【どくどく・ニンジャズの日常】
毒羊石の石板表面に自家製ニンジャ達の日常とかなんかが表示されます。
とどのつまりスレイト・オブ・ニンジャ・リスペクトな。
※この記事は気が向いたら更新予定です。カッコ内の日付は更新日時。
※最新の記事を常に最上部に表示するようにしました。
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◆第十の石板◆(2020/04/26)
スティールホイルは愕然とした。彼の視界に映るのは遠くで爆発炎上する墜落マグロ・ツェッペリン。そして歩いてくる女ニンジャ。見知った顔だ。「ド、ドーモ。マグマダイバー=サン」「ン…?なんだ、スティールホイル=サンか。ドーモ」マグマダイバーはアイサツを返し、火傷痕を歪ませながら挑発的な笑みを浮かべる。「アンタもマグロを食いに来たのか。だが残念、ちッとばかし遅かったな」「お…お前!その口ぶりからすると…まさか!」「オレか?オレは腹いっぱい食わせてもらったさ」マグマダイバーは特注耐熱ダイビングスーツの内側から機密フロッピーを取り出し、見せびらかした。「いくらで売れるか楽しみだぜ」「ク…クソーーッ!」スティールホイルはその場にへたり込み、心底悔しそうに地面を殴りつけた。
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◆第一の石板◆(2019/03/26)
「……」グリムファイバーはリラックスしたアグラ姿勢でザゼンしている。タイピング速度の向上と同じく、これもハッカーとしての鍛錬のうちだ。常にヘイキンテキを保つことで予想外のインシデントにも冷静に対応することができる。(………)やがて彼女の自我は穏やかなる暗闇にゆっくりと溶け込んでいくような感覚をおぼえた。これはザゼンが深まってきたあかしだ。
(……暗闇。これは宇宙?それとも深海?いくつものまたたきを感じます)
(……ひときわ強い光。暗黒の世界の中で太陽のように眩く輝いている…)
(……四角い、太陽?いいえ、あれは……まるで、金色の…黄金……立方体…)
(……立方体…立方体…六面体。つまり…ロクメンタイ……ロクメンタイ!)
「ロクメンタイチャン!!」「うわァ!?」ラピッドビートは思わず跳びあがった。買出しから帰宅したらグリムファイバーがザゼンしていたので、邪魔せぬようにそろそろと歩を進めていたところに、突然の叫び声であった。「おや、お帰りなさい。ラピッドビート=サン」フードと耳栓代わりのイヤホンを外してグリムファイバーが声をかける。「アー…タダイマ。あの、ザゼンしてたんスよね?」「そうですよ。もう少しで金色のロクメンタイチャンとLAN直結できるところだったのに…」「ザゼン、してたんスよね……?」
◆第二の石板◆(2019/03/27)
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
ネオサイタマ郊外!バイオバンブー林に響き渡るカラテ・シャウト!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
虚空に向かってただひたすらにチョップを打ち続ける一人の男あり!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」
身に着けるのは純白ジュー・ウェア!腰に巻かれしブラックベルト!
「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!…イヤーッ!」
九百九十五!九百九十六!九百九十七!九百九十八!九百九十九!…一千!
「シューッ…!」ザンシンし、全身から蒸気を立ち昇らせるスライサー。
日課の早朝チョップ素振り千本を終え、仕上げに入らんとしているのだ。
「スゥーッ…フゥーッ…」ゆっくりと呼吸を整え、周囲のバンブーを見る。
やがて彼はひときわ太い一本の若きバンブーを見定め、その前に立った。
「イィィ…」イアイめいて右腕を引き絞り、筋肉に満身のカラテを込める。
その鍛え上げられた太い腕に血管が浮き上がり……「ヤァァーーッ!!」
SLASH!おお、見よ!鋼鉄の4倍もの強度を誇るバイオバンブーが……!
「シューッ…!」真っ二つに切断されているではないか!タツジン!
