米株指数オプショントレード戦略集(xDTE)
米国株指数オプションを想定し、ごくごく一般的な知識をまとめたもの
0. オプション戦略クイックオーバービュー
主要なオプション戦略の概要とともに、どういった相場環境・見通しのときにどの戦略を選べばいいかを、いくつかの具体的なケースを交えながら整理します。 特に22年以降の各年のS&P500指数の動きを例に挙げます(あくまでも私の理解):
2022年「利上げで大きく下がる相場」
2023年「ボラティリティが高めのレンジ相場」
2024年「歴史的なブル相場」
2025年「S&P 500のPERが歴史的に高く、ビッグテックや半導体関連が重くなりそう」「暴落懸念がある局面」
1. Long Call / Call Spread
概要(簡潔)
Long Call: コールオプションを買う。上昇相場で大きく取れるが、時間価値が減りやすく逆行で価値ゼロにも。
Call Spread(ロングコールスプレッド): コールを買いつつさらに上のコールを売る。コストを抑えられるが、上昇での利益も上限あり。
どんな相場で使う?
ブル相場(2024年想定のように強い上昇トレンド)や、まだ続くと確信できる上昇局面に適合。
(逆行したり時間が経つと価値が減るので、イベント直前など短期的に大きく上がりそうなときの集中投下に向く。)
2. Long Put / Put Spread
概要(簡潔)
Long Put: プットを買う。急落を狙う or ヘッジで使う。
Put Spread(ロングプットスプレッド): プットを買い、さらに下のプットを売りコストを抑える。下落時に利益は上限があるが安価。
どんな相場で使う?
下落トレンドや暴落懸念が強い局面で、大きく下がるほどリターンが増える。
2025年に「S&P500のPERが高すぎる、ビッグテックが調整入りしそう」と本格的に下落を読めるなら有力。
ヘッジとして資産を守る用途にも使われる。
3. Short Put / Short Call / Short Spreads
概要(簡潔)
Short Put: プットを売る。下がらなければ利益。下落時は無制限リスクに近い。
Short Call: コールを売る。上がらなければ利益。急上昇で無制限リスク。
Short Call/Put Spread: ショートと同時にさらに外側の買いを入れて損失を限定。
どんな相場で使う?
強気 or やや弱気を前提にしたプレミアム狙い(時間が経つほど有利)。
たとえば「2025年、SP500が割高だけど、思ったより下落しない(横ばい)」と読むなら、Short Call Spread(「上昇余地は小さい」読み)も一案。
逆に「まだまだ上昇余地がある」と読むならShort Put Spreadも選択肢になる。
4. Iron Condor / Iron Fly
概要(簡潔)
Iron Condor: OTMのコールスプレッド&プットスプレッドを同時に売る。大きく動かなければ時間価値を丸取り。
Iron Fly: ATMのショートストラドル+上下の買いオプションで損失を限定。相場がほとんど動かないときに最大利益。
どんな相場で使う?
レンジ相場狙い。特に「23年のようにボラはあるが大方向に動きにくい」なら、Iron Condorである程度広めのレンジを取りにいく。
短期0DTEで「今日は動かなそう」と思えば、Iron FlyでATMプレミアムを稼ぐ。ただし少しのブレで損益が悪化しやすい。
5. Butterfly(バタフライ)
概要(簡潔)
中心ストライクを2枚売り、その上下に1枚ずつ買いを配置する。相場が「中心ストライク付近で満期」の場合に最大利益となる。
どんな相場で使う?
“ほとんど動かない”か、特定の価格にピタリと近づきそうな時。
重要イベント後で値動きが収まると見て、狙いの価格付近への“ピン”を当てるならバタフライ。
デビットが小さいため、想定外に動いても損失は限定。
6. Calendar / Double Calendar
概要(簡潔)
Calendar: 近い限月を売り、遠い限月を同じストライクで買う。
Double Calendar: コール側・プット側 両方でカレンダースプレッドを組む。
どんな相場で使う?
大きく動かないが、IV(ボラティリティ)が上昇する可能性がある局面に有効。
たとえば、「2023年のように地政学リスクなどでボラは上がりやすい一方、価格の方向は見えにくい」ならカレンダー系で時間価値差&IV上昇を狙う。
ショートをロールしながら継続的にプレミアム収益を得つつ、遠い限月ロングで急な変動をある程度カバー。
7. Jade Lizard
概要(簡潔)
プット売り(下方向は無制限リスク) + コールスプレッド売り(上方向は限定リスク)
下がらなければ利益になりやすく、上は一定額で損失打ち止め。
どんな相場で使う?
やや強気/下がりにくいと読むとき。PERが高い2025年でも「さらに上がる確信はないけど、下げ止まりそう」という場合に考慮。
ボラが高いほどプット売りのプレミアムも大きくなるが、同時に下方向の大暴落リスクには要注意。
相場ケース別:どの戦略を選ぶ?
2025年:S&P500割高、ビッグテックが重くなりそう
短期的にまだ暴落とまではいかないが、上値が重い (横ばい or 緩やかな下落) と読む場合
→ Short Call Spread(上昇余地が小さい読み)
→ Calendar Spread(ボラ上昇+横ばい)
→ Iron Condor(広めのレンジを想定)
もし大きく下げるリスクが高いと読むなら
→ Long Put SpreadやLong Putで下落捕捉、あるいはShort Call(ただし単体はリスク無制限)
暴落懸念がある局面(2022年のような急落相場)
→ Long Put / Long Put Spread(下落幅が大きければ大きいほど利幅拡大)
→ ヘッジで組むならPut Spreadでコストを抑える
→ Short Call Spreadも方向ベア目線で使える(ただし急落時はボラ急騰でヘッジ不足に注意)
歴史的なブル相場(2024年例)
→ Long Call / Long Call Spread(上昇メリットをダイレクトに狙う)
→ Short Put あるいは Jade Lizard(下げにくいと判断し、プレミアムを積極的に取りに行く)
金利政策で下落・大暴落した2022年のような局面
→ Long Put / Put Spread(暴落取り or 資産ヘッジ)
→ Short Call Spreadで下落を前提としつつリスク限定
(一方、ショートプットは危険度が非常に高い)
戦争懸念などでボラが高いが、大方向が読めずレンジ(2023年相場のイメージ)
→ Calendar / Double Calendar(ボラ高を活かし、近い限月の売りでプレミアム確保+遠い限月ロングでIV上昇も狙う)
→ Iron Condor(急変がなければ時間価値が溶けて勝ちやすい)
→ ButterflyやIron Fly(価格が特定レンジに収まるなら短期勝負)
まとめ:最初に相場観を整理し、時間軸やボラティリティと照らし合わせる
強気・上昇 → Long Call / Call Spread / Short Put / Jade Lizard
弱気・下落 → Long Put / Put Spread / Short Call Spread
あまり動かない(レンジ) → Iron Condor / Iron Fly / Butterfly / Short Straddle/Strangle(←無制限リスクは注意)
方向感はないがボラが上昇 or 時間価値差を使いたい → Calendar / Double Calendar
上は限定リスク、下は無制限でもOK → Jade Lizard
