうかを評価します。
余剰分析の核心は、「消費者余剰」と「生産者余剰」の2つの概念にあります。これらの合計が「社会的総余剰」となり、これが最大化される時、市場は効率的に機能しているとされます。この理論を理解することは、経済学の基本的な視点を掴む上で不可欠です。
1.1. 消費者余剰とは
消費者余剰は、消費者が考える最大の支払い額と実際の支払い額の差を指します。例えば、1000円で買いたいと思っていた商品を、実際には700円で購入できた場合、その消費者余剰は300円となります。
消費者は、商品を買い足すごとに支払う金額の上限が減少していき、この傾向が市場全体の需要曲線を形成します。
1.2. 生産者余剰とは
生産者余剰は、実際に商品やサービスを販売した価格からその商品やサービスを提供するのに最低限必要な費用を差し引いた金額を指します。これは、生産者が商品を生産するのにかかった費用よりも高く売れた場合の粗利を示しています。生産者が商品を1000円で販売し、その生産コストが700円だった場合、生産者余剰は300円となります。
生産者は、商品を生産する量を増やすごとに、その増加分の費用も増加していくと予測します。
1.3. 社会的総余剰とは
社会的総余剰は、消費者余剰と生産者余剰の合計を指します。これは、市場全体での取引の効率性や福祉を示す指標となります。社会的総余剰が最大化されると、それは市場が最も効率的に機能している状態を意味します。
社会的総余剰が大きい場合、それは消費者と生産者双方が取引から大きな利益を得ていることを示しています。逆に、社会的総余剰が小さい場合は、市場の効率が低い、または何らかの障壁が存在する可能性が考えられます。
2. 完全競争市場の価格形成(ワルラス的調整)
完全競争市場では、市場の価格が供給と需要によって自動的に決まるとされます。ここで、市場の需要曲線と市場の供給曲線が交差する点を特に重要視します。
ワルラス的調整とは、供給と需要のバランスが取れるまで価格が変動する仕組みを指します。具体的には、供給が需要を上回る場合、価格は下がり、供給が需要を下回る場合、価格は上がる。このような価格の変動によって、市場は均衡状態に達するとされます。市場の需要曲線と供給曲線が交差する価格を「均衡価格」と呼びます。
3. 完全競争市場の成立要件
完全競争市場を理解するためには、その成立要件を知ることが重要です。以下の4つの要件が満たされている場合、市場は「完全競争」とみなされます。
一方で、これらの要件が満たされていない場合、市場の効率が損なわれることが考えられます。実際の市場で完全競争が成立することは難しいですが、理論的な参考点として非常に重要です。
3.1. 財・サービスが同質である
市場上の全ての財やサービスが同質、つまり同じ品質・性能を持つ場合、消費者はどの商品を選んでも同じ満足度を得ることができます。
このため、生産者間での価格競争が激しくなり、価格が生産コストに近づく傾向があります。この条件が満たされない場合、ブランド力や品質の差により、価格に差が出ることが考えられます。
3.2. 市場への参入・退出が自由である
市場への参入や退出が自由である場合、利益が上がると新たな生産者が市場に参入し、逆に利益が下がると生産者が市場から退出します。
この動きにより、市場の供給量が調整され、価格も均衡に近づきます。この条件が満たされない場合、市場の独占や寡占が生じる可能性があります。
3.3. 売り手・買い手が多数存在する
多数の売り手と買い手が存在する場合、個々の行動が市場価格に影響を与えることは難しくなります。したがって、全ての参加者は価格受容者となり、価格は市場全体の供給・需要によって決まります。
一方、売り手や買い手が少数である場合、市場の価格に影響を与えることが可能となり、価格の変動が大きくなる可能性があります。
3.4. 売り手・買い手が財・サービスについての情報を全て共有している
情報の透明性は、市場の効率性を保つ上で非常に重要です。全ての参加者が同じ情報を持っている場合、誰もが同じ基準で価格を判断することができます。
情報の非対称性が存在する場合、それによって市場の効率が損なわれることが考えられます。例えば、品質の隠れた欠陥や、供給者のコスト情報が不透明な場合などです。
4. 完全競争市場における社会的総余剰
完全競争市場において、社会的総余剰は最大化されるとされます。これは、市場の価格が均衡価格に達することで、消費者余剰と生産者余剰の合計が最大となるからです。市場の需要曲線と供給曲線の交点をE、均衡価格をP*、均衡供給量をX*、縦軸と市場需要曲線の交点をA、縦軸と市場供給曲線の交点をBとした場合、図形の面積を利用して社会的総余剰を考えることができます。
消費者余剰は三角形APEの面積として、生産者余剰は三角形PBEの面積として考えられます。この二つの三角形の合計、すなわち三角形ABEの面積が、完全競争市場における社会的総余剰となります。
4.1. 消費者余剰
完全競争市場の消費者余剰は、記号で表すと、AOX*E−P*OX*Eで、その値は△AP*Eとなります。
完全競争市場では、消費者余剰は、消費者が得る満足度や利益を最大化するものとなります。消費者が最も満足する価格で商品やサービスを購入できることは、市場の効率性を示す一因となります。
4.2. 生産者余剰
一方、生産者余剰は、P*OX*E−BOX*Eで、その値は△BP*Eとなります。
生産者は市場価格で商品やサービスを提供し、その価格が生産コストを上回る限り、利益を最大化することができます。生産者が適切な価格で商品やサービスを提供できることは、市場の効率性を高めるための重要な条件の一つとなります。
4.3. 社会的総余剰
社会的総余剰は△ABEとして表されます。
完全競争市場では、社会的総余剰が最大になるため、最適な資源の配分が実現されると言われています。この事実は「厚生経済学の基本定理」として知られています。社会的総余剰が最大となる状態は、消費者と生産者双方が最も満足する取引が行われている状態を示しています。
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