「朝の鍛錬ココマデ…さて、トコロザワ・ピラーに戻って朝食にするか」
◆第三の石板◆(2019/03/27)
”さくり“という音を立て、金色の衣を咀嚼する。更にぷりぷりと歯応えよく締まったエビの食感。クリスピーさと弾力のトモエめいた素晴らしい感触と共に、油と甲殻類のウマミ。そしてオーガニック岩塩の味わいが渾然一体となってユコバックの口中に広がった。(ウマイ……ああ、思ってもみなかった…)エビ・テンプラをじっくりと堪能しながらユコバックはしみじみと考える。(また、心置きなくテンプラを食べられるとは)ひとつ目のテンプラを食べ終えたユコバックは次に薄茶色のスープにテンプラをくぐらせ、ややしっとりとしたそれを口に入れる。これはテン・ツユと呼ばれるテンプラ専用の配合がなされた特殊調味ショーユの一種である。(ああ、やはりウマイ。良いものだな、ニンジャの身体というのは…)もくもくと口を動かしながら、ユコバックは目を輝かせ皿を見る。次はどのテンプラを食べようか。
◆第四の石板◆(2019/03/31)
「ムッ」「オッ」グリムファイバーとラピッドビートのIRC端末に同時にノーティスが入る。内容も同じ。『今夜11時にトコロザワ・ピラー。トレーニング・グラウンド集合』とだけ書かれた短いメッセージだ。「ミッションですね」「デスネー」ザゼンを解いたグリムファイバーはゆっくりとストレッチを始める。ラピッドビートも首をゴキゴキと鳴らし、カラテ演舞を行う。
◆
「……」スライサーはIRC端末を手に取り、たどたどしい手付きで操作し、メッセージを確認しようとする。「…いい加減慣れなくてはな。どうも電子機器は苦手だ」15年に渡る山篭りの弊害か。彼はこういった最新のテックに疎い。「…!」どうにか受信したメッセージを確認し、スライサーは端末を置いて再びトレーニング・グラウンドに向かった。「時間まで、カラテだ」
◆
「フム」テンプラを食べ終え、店を出たユコバックは懐から流麗にIRC端末を取り出すとノーティスを確認し、再び仕舞い込んだ。「早朝の指示通りだな。一旦戻って仮眠を取っておくとするか」老いたニンジャは踵を返して人気のない路地裏に入り、壁を蹴り渡ってビルからビルへと跳び移る。(腹ごなしの運動にはなるな)トコロザワ・ピラーの方角に萌黄の風が駆ける。
◆第五の石板◆(2019/04/16)
「……」ブラッドカタナ・ヤクザクランの事務所内。すでにあらかたの『清掃』は完了した。残すはつい先ほどまでオヤブンがいたと思われるこの部屋のみである。ヤクザの死体はすでに片付けられ、残っているのは紫絨毯の至る所に飛び散った血痕や、焼け焦げた跡。機械類の破片、そして。「ここで、ニンジャが死んだ。ブラックマンバという名の…ニンジャが」円形の爆発四散痕と微かなニンジャソウル残滓を見て取りながら、白尽くめ装束のニンジャ…ソウカイヤ清掃部隊のホワイトタイパンは誰に聞かせるでもなく呟く。そして彼はおもむろに懐から一枚の写真を取り出した。まだモータルであった頃のホワイトタイパンと、彼の家族が写った写真だ。「……兄貴」ホワイトタイパンは瞑目して再び写真を懐に仕舞い、『清掃』を再開した。「…家族の仇。必ずや」そのヘビめいた瞳は、復讐の怒りに燃えていた。
◆第六の石板◆(2019/04/19)
「なーんか胡散臭いねぇ…」「マジだって!いや信じられねえのはワカルけどさ」ネオサイタマ某所。数多くの非合法店舗が軒を連ねる、恐るべきブラックマーケットの一角にラピッドビートはいた。年季の入った木造建築のこの店は暗黒非合法骨董品店であり、片目をサイバネアイに置換した店主は「江戸時代から続く由緒ある店」と嘯く。狭い店内の至るところにツボ、皿、コップ、カケジク、フクスケ、絵画、ヤリ、機関銃、オイランドロイドといった品々が雑然と並べられており、「触ると罰金」「ケジメさせます」「アブナイ」「時価」という警告ショドーが壁に貼られている。コワイ!ラピッドビートはこのような場所に何の用があって訪れたのだろうか?