どれを選ぶかは、「相場観(方向)× ボラ環境 × 自分のリスク許容度」の組み合わせで決まります。2025年のように「指数自体が割高で調整リスクもあるが、すぐ暴落とも限らない」局面なら、比較的保守的なショートコールスプレッドやカレンダー系、広めのIron Condorなどが候補に挙がるでしょう。逆に「もう暴落しそうだ」と確信するならLong Put系。歴史的ブルが続くならLong Call / Short Put系。そんなイメージで、まずはシナリオを見極め、その上で最適な戦略をチョイスするのがオプショントレードの基本的な進め方です。
1. Butterfly(バタフライ)
1-1. バタフライとは何か
バタフライ・スプレッド(Butterfly Spread)は、
同一限月内でATM近辺のストライクを「2枚」売り(ショート)
それより上下に1枚ずつ買い(ロング)を配置し、計4枚で構成される戦略
コールでもプットでも組むことができますが、通常は同じタイプ(コールだけ、プットだけ)で構成。
バタフライの形状は、真ん中の売り2枚を中心に左右の買いが「羽」のようになっているため、この名前がついています。
ロングバタフライ vs ショートバタフライ
ロングバタフライ(一般的に「バタフライ」と言えばこちら)
中央のストライクを売る形。
相場が中心ストライク付近にピタッと収まるとき、最大利益が得られます。
損失は限定、プレミアムも比較的安価。
ショートバタフライ
中央のストライクを買い、上下を売る。ロングバタフライの逆方向。
相場が大きく動くほど利益になるが、動かないと損失。
ここでは、最もポピュラーな「ロングバタフライ」を中心に解説します。
1-2. バタフライの構造例
例: SPX現行価格が4000とする
中央ストライク(ATM近辺): 4000のコールを2枚売る
下側ストライク(ロング): 3950のコールを1枚買う
上側ストライク(ロング): 4050のコールを1枚買う
合計で「買い1 – 売り2 – 買い1」のコールスプレッドを構成。
コスト(デビット)は比較的少なく、損失はこのデビット分に限定されます。
相場が期限までに3950~4050のレンジに入り、さらに真ん中の4000近辺で満期を迎えると最大利益を得られるイメージ。
1-3. 収益イメージ
最大利益
満期時、中心のショートストライク(4000)付近に価格がピタリと来ると、左右のロング分がITMになり、中間の売り分がほぼ価値ゼロで満期を迎えるため、差額が最大利益になる。
ただし「ピタリ着地」が必要で、ある程度の許容範囲はあるものの、大きく外れると利益は小さいか、損失になる。
損失の限定
バタフライはロングオプションが両脇にあるため、相場が大きく外れる場合でも最大損失はデビット(支払いプレミアム)に限定される。
スプレッド幅(例:上下50ポイントの差)を超えて相場が動いてしまうと、買いオプション側がITMになるかもしれないが、中心売りの損失を埋めるほどではなく、最終的には一定の損失で止まる。
時間価値とボラティリティの影響
バタフライは真ん中の売り2枚が時間価値を持っているので、時間が経過するほどショート側のプレミアムが減衰しやすい。
一方、ロングオプションの時間価値も削られるため、**“時間経過=プラス”**とは一概に言えず、いかに中心価格付近に最終的に収まるかがカギ。
ボラが急上昇すると、中央ショート分の価値が増してしまい、一時的に損が膨らむこともある。
1-4. メリットとデメリット
メリット
コストが安い(小さなデビット)
相場が広範囲でレンジ推移した場合、損失になっても限定的で済む。
高いリスクリワード比
“的中”すれば、比較的少ないコストで大きな利益を得やすい。
デメリット
最大利益を得られる可能性は低い
バタフライは中心ストライク付近への“ピン”を狙う戦略。相場がそこに来る確率は必ずしも高くない。
調整が難しい
相場が中心ストライクから離れた方向に走ると、利益を出すにはロールやクローズが必要。
バタフライはガンマが高く、価格変動に敏感なので、想定外に動くと一気に価値が減る場合がある。
1-5. 調整(アジャスト)の考え方
早期クローズ
相場が思った以上に早く中心付近に収まってバタフライの価値が十分高くなった場合、満期まで待たずに利益確定でクローズする。
逆に大きく外れた場合は、損失を限定するために早めにクローズして見切りをつける。
ロール(ストライク移動)
相場が上方向に強く動き始めたら、中心ストライクも少し上にずらし、上下のロング位置を調整する。
ただしロールコストがかさむ割にはリワードが小さくなることも多い。
一部クローズ・一部残す
もし片側(上側や下側)が著しく価値を失ったなら、その部分を買い戻す/売り直すなどして構造を再構築し、中心を動かす方法もある。
1-6. どんな相場で有効か
あまり大きく動かない見通し
指標発表直後、イベント明けで相場が落ち着きそうなど、“狭いレンジ推移”が見込めるときにバタフライは有効。
重要ラインの近辺
たとえばテクニカル的に4000が強力なサポート/レジスタンスになると考えられる場合、そこを中心にバタフライを組むパターンがある。
低コストで大きめのリワードを狙いたい
デビットを安価に抑えながら、上手くピンポイントに当たれば数倍のリターンが得られる。
まとめ
「狭い値動きが予想される局面」でピンポイント着地を狙う戦略。
安いコストで、相場が中心ストライク付近に収束すれば高いリスクリワードが得られる。
相場が予想外に動くと損失(限定的だが100%損になることも)になりやすく、調整も難しい。
非常に短期(0DTE)のバタフライなどは、“当日中に狙いが当たるか外れるか”というギャンブル色が強い一方、的中すればリターンが大きい。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
相場が狭いレンジにとどまりそうなときに有効。
プレミアムが比較的安価で、特定ポイントへの“ピンポイント”着地を狙う戦略。
0DTE~xDTE
0DTE~数日DTE:短期で狙いが的中すれば大きなリターンだが、ズレると時間価値が急減し損失になりやすい。
1~2週間以上:ある程度マーケットが安定して推移するシナリオを描きやすいなら、時間をかけて利益を狙う。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
中心ストライクをATM(デルタ0.5近辺)に置くことが多い。買い側のデルタはやや低め(0.20~0.25など)のストライクを選ぶ場合も。
上下買いオプションは、売りのストライクとのデルタバランスを意識する(加重デルタが概ねニュートラルになるように)。
Percentage OTM (% OTM):
ATMバタフライの場合はさほど%OTMを使う場面は少ないが、ややOTMのバタフライを組む際に「現行価格から±2~3%程度離れた箇所で上下買いを設定する」という使い方がある。
Fixed Premium:
バタフライは相対的にプレミアムが安い戦略のため、「買いの合計コストを一定金額以下に抑えたい」という基準で中心ストライクを微調整することがある。
Strike Offset:
ATMの売りストライクを基準とし、上下買いストライクを「±Xポイント」と固定的にずらして設定する。たとえばATM±10ポイントの買いなど。
2. Calendar(カレンダー)
2-1. カレンダースプレッドとは
基本構造
近い限月(例:1週間後や今月)でコールもしくはプットを売る
遠い限月(例:来月や2か月後)で同じストライクのコールまたはプットを買う
通常は、「近い限月の売り」が時間価値減衰で利益となり、「遠い限月の買い」は時間的な減価が緩やか&IV上昇時に有利になるため、差額を狙う。
コールでもプットでも組めますし、ATMややOTMなど「どのストライク」を選ぶかによってバイアス(やや強気/やや弱気/中立)を設定できます。
2-2. カレンダーの構造例