「このカタナで?ニンジャを?」「殺った。首を刎ねたんだよ」「フーン…」「それとカタナの所有者だったヤクザ・オヤブンもな」「コワイコワイ。取り返しに来たりしないだろうね。リスクあるなら買わないよ」「安心しな、クラン丸ごと皆殺しだ」「…ハハ」店主はやや引きつった笑みを浮かべ、気を取り直してソロバンを弾き始めた。「まぁ、なんだ。信じましょうその話。それでまぁ…イワクツキの品ってのは結構買い手がつきやすかったりするワケね」「おお!イワクツキもイワクツキだぜ。ニンジャとヤクザの血を吸った、ブラッドカタナってなもんだ!」そう。彼は先のブラッドカタナ・ヤクザクラン事務所をカチコミした際に略奪したブラッドカタナを、闇ルートで売却しに来ていたのだ。彼が得物として用いた武器でもあるが…
(カタナはどうも手に馴染まねえや…それよか売っ払ってカネにして、チームのみんなと山分けだ)ラピッドビートはそう考えた。「そんじゃま、血塗られて呪われたカタナって触れ込みで売るとしよう。買取価格は…14でいいかね?」「14か…ま、そんなもんか。いいぜ」「交渉成立だ。アリガト」店主は懐から万札束を取り出し、14枚数えてラピッドビートに差し出した。「確かめて」「ひい、ふう、み…オウ。確かに」ラピッドビートは万札を懐に仕舞いこみ…ふと気になって尋ねた。「アンタ、俺がここでカラテしてカネやら何やら奪っていくとは思わねえか?俺はニンジャだぜ」「思わないね」「…ナンデ?」「お客さんそういうことができるタチじゃないよ」店主はカタナをケースに納めながら即答した。「言ってくれるねぇ…」「こんな場所でこんな商売やってるとね、人を見る目も物を見る目も鍛えられるんだ。でなきゃアタシャとっくにタマ・リバーでラッコのエサさ」「…そんなもんか」「そんなもんさ。ホラホラ!もう用が無いならとっとと帰った!商売の邪魔だ」「アイアイ、またなんか見っけたら持ってくるよ」「ゴヒイキニ」ラピッドビートは店を出て、なんとも決まりが悪そうに頭を掻いた。
◆第七の石板◆(2019/04/19)
ネオサイタマ某所。湾岸地区にてふたつの人影が密談を交わしている。「3万!」「1万」「3万です!」「1万」「ヌゥーッ!ケチ!」「ハイ1万ね」グリムファイバーは根負けし、渋々ながら一万円札を受け取って赤い錠剤の入った薬包紙を売人に手渡した。「本物のメン・タイですよ」「それは見りゃワカル。でもこの量じゃ1万が限度」「…わかりましたよ」「それじゃ、アバヨ」足早に去っていった売人を憮然とした表情で見送りながら、グリムファイバーは気を取り直して次の目的地に向かって歩き始めた。彼女がヤクザから無慈悲に奪い取ったメン・タイは大した額にならなかったが、「コレ」なら高く売れるはずだ。ツテもある。きっと高く売れる。
「オジャマシマス。いますか?」グリムファイバーはノーレンを潜って薄暗い工房めいた部屋にエントリーした。そこかしこに大小さまざまの水槽が置かれており、生臭い空気が漂っている。「……アア、その声はグリムファイバー=サンか。ちょっと待っててヨ。すぐ行く」奥のほうからくぐもった声が返ってきた。そして、一人の男が現れた。マグロの頭部を持つ男が。
「ドーモ、マグロヘッド=サン」「ドーモ」眼前の異形存在に対してグリムファイバーは全く動じずにアイサツする。マグロもアイサツを返した。実際この男…マグロヘッドはモータルであり、頭部をバイオサイバネマグロ置換しているというわけではない(少なくとも、今はまだ)これはマグロを精密に模した被り物だ。彼はマグロをこよなく愛するケミカルハッカーなのだ。