例: SPXが4000のとき
近い限月(例えば1週間後)のコールをストライク4000で売る
遠い限月(例えば1か月後)のコールをストライク4000で買う
近い限月のコールショートがより早く時間価値を失い、遠い限月のコールロングはまだ時間価値(プレミアム)を保ちやすい。
価格が大きく動かない(ATM付近にとどまる)かつ、ボラが上がれば遠い限月の買いが有利になり、トータルでプラスを得やすい。
2-3. 収益イメージ
近い限月の売りが時間経過とともに急速に価値を失う→ そこが利益源。
遠い限月の買いは減価が遅いので、差し引きのネット値がプラスになる。
IV上昇(特に遠い限月のIVが強めに上がる場合)は、買いオプションが膨らんで有利。
満期時のパターン
近い限月満期:ショートコール(またはプット)がほぼゼロ(理想的には価値ゼロ)になり利益確定しやすい。
その後、遠い限月の買いだけが残る(バリューがまだある)形。ここで決済するか、**続けて新たな近い限月を売る(ロール)**か選ぶことができます。
2-4. メリットとデメリット
メリット
ボラ上昇の恩恵
遠い限月のロングがベガ(IV感応度)を持つので、ボラが高まれば有利。
損失限定(とはいえスプレッド全体のコスト次第)
カレンダー自体は一応デビットポジション(買いプレミアム - 売りプレミアム)だが、相場の急騰/急落時の短期損失リスクはある程度抑えられる。
ロールしやすい
近い限月の売りが満期に近づくと、売りだけをクローズして次の近い限月を売るという継続戦略が取りやすい。
うまくいけば複数回のショート売りでコストを回収し、遠い限月の買いをほぼ“タダ”にできることもある。
デメリット
急激な値動きに対する短期リスク
近い限月のショートがITM化すると、一時的に大きな含み損に。遠い限月のロングがある程度ヘッジするとはいえ、満期が先なので追いつきにくいケースがある。
相場が大きく外れると利益が縮む
カレンダーは基本、相場がストライク付近に維持されるときに最大利益を得やすい。想定以上に動くと損失か、十分な利益が得られない。
調整の煩雑さ
ロールタイミングやストライク再設定の判断が難しい。
2-5. 調整(ロール)の考え方
近い限月の売りを決済&次の限月を再度売る
最も典型的なアプローチ。たとえば1週間後のショートが満期になる前に買い戻しつつ、翌週のショートを売って継続的にプレミアムを取る。
ストライク変更
相場が想定以上に上へ行ってしまった場合、上側ストライクにロールして引き続きカレンダーを維持する。
これは「方向づけたカレンダー」となるので、相場観が合っていないと再調整が必要になる。
遠い限月の買いを部分利確する
ボラ急上昇などで遠い限月の買いが高騰した場合、一部をクローズして利益確定する方法もある。
その後ショートだけ持つ形になりリスクが高まるが、追加のロングを再度別限月で買い直すなど、柔軟な運用が可能。
2-6. どんな相場で有効か
相場が急変しない(狭いレンジ)+ ボラ上昇しやすい状況
カレンダーは「ストライク付近に価格がとどまりつつ、IVが高まると利益が出る」構造。
イベント前後でボラが変化するタイミング
イベント前に仕込んで、ボラが上がればロングが有利。イベント後、短期売りが無価値化すれば利益。
逆にイベントで大きく動くと、一時的にショートが大きな損失になる可能性もあるので注意。
保険を兼ねた戦略
相場がすぐには大きく動かないだろうという見通しのもと、ロングオプションを少しでも安く仕込むための戦略としても使われる。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
相場が大きく動かない、またはボラが上昇する局面で有利。
ロール(売りオプションを次の限月に継続して売り直す)戦略も活用される。
0DTE~xDTE
0DTEではあまり行われない。
1~2週間DTE or 1~2ヶ月DTE:時間の経過とボラ変動を利用するのが一般的。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
ATM付近(デルタ0.50前後)が最も一般的。相場がそこまで動かない想定で中心を置く。
ややOTM(デルタ0.30~0.40など)を採用し、そこにゆっくり近づくシナリオを狙う方法もある。
Percentage OTM:
IVが低く、今後の相場上昇(または下落)余地がある場合、現行価格から2~3%程度のOTMに狙いを定めるケースもある。
Fixed Premium:
カレンダーは“売り”より“買い”のコストが上回りやすいので、固定プレミアム基準というよりは「買いコストを軽減する」という発想になる。
例えば「買いの費用を$200前後に抑えたい」→ 近い限月の売りを組み合わせてスプレッド全体のコストがその範囲になるように調整。
Strike Offset:
ATMを中心に、±〇ポイントずらして組む場合もある。たとえばSPXの現在値が4000なら、コールカレンダーを4010で組む、プットカレンダーを3990で組む等。
3. Double Calendar
以下では「Double Calendar(ダブルカレンダー)」について、基本構造から特徴・メリット/デメリット・シナリオ別の収益イメージやロール方法まで、できるだけわかりやすく解説します。単なる用語解説にとどまらず、実際のトレードで想定されるプロセスや、どのような相場で有効になりやすいかなどのポイントも示します。
1. Double Calendarとは何か
1-1. カレンダースプレッドとは
カレンダースプレッド(Calendar Spread)とは、
近い限月(例:今月または来週などのオプションを売り(ショート)
遠い限月(例:来月、2か月先など)のオプションを買い(ロング)
同一ストライク で組む戦略
です。
カレンダーの狙いは、近い限月の売りオプションが時間価値減少で利益になる一方、遠い限月の買いオプションは減価スピードが遅く、かつインプライド・ボラティリティ(IV)が上がると有利になるため、結果的に差益を狙うものです。
1-2. ダブルカレンダーの構造
Double Calendarは、上記カレンダースプレッドをコール側とプット側の両方に組む戦略です。
コールカレンダースプレッド: あるストライクで近い限月を売り、遠い限月を買う
プットカレンダースプレッド: 別の(または同じ)ストライクで近い限月を売り、遠い限月を買う
一般的には、コール側とプット側でそれぞれATM近辺(もしくはややOTM/ITM)のストライクを使い、「ノンディレクショナル(相場があまり大きく動かない)」+「ボラティリティ上昇」を狙う戦略として用いられることが多いです。
なぜ「ノンディレクショナル」か:
相場の大きな方向感を取るより、「そこまで大きくは動かないだろう」と考えつつ、ボラの上昇や時間的価値減少の速度差を狙うから。
なぜ「ボラティリティ上昇」か:
遠い限月の買いオプションはIVが上がると価値が増えやすい。そのため、後述する「ボラティリティ拡大シナリオ」を好む。
2. Double Calendarのメリットとデメリット
2-1. メリット
損失が比較的限定されやすい
単なるショートストラドル(コール売り+プット売り)と違って、買いオプションを同時に持っているため、大きく相場が動いたときも保険が効きやすい。
ただし「遠い限月の買い」なので、短期的な急騰・急落への保険効果は、Iron Condorほど“ガッチリ”ではない(後述)。
IV上昇で有利
遠い限月の買いオプションはIVに敏感(ベガが大きい)。ボラが上昇すると買いオプション価値が増加し、その分トータルでプラスになりやすい。
相場が想定より大きくは動かなくても、ボラだけ上がってくれれば利益拡大が期待できる。
「両サイド売り」よりは安全
ショートストラングルやショートストラドルは上下とも裸売りで、ボラ急上昇時に損失が膨大になるリスクがある。
ダブルカレンダーは上下とも買いを抱えるので、急騰・急落でのドローダウンが若干緩和される(理論上、無制限損失にはなりにくい)。
2-2. デメリット
相場が急伸・急落すると短期的にマイナスになりやすい
近い限月のショートオプションは、急な値動きがあると短期間で大きく損失を抱える場合がある。
遠い限月の買いはボラ上昇で価値上昇するものの、「時間差」や「ガンマ」の違いにより、急変動が大きいほど一時的にポジションがマイナスになることがある。
ただし、満期まで時間を置けば買いオプションの値上がり(+売りオプションの時間価値減衰)が追いつく可能性もある。
横ばいか小さめの値動きが前提
極端なトレンド相場(爆上げ・暴落)になってしまうと、上下に組んだカレンダースプレッドの片方が大きく損失を抱え、もう片方のロング分だけでは補いきれない場合がある。
調整がやや複雑
コール側とプット側、それぞれ2枚(売り・買い)の計4枚で構成されるため、ガンマやベガ、時間経過の影響が複雑に絡む。
近い限月の売りオプションが満期に近づいたらロール(翌週や翌月へ売りを移動)などの調整を行い続ける必要があり、初心者には少しハードルが高い。
3. Double Calendarの収益イメージ
3-1. ベースの考え方
近い限月の売り: 時間価値が急速に減る。満期近くなるほど「価値ゼロ」に近づきやすい。→ ここで利益になる。
遠い限月の買い: 減価スピードが緩やかなので、ショートより価値減少が遅い。さらにIVが上昇すると価値が大きく増えやすい。
3-2. シナリオ別
相場がほぼ横ばい・小動き
近い限月のショートオプションが時間価値減少で利益になる。
遠い限月の買いは、そこまで価値を減らさずに済む。
結果、比較的安定した利益になりやすい。
IVが上昇したが、価格は大きくは動かない
遠い限月のロングオプションはIV上昇で価値アップ。
近い限月の売りもIV上昇で価格は上がるが、満期が近い分ベガが小さく(=IVの変化に対してそれほど敏感ではない)、なおかつ時間価値が急速に減りやすいので、売りの損失がそこまで大きくならない。
結果的に大きめの利益を狙えるシナリオ。
相場が急騰・急落
近い限月のショート側がITM化し、大きめの損失が出る。
遠い限月の買いである程度カバーできるが、短期間の急変動だと買いの価値向上が追いつかず、いったんは含み損が出るリスクがある。
ただし、その後もしボラが高止まりして時間的な調整期間があれば、最終的に買いオプションが価値を発揮して損失を抑えられる可能性がある。
4. 実際の仕組み例:具体的イメージ
例: SPXが「4000」とする
近い限月(例えば1週間後満期)のコールとプットをショート
コール側のストライク:例えば 4000(ATM付近)
プット側のストライク:同じく 4000(ATM付近)
遠い限月(例えば1か月後満期)のコールとプットをロング
コール側のストライク:近い限月と同じ 4000
プット側のストライク:同じく 4000
こうすると、**「1週間後に期限が来る売りオプション」が急速に時間価値を失いやすいのに対し、「1か月後の買いオプション」**はまだ余裕があるため価値が残りやすい。同時に、1週間後の満期に近づいてきたら、その売りオプションを決済または次の週(または次の月)にロールしていく運用をします。
価格があまり動かなければ、近い限月の時間価値はほぼゼロになって利益に貢献。
もしボラティリティが高まれば、遠い限月の買いがより多くの含み益を持つ可能性がある。
5. 調整(ロール)の考え方
5-1. ロールとは
ショートオプションの限月やストライクを差し替えること。
例えば:満期が近づいた近い限月のオプションを買い戻し、次週 or 翌月など新しい限月を売り直す。
Double Calendarでは、近い限月の売りが期限に近づいたら、値動きの状況やボラの状況を見て、どの水準(ストライク)へ転がすかを決めます。
5-2. ロールのメリット
継続的にプレミアムを稼ぐ
カレンダースプレッドは「近い限月の売り」を繰り返してプレミアムを得る発想なので、ロールすることで続けて収益機会を得られる。
相場の実勢に合わせてストライクを動かせる
想定外に相場が上昇したらコール側のストライクを上げる、急落ならプット側を下げるなど調整。
5-3. 注意点
ロール時には、新たな売りオプションが思ったよりプレミアムが取れなかったり、ボラが下がっていて不利になっているケースもある。
また、相場が急に動いてITM化したショートオプションをロールすると、思った以上に損失を確定しながらの再設定になるため、あまりロールで引きずらないのも重要です。
6. Double Calendarが有効になる相場
大暴騰・暴落はないが、そこそこの上下動がある相場
過度に値が走らないので、近い限月のショートがITM化しづらい。
しかし多少の不透明感・イベントリスクがあり、ボラティリティの底堅さが期待できるような状況。
重要指標やイベント前後
イベント前はIVが上昇しやすい → 遠い限月のロングが有利
イベント後に相場が落ち着き、短期オプションの時間価値が急減する → ショートの利益
ただし、実際にイベントで相場が大きく変動すると、想定外の含み損が発生し得るため注意。
IVが一時的に低下しているときに仕込む
カレンダー系は「ボラが上がるほどロングが儲かる」ので、なるべく仕込む段階ではIVが低いほうが優位性がある。
7. まとめ
ダブルカレンダーの目的
コールとプットの両サイドで“カレンダースプレッド”を組み、相場が大暴騰・暴落しない限り、近い限月売りの時間価値減衰と遠い限月買いのボラ上昇益を狙う。
メリット
ノンディレクショナル(方向にあまりベットしなくてよい)
ボラ上昇に強い
買いの保険がある分、裸売りよりリスクが抑えられる
デメリット
相場が急変動した場合、短期的にショートが大きく損失になる可能性
調整がやや複雑
運用上のポイント
ロール戦略が必須:近い限月の売りを定期的に転がしてプレミアムを得る
**IVと時間価値(セータ)**の管理:遠い限月と近い限月のボラ差や時間経過を上手く利用
大きすぎる変動を想定したリスク管理:一方向に走りすぎた場合のヘッジ・損切りルールを明確にする
最終的に
Double Calendarは、相場が“そこそこ安定”して動き、かつIVがじわじわ上がるなど、「ボラティリティの恩恵+時間価値差の恩恵」を同時に得られる可能性がある戦略です。
「ショートストラドルほどガンガンにプレミアムを取れない」一方、「IV上昇へのベガポジティブ効果」が期待できる点が特徴的です。
調整やロール、相場の変化への対応にそれなりの知識と経験が必要ですが、うまくはまればリスクをコントロールしながら**“コツコツ収益”**を狙いやすい戦略ともいえます。
もしDouble Calendarを実践するなら、まずはシミュレーションや小ロットから始め、調整時の対応やIV変化へのリアクションを体感してみることをおすすめします。
Iron Condor
1. Iron Condor(アイアン・コンドル)とは
1-1. 構造
OTMコール・クレジットスプレッド
OTM(アウト・オブ・ザ・マネー)領域で「コールを1枚売り(ショートコール)」+ さらに上のストライクのコールを1枚買う(ロングコール)。
これにより上方向の損失を限定しながら、コール売りのプレミアムを得る。
OTMプット・クレジットスプレッド
OTM領域で「プットを1枚売り(ショートプット)」+ さらに下のストライクのプットを1枚買う(ロングプット)。
これにより下方向の損失を限定しながら、プット売りのプレミアムを得る。
この「コールスプレッド + プットスプレッド」を同時に組むことで、両サイドからプレミアムを獲得しつつ、上下方向への損失を買いオプションで限定するのがアイアンコンドルです。
ショートストラドル/ストラングルのように「上下無制限リスク」ではない点が特徴。