「相変わらずマグロですか」「当然でショ。僕のマグロへの愛は日に日に高まっていくばかりだヨ。ところで何の用?」「ちょっと買い取ってもらいたいものがありまして」「買い取りィ?それで僕のところに来るってコトは…」「ええ、トロ粉末です」「ワオ!見せて見せて!」グリムファイバーは懐から厳重にパッケージングされたトロ粉末を二つ取り出し、マグロヘッドに差し出した。「それなりの純度だと思うんですけどね」「アー…イイネェ…この白くキメ細やかで美しい粉…たまらないネェ…」「ちょっと、トリップしてないでちゃんと見てくださいよ」マグロヘッドは恍惚としながらもトロを手に取り、どこにあるのかも知れないマグロ頭の覗き穴から眺めた。「…ウン。確かにいい品質だネ。これならひとつ2万で買い取らせてもらうよ」「合計4万ですか…!」グリムファイバーは少し機嫌がよくなった。なかなかの値だ。このトロ粉末を見つけたスライサーとユコバックにもいい報告ができる。「構わないカイ?」「いいですよ。交渉成立ですね」二人のハッカーは頷き合ってトロをカネを交換した。スムーズなのは良いことだ。
「ハァ…!アーイイ…!遥かに良い…これでまた僕のマグロチャン研究が進む…トロマグロに含まれるテクノ・ウマミ成分…これを解き明かしてマグロと同一化する日も近い…!」「アハハ…それじゃ、私はこれでシツレイします」早速トロ粉末を吸引し、危険なマグロ妄想を加速させ始めたマグロヘッドに多少の畏怖を覚えながらグリムファイバーはマグロ工房を後にしようとした。その時である。「……ネェ、知ってるかいグリムファイバー=サン」「…?」「マグロってね、泳ぎ続けてないと死んじゃうのさ」「ええ…それくらいは」「そういう意味じゃ、僕らもとっくにマグロなのかもしれないネ。ハッカーも…君らも。きっと泳ぎ続けてないとこのネオサイタマっていう海の中じゃ生きていけないヨ」「……そう、かもしれませんね」「…SNIFF!アー…トロがキマりすぎちゃったかな。ちょっと変なこと言っちゃったネ。ウン、気をつけて帰るんだよグリムファイバー=サン」「ええ、オタッシャデー」「オタッシャデー」グリムファイバーは「ろ」「ぐ」「ま」と書かれたノーレンを潜って工房から退出し、ネオサイタマ湾の冷たい潮風に少し身体を震わせた。「……なにか暖かいものでも食べましょうか」
◆第八の石板◆(2019/08/02)
トコロザワ・ピラー内の一室。一人の女ニンジャが黙々とショドー作業に勤しんでいた。名はハーフペーパー。ニンジャとなる前はショドー家として生計を立てていたため、そのワザマエは実際高い。「……」純白の半紙に漆黒の墨。彼女が腕を振るうたび、白と黒のゼンめいた調和が文字となって表れる。これらのショドーは主に廊下や事務所などに貼り出す業務連絡であるが、そういったものも美しい字であれば日々に彩を与える一助となるのだ。『…!』文鎮代わりに用いられているモーターロクメンタイが、書き上げられたショドーをカメラ・アイで観察し、ちかちかと感嘆の光を放っていた。
◆第九の石板◆(2020/04/10)
スティールホイルはリクライニング・チェアに身を沈め、温かいコーヒーを飲み、リラックスしながらUNIXのキーを叩いていた。「今日のミッションはハードだったぜ」彼が先ほどこなしてきたのは何の変哲も無いミカジメ徴収任務であったが、カネを稼ぐ事に対して異常な執着と熱意を持つこのニンジャにとっては拷問に近い高難易度ミッションと化す。アタッシェケースの中身にピンハネの手が伸びないよう、全身全霊で理性を漲らせ続ける必要があるのだ。「なんか良い儲け話は無いもんかね…オッ?」IRCネットワークで情報収集を行っていたスティールホイルの手が止まる。画面に表示されているのは墜落するマグロ・ツェッペリンの映像。昨晩のニュースだ。「こりゃあ…カネの匂いがするぜ!」スティールホイルは目を輝かせて立ち上がると、ねぐらにしているUNIXカフェを色付きの風となって飛び出していった。
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