1-2. 収益イメージ
最大利益:
上下のショートオプションのストライクが両方とも満期までOTMのままなら、売りオプションのプレミアム(差引ネットクレジット)がすべて利益になる。
上下いずれかがITM化(権利行使価格を超えて/下回って)しない限り、最大利益確定。
最大損失:
コール側またはプット側のショートストライクを超えて(下回って)、買いオプションのストライクまで大きく相場が動いた場合に発生する。
損失額はクレジットスプレッドのスプレッド幅 - 受取プレミアムで概ね計算できる。
つまり、上下どちらかのスプレッドがフルにITM化したとしても、買いオプションがあるため無制限にはならない。
時間経過(セータ)の恩恵:
“ショートプレミアムをメインで獲得”する戦略であるため、時間が経つほど(相場が安定していれば)有利に働く。
ただし、相場が動くと買いオプションだけでショート分の損失を完全にはカバーしきれない場合がある。
2. メリットとデメリット
2-1. メリット
両サイドからプレミアムを獲得
ショートコールとショートプットの両方から同時にプレミアムを得る。
レンジ内に収まる限り、高い勝率を見込めることが多い。
損失が限定
コール/プットともにロングを組み合わせるため、相場が急騰・急落しても最大損失はスプレッド幅に限定される。
**裸売り(ショートストラドル・ショートストラングル)**に比べれば安全性が高い。
相場の方向バイアスを抑えられる
ノンディレクショナル(レンジ継続想定)で取れる戦略なので、中立ポジションとしてよく使われる。
2-2. デメリット
相場が大きく動くと損失
上下いずれかのショートスプレッドがITM化すると、損失が出る。
ボラ急上昇でオプション売りが一時的に含み損を抱える場合も。
最大利益が限定的
ショートストラングル等に比べて、損失限定の代わりに獲得プレミアムは小さめになる。
大相場で方向が見えていても、リターンの伸びしろは限られている。
調整が必要になる場面がある
相場が上下どちらかに偏った動きを見せた際、早めに片側スプレッドをクローズまたはロールしないと、最大損失に近づきかねない。
3. 実際の組み方の例
例: SPXが4000のとき(約1カ月後満期を想定)
上側(コールスプレッド)
ショートコール: ストライク 4100(デルタ0.15~0.20程度)
ロングコール: ストライク 4150(ショートより50ポイント上)
下側(プットスプレッド)
ショートプット: ストライク 3900(デルタ0.15~0.20程度)
ロングプット: ストライク 3850(ショートより50ポイント下)
上記構成により、**±100ポイントの領域(3900~4100)**にSPXが収まれば、4本の売買オプションはいずれもOTMのまま満期を迎え、受け取ったプレミアムが最大利益となります。
上か下に抜ける可能性に備えて、ロングオプションが損失を限定してくれる形。
4. 調整(アジャスト)の考え方
片側クローズ or ロール
相場が上方向へ想定以上に動いたら、上側のコールスプレッドが危険に晒される。
早めに上側のスプレッドをクローズして損失を確定 or 上のストライクへロールすることでリスク回避。
逆に下方向の場合はプットスプレッドを調整。
“Iron Condor → Single Spread”化
例えば、上に大きく動いて下のプットスプレッドがほぼ価値ゼロになった場合、プット側だけ先に買い戻し(利確)して、コールスプレッドを残す。
これで「上はまだ危険だけど、下のリスクはもうなくなった」という状態を作り、実質的にコールスプレッドだけのポジションへ移行する。
もちろんそれでもさらに相場が上に走ったら追加ロールが必要。
反対売買(ヘッジ)
どうしても相場が意外な動きをしたら、買いオプションを追加するなどのヘッジを入れる場合もある。
しかし、Iron Condorは最初から損失が限定されているため、ヘッジ追加でコストをかけるより、早期損切りのほうがスッキリしている場合も多い。
5. どんな相場で有効か
レンジ相場が続きそうなとき
「大きく動かない」「動いても限定的な範囲」という見通しがある場合、最も利益を出しやすい。
実際には「相場は上にも下にも動きうるが、短期間で両端を超えるほどの大波はなさそう」と感じたときが狙い。
ボラティリティ(IV)が高めで、落ち着く可能性が高い局面
IVが高いとオプションプレミアムが厚くなるため、同じデルタ帯でもより離れたストライクで十分なプレミアムを得られることが多い。
その後、相場が落ち着けば時間価値が急速に溶け、勝ちやすいシナリオになる。
イベント明け・方向感不透明な時期
FOMCや雇用統計など重要イベントが終わり、相場がしばらく膠着しそうなときに仕掛けるパターン。
ただしイベント中に大きく動くときは早期クローズやロールなどの対応が必要。
6. Iron Condorのバリエーション
“Standard” Iron Condor: 上下とも同じ程度に離したストライクで構成し、中立的レンジを想定。
“Skewed” Iron Condor:
例えば、強気寄りにしたいなら上側(コール)スプレッドは遠めに、下側(プット)スプレッドは近めにして、受取プレミアムを増やす。
弱気なら逆に、コール側を近め・プット側を遠めにする。
相場観に応じて、上下のストライクやスプレッド幅を非対称に設定する。
7. 稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
レンジ相場を想定して時間価値を獲得する。
ボラが高く、プレミアムが厚い時に仕掛けると優位性が高まる一方、予想外の動きへの注意が必要。
0DTE~xDTE
0DTE:短時間でプレミアム消失を狙う場合が多いが、監視を怠ると一瞬で損失拡大のリスク。
1~4週間DTE:最も一般的に使われる期間。安定的に時間価値を取りに行きやすい。
8. ストライク価格設定の考え方
Delta:
ショートコールをデルタ0.10~0.20、ショートプットをデルタ0.10~0.20あたりに設定するのが一般例。
リスク量や期待収益に応じてデルタを調整。
Percentage OTM:
「現行価格から上方向に+5%のコールを売り、下方向に-5%のプットを売る」など、シンプルな決め方をすることが多い。
Fixed Premium:
「合計クレジットが$X欲しい」という基準でショートストライクを決めるやり方。必要プレミアムを満たすためにストライクを近づけるor遠ざける。
Strike Offset:
「現行価格から上下±50ポイントをショートストライクにして、そこから±20ポイント上/下をロングストライクにする」といった固定オフセットパターンがある。
9. まとめ
Iron Condorの狙い
相場が上下のストライクレンジ内に収まり、時間価値が自然消滅することで、ショートプレミアム分を最大限獲得。
ボラが下がる or 相場が落ち着くと有利。大きな値動きには弱いが、損失はスプレッド幅で限定される。
メリット
比較的高い勝率が期待できる。
裸売りに比べてリスクが限定的。
ストライク設定を工夫し、自分の見立て(やや上に動きそう/ほぼ中立/やや下落しそう)に合わせて微調整が可能。
デメリット
レンジを外れると損失が発生。
ショートストラングルよりも受取プレミアムは小さい。
調整作業(片側クローズやロール)が発生する場合も多い。
運用のコツ
**入るときはボラが比較的高い(プレミアム豊富)**タイミングがベター。
急変時の損失管理: 上下どちらかが脅威水準に近づいたら早期クローズかロールでリスクをコントロール。
Buying Powerを使いすぎないように、ロットを少なめで複数回に分散し、想定外の動きへの耐性を確保。
最終的に
Iron Condorは、「レンジ内に収まる」と踏んだ局面で、時間価値とIV縮小を味方に稼ぐ戦略です。上下のショートストライクを売るという点ではショートストラングルに似ていますが、買いオプションを同時に持つことで損失が限定されるため、リスク管理がしやすい特徴があります。
0DTEなど超短期でも人気があり、当日相場が大きく動かないと見込めれば短時間でプレミアムを取ることが可能。
一方で、反対方向に動かれた場合の調整は素早く行わないと最大損失に近づくリスクもあるため、エントリー前に“出口”を決めておくのが大切です。
こうした戦略の特徴を理解したうえで、ボラティリティ環境や自分の相場観と照らし合わせ、ストライク選びやポジションサイズ(Buying Power管理)を慎重に行うことが、Iron Condorを安定的に活用するカギとなります。
5. Iron Fly
以下では、「**Iron Fly(アイアン・フライ)」**について、これまでと同程度の詳細さで解説します。
Iron Condor との比較も交えながら、基本構造、メリット・デメリット、収益イメージ、調整(アジャスト)方法、適した相場を順に説明します。
1. Iron Fly(アイアン・フライ)とは
1-1. 構造
Iron Condor との違いは、中心のショートを同じストライク(ATM付近) でコールとプットを売る点にあります。
ショートストラドル (ATM近辺): ATMに近いストライクでコール1枚、プット1枚を売る
上下にロングスプレッドの買い: 上側はコールを買い、下側はプットを買う
結果的には、同じストライクを売る“ショートストラドル”と、その上下に**買いオプション(コール・プット)**を1枚ずつ配置することで、最大損失を限定しているイメージです。
Iron Flyのイメージ
/----(買いコール)
/
---(売りコール&売りプット)--- 中心ストライク(ATM)
\
\----(買いプット)
たとえば、SPXが4000のとき:
ショートコール・プット双方を4000ストライクで売る(ショートストラドル)
上側に、より高いコールストライク(例:4050)を買う
下側に、より低いプットストライク(例:3950)を買う
1-2. 収益イメージ
最大利益
ATM(中心)のコール&プットを売ることで、売りプレミアム(クレジット)が非常に高いのが特徴。
相場がほとんど動かず、ATMストライク付近で満期になるときに最大利益(ショートストラドルのプレミアムほぼ全取り)を得られます。
Iron Condorよりも、中心ストライクがATMのため受取プレミアムが多い。
最大損失
価格が上下どちらかに大きく動いて買いオプションのストライクに到達した場合、ショートストラドル部分の損失が顕在化します。
ただし、上下に買いがあるため、損失はスプレッド幅内に限定されます。
Iron Condorと同じく、損失の上限は「スプレッド幅 - 受取クレジット」。
時間経過とボラの影響
**時間経過(セータ)**はプラス要素:
中心のショートコール&ショートプットはATMにあるため、時間価値が非常に大きい。時間の経過でそれが失われるほど、Iron Flyの利益が膨らむ。
**ボラティリティ(IV)**が下がると有利:
ATMショートオプションはベガが大きく、IVが下がるとオプション価格は減少し、ショートサイドに有利。
逆にIVが上がると一時的に含み損が増えるケースがある(ショートATMはプレミアムがさらに上昇し損失に見える)。
もっとも満期までに価格が中心付近に戻ってIVが低下すれば結果的に利益になることもある。
2. メリットとデメリット
2-1. メリット
受取プレミアムが大きい
ATMのショートストラドルなので、Iron Condorのようにストライクを離していないぶん、初期クレジットが厚くなる。
相場がほぼ動かなければ、このクレジットを最大限確保できる。
損失が限定
単なるショートストラドルとは違い、上下に買いオプションを置くことで急激な値動きによる無制限リスクを回避。
リスク許容度が高くなくても取り組みやすい。
時間価値減衰の恩恵を大きく受けやすい
ATM部分(ショートストラドル)の時間価値は高い。時間経過が進むほど急速に萎む。
2-2. デメリット
少しの値動きでもリスクリワードが悪化しやすい
ATMにショートを構えるため、相場が中心ストライクからわずかに離れるだけでショート側の評価損が増えやすい。
Iron Condorよりも誤差レベルのブレで含み益が減少しやすい。
急変動に弱い(ただし損失は限定)
価格が大きく動くと、ATMショートがITM化し、含み損が急拡大。
買いオプションがある分、最終的な損失は限定されるが、その幅にすぐ達してしまいやすい。
調整がシビア
中心がATMゆえに**ガンマ(価格変動に対するオプション価格の感応度)**が大きい。
少し相場が動いたときのアジャスト判断が難しく、タイミングを逃すと一気に不利な展開になりやすい。
3. 具体的な例
例: SPXが4000の場合、満期を1週間後と仮定
ショートストラドル(ATM付近)
売りコール (4000) + 売りプット (4000)
買いコール (上側)
4050コール(ショートコールから50pt上)
買いプット (下側)
3950プット(ショートプットから50pt下)
スプレッド幅: コール・プットとも50pt。
この構造で、相場が満期までに3950~4050の間で推移、特に4000付近で最終的に着地すれば最大利益。
受取クレジットはATM売りゆえにIron Condorよりも大きいが、相場がほんの少し動いて3950付近や4050付近に近づいてしまうと、急速に含み益が減るリスクあり。
4. 調整(アジャスト)の方法
片側のスプレッドをクローズ
価格が上に行き、コール売りが脅威になった場合、上側のスプレッドを早期買い戻しして損失を確定 → 下側だけを残す、というやり方。
逆に下に行った場合も同様。
ストライクのロール
相場が動いた方向に合わせて、ATMにまた合わせ直すようなロールを行う。
しかし、Iron FlyはATM前提なので、ロールの際に再度ATMに合わせると追加コストがかかるか、クレジットを大幅に減らす可能性もある。
早期損切り/早期利確
Iron Flyはデイトレ的に用いられることも多く、0DTEなど「当日相場がほとんど動かないなら利益が大きい」反面、急変したら即切る、という運用も一般的。
もし数日以上のポジションを持つ場合でも、中心ストライクから大きく離れたらすぐ損切り、あるいは中心付近で含み益が十分に乗ったら満期を待たずに利確するのが鉄則。
5. どんな相場で有効か
極力値動きが少ない日・期間
経済指標の発表が終わってマーケットが落ち着く日や、週末前で大きなニュースが期待されないタイミングなど、「とにかく動かない」と読める局面に向いている。
短期勝負(0DTEなど)では特に有効。
ボラティリティが比較的高めで、今後下がる見込み
ATMショートオプションのプレミアムが大きい状況で売ると、クレジットが厚くなる。
その後、大きな変動がなければIVが下がるので、ATMショートの価値が急減し、利益になりやすい。
方向性を強く張りたくないが、短期で大きめのプレミアムを稼ぎたい
Iron Condorよりもハイリスク・ハイリターンに近い。
「最大利益狙いのレンジトレード」としてよく用いられる。
6. Iron Condor との比較

まとめると、Iron Flyのほうが「中心にピタリと収まれば利益が大きい」一方、「ちょっとズレるとすぐ不利になりやすい」戦略です。
7.稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
ボラが低く、値動きが限定的と考える短期局面で用いられることが多い。
ボラが急騰するとショートの損失が一気に膨らむ。
0DTE~xDTE
0DTE:より短期で高いプレミアムを狙う動きが多い。精密な値動き予測と即時調整が必要。
1~2週間DTE:短期の狭いレンジ推移を想定して仕掛ける。
8.ストライク価格設定の考え方
Delta:
ショートの中心はほぼデルタ0.50付近(ATM)。買いもすぐ近くに置くため、極端に離れることは少ない。
Percentage OTM:
ATM中心の戦略なので%OTMはあまり使われないが、わずかにOTMをずらす「少し強気(コール側をやや上)」「少し弱気(プット側をやや下)」という応用はある。
Fixed Premium:
「ショートストラドルから受け取るプレミアムが$X以上になるように設定する」アプローチを取る場合がある。そこから損失限定の買いオプションを決定。
Strike Offset:
ATMを中心に、買いストライクを上下±数ポイント~数十ポイント程度に固定しておくのが典型。
9. まとめ
Iron Flyの目的
ATMのショートストラドルで大量の時間価値を取りに行くが、上下のロングオプションで損失を限定。
相場がほとんど動かず、ATM付近で満期を迎えれば最大利益となる。
メリット
受取クレジットが大きい
損失はスプレッド幅で限定
時間経過・IV低下の恩恵を受けやすい
デメリット
ATM売りのため、少しの値動きにも敏感
急変動時は早めの調整や損切りが必要
調整のタイミングがシビア(ガンマが高い)
有効な相場
短期的に動かない見通しが強いとき
IVが高い水準から下がりそうな状況
方向性よりも「価格が停滞する」可能性に賭ける際
最終的に
Iron Flyは「中心(ATM)で高いプレミアムを稼ぎたいが、無制限リスクは避けたい」という意図から生まれた戦略です。
0DTE(当日限)でのトレードにも多用され、一日ほとんど動かない相場だと短時間で大きな利益を狙えますが、わずかな値動きで含み損が発生する可能性も高いので、監視と調整が非常に重要です。
Iron Condorよりハイリスク・ハイリターン気味ですが、買いオプションを備えるため、最大損失は限定されるというメリットもあります。
トレードする際は、**「相場がほぼ停滞する」あるいは「イベントが終わって大きく動かない」**といった局面に狙いを定め、**ポジションサイズ(Buying Power管理)**を慎重に設定することが成功のカギとなります。
6. Jade Lizard
以下では、「**Jade Lizard(ジェイド・リザード)」について、これまでと同程度の詳細さで解説します。
Jade Lizard は、日本語文献ではあまり見かけない戦略ですが、海外トレーダーの間では「下値リスクはあるが、上値リスクを限定してプレミアムを稼ぐ」**方法として親しまれています。基本構造やメリット・デメリット、具体例、調整、どんな相場で有効かなどを順に説明します。
1. Jade Lizard とは
1-1. 構造
ショートプット
下落時にプレミアムを得る代わりに下方向のリスクを負う(=無制限に近い)。
ショートコールスプレッド
上昇時のリスクを限定するため、コールの売り + さらに上のストライクのコール買いで構成。
これにより、上方向の損失を限定しつつ、売りコールプレミアムを獲得できる。
この2つを組み合わせることで、下方向は裸のプット売りがある一方、上方向は**コールスプレッド(損失限定)**にしておく、という独特のリスクプロファイルとなります。
ポイント
プット1枚を売る(下方向リスクは大きい)
コールは売り1枚 + 買い1枚(上方向リスクを限定)
ネットでプレミアムを受け取る(クレジット)構造になりやすい。
適度に強気~中立寄りの相場観(「大きくは下げないだろう」との見立て)で利用されることが多いです。
1-2. 収益イメージ
最大利益
基本的に、“ショートプット + ショートコールスプレッド”の受取プレミアムが最大限に残るのが理想。
相場が上方向にしっかり上がった場合、プットはプレミアム全取りで価値ゼロになり、コールスプレッドも上側買いコールで損失が限定されるので、一部または全額残る形。
ただし、コールスプレッドがITM化するとその部分で一定の損失が発生するため、プット売りのプレミアム + コールスプレッドの差し引きが最終利益となります。
最大損失
下方向:ショートプットが大きく下落方向にさらされるため、理論上は株価(指数)が0になるまで損失が増えうる(=ほぼ無制限)。
上方向:コールスプレッドを買いでカバーしているため、コールの損失はスプレッド幅までに限定される。
つまり、上方向は限定損失、下方向は裸売りプットのため大きいリスクとなる。
方向バイアス
下落しなければ(あるいは緩やかに上昇すれば)利益になりやすい、強気~やや強気の戦略。
“Jade Lizard”という名前は、トカゲが這うように地面(下方向)は脅威が大きいが、上はある程度安全、というイメージを連想させるとも言われます。
2. メリットとデメリット
2-1. メリット
上方向リスクを限定できる
裸コール売りよりは安全。
コールスプレッドで上昇リスクを小さく抑えつつ、そこそこ大きなクレジットを確保できる。
下がらなければ勝ちやすい
プット売りがメインのプレミアム源になるため、相場が上昇または横ばいならプットの価値が急減して利益を得やすい。
積極的に利益を伸ばすというより、**「下がらなければ勝つ」**性質が強い。
比較的高い受取プレミアム
裸プット売りが含まれるため、受取プレミアムは大きくなる傾向。
上方向のコール売りも併用するので、合計のクレジットはさらに膨らむ。
2-2. デメリット
下方向が無制限リスク
最も注意すべきは、大暴落した場合にショートプットが大きな損失を被る点。
資金管理を誤ると、想定外の急落で口座が大きくダメージを受ける可能性がある。
中立~下落相場には不向き
大きく下がってしまうとプレミアムだけでは賄いきれない損失になる。
ボラ急上昇の局面も評価損が膨らみやすい(プット売りのプレミアムが跳ね上がる)。
調整がやや複雑
3つのレッグ(プット売り・コール売り・コール買い)があり、上方向はスプレッドのロール等で対処できるが、下方向は裸プットということもあり、どうヘッジするかが課題。
3. 具体例
例: SPXが4000とする(満期を2週間後と想定)
ショートプット: ストライク 3900(デルタ0.20前後)
ショートコール: ストライク 4050(デルタ0.15前後)
ロングコール: ストライク 4100(ショートコールより50ポイント上)
下落リスク: プット売り(3900)が急落時の大きな損失を抱える可能性。
上昇リスク: 上方向は4050~4100の間で損失が限定される(最大損失 = スプレッド幅 - コール売りプレミアム)。
受取プレミアム: ショートプット +(ショートコール - ロングコール)= 合計クレジットが得られる。
4. 調整(アジャスト)の考え方
下落方向のリスク管理
ショートプットが想定外の急落に晒された場合、早めにクローズ or ロールダウン(さらに下のストライクへプットを移動)を行って損失を抑える。
あるいは追加でプットを買うなど、応急的にヘッジを入れる方法もある。
上昇時の調整
コールスプレッドがITM化し始めたら、スプレッド幅内であれば損失は限定。
もし更に上昇余地があると判断すれば、上側スプレッドをロールアップして追加クレジットを取ることも可能。
ポジションの一部解消
SPXが思った以上に大きく上昇し、プット売りがほぼ価値ゼロになった場合、プットを先に買い戻す(利確)
上側のコールスプレッドのみを残して、引き続き横ばい or 下落を待つ形に移行する。
逆に下落方向へ行って含み損が膨らむ場合は、プットを損切りしてコールスプレッドだけを残す(もっとも、その後上がればスプレッドだけでプラスになる可能性も)。
5. どんな相場で有効か
やや強気 or 横ばい~緩やかな上昇見通し
下がらなければプット売りが価値ゼロへ向かい、コールスプレッドでも少しのプレミアムを追加で稼げる。
ボラティリティ(IV)が高いとき
ショートプットを売る際、IVが高いほどプレミアムは多くなる。
ただし、高ボラな相場は急落リスクも高いので注意が必要。
自信を持てるサポートラインやテクニカル根拠があるなら、そこの下にプットを設定するなど工夫する。
方向感が出にくいが、上昇余地をそこそこ感じる局面
完全なレンジを想定するならIron Condorなども選択肢だが、やや強気で「多少の上げはあっても、下がらなければいい」という場合にJade Lizardがマッチする。
6. Jade Lizardと他の戦略の比較
戦略上方向リスク下方向リスクプレミアムの大きさ方向バイアスJade Lizard限定 (コールスプレッド)大 (プット売り)大きめ (プット売り+コール売り)やや強気~強気 (下落NG)Iron Condor限定 (コールスプレッド)限定 (プットスプレッド)中~小 (両サイドのショートOTM)中立~無方向(レンジ)Short Putなし (無制限上昇OK)大 (プット単体)中~大 (IVが高い時はより大きい)強気 (下げない想定)Short Strangle大 (コール売り)大 (プット売り)大 (2つの売りプレミアム)中立 (大きく動かない想定)
Jade Lizardは、「下には大きなリスクを取るが、上方向は限定」というユニークな特徴を持っています。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
緩やかな上昇~横ばい相場を前提に売りプレミアム収入を狙う。
プット売りがメイン収益源の一つになる。
0DTE~xDTE
0DTE:急騰・急落リスク管理が難しく、短期モニタリングが必須。
数日~数週間DTE:比較的高ボラな時期に仕込み、下がらなければ利益というパターンが多い。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
ショートプットはデルタ0.15~0.25あたりが目安になることが多い。コール売りはさらにOTM(デルタ0.10前後など)。
コール買いは損失限定のため、ショートコールからさらに上(デルタ0.05など)を買う。
Percentage OTM:
たとえば「プット売りは現在価格の-5%水準」で設定し、コール売りは+3~4%水準など、強弱をつける。
Fixed Premium:
「プット売り&コールスプレッドの合計プレミアムを$X以上にしたい」という基準で調整する。
狙ったプレミアムを得られるように、プットのストライクを上下させる。
Strike Offset:
「現在値から-50ポイントにプット売りを置き、コールは+30ポイント売り/+40ポイント買い」のように、一定のオフセット基準で組むケースが多い。
7. まとめ
Jade Lizardの目的
下がらなければ大きなプレミアムを得られ、上方向のリスクをコールスプレッドで限定。
つまり、やや強気~横ばいの相場を想定して、裸プット売り + 上方向の損失限定を組み合わせた形。
メリット
上方向の損失が限定され、上昇しても大きく負けない。
ショートプットを含むため、プレミアムは比較的大きくなりやすい。
デメリット
下方向のリスクが無制限に近い。急落時の含み損が大きくなりがち。
調整やヘッジが難しい面があり、タイミングを誤ると大きな損失につながる。
有効な相場
株価(指数)が下がりにくい環境、サポートラインが堅いなどの根拠がある局面。
ボラが高めで今後は下落しないと判断する場合に、下に売りプットを設定すると優位性が高い。
リスク管理のポイント
下方向の暴落リスクを念頭に置くことが最重要。
Buying Powerに余裕を持ち、価格がサポートを割り込みそうになったら早期クローズやロールを検討。
最終的に
Jade Lizardは「下がらないなら効率的に大きなクレジットを取りたい」という発想から生まれた戦略です。ショートプットがメインの収益源になるため、中立というよりやや強気の相場観が前提となります。上方向のリスクをコールスプレッドで限定している点が他のショート売り主体の戦略(たとえばショートストラングル、ショートコール+ショートプット)とは大きく異なるポイントです。
一方で下方向に対する裸売りリスクを常に抱えるため、相場急落やボラ急騰の場面では一気に含み損が膨らむ可能性があります。
したがって、Jade Lizardを仕掛ける際は強固なサポートをテクニカル的に認識している、または下落しにくいと判断できる根拠(ファンダメンタル要因など)が必要です。さらに、Buying Powerをギリギリまで使わず余裕を持ち、調整・ロールのしやすい状態を保っておくことが、プロトレーダーでも必須のリスク管理となります。
7. Long Call
概要
構造
コールオプションを買うだけのシンプルな強気戦略。
利益発生のイメージ
相場がストライクを超えて上昇すればするほど、理論上の利益も大きくなる。
一方、時間価値の減衰が常にマイナス要因。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
急上昇を狙う。ボラが低い時に仕込み、上昇とIVアップの両方で稼ぐ場合も。
時間が経つほどプレミアムが減るので、早めに動いてほしい相場観が必要。
0DTE~xDTE
0DTE:急騰がないとほぼプレミアム消失となりやすく、ギャンブル要素が強い。
数週間~数ヶ月DTE:本格的なトレンド上昇を狙う場合には余裕を持ったDTEを買う。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
ITM寄り(デルタ0.60~0.70)を買うと値動きに追随しやすいが、プレミアムが高い。ATM(デルタ0.50)ややOTM(デルタ0.30~0.40)を買うと安価だが、上昇しないと価値がつきにくい。
Percentage OTM:
「現在値から+2~3%上のストライクを狙う」など、値動きとコストバランスを考慮して決定。
Fixed Premium:
「1枚につき$500以内のコストに抑えたい」といった場合、プレミアムに合致するストライクを選ぶ方法。 例えば、IVや満期までの日数を勘案し、適切な価格帯を探す。
Strike Offset:
「現行価格+〇ポイント」を目安にストライクを選定。たとえばSPXが4000なら、4050コールを買うなど。
8. Long Call Spread
概要
構造
コールを買い、より高いストライクのコールを売るデビットスプレッド。
利益発生のイメージ
買いコールの時間価値コストを売りコールで一部相殺。
利益の上限は売りコールのストライクまで。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
上昇を狙いつつコストを抑えたい場合に有効。
ボラが低いときに仕込みやすい。
0DTE~xDTE
0DTE:大きく上に振れないと買いコールの時間価値が瞬間的に消えるため、非常に短期勝負。
1週間~数ヶ月DTE:比較的ゆったりとした上昇を狙う戦略として一般的。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
買いコールはややATM寄り(デルタ0.40~0.50)を選ぶことが多い。売りコールはさらにOTM(デルタ0.20~0.30など)に設定。
デビット(支払い)を抑えつつ、そこそこの上昇があれば利益になるように調整。
Percentage OTM:
「買いコールをATM~+1%程度、売りコールを+3%程度」で設定するなど、狙う上昇幅を数%で管理する。
Fixed Premium:
「スプレッド全体で$X以内に収めたい」という場合に、買いと売りを調整して合計コストを合わせる。
Strike Offset:
例:ATM(4000)で買い、+50ポイント上(4050)で売りといった固定差で組む。SPXのポイント幅で一定のリスクリワードを維持する。
9. Long Put
概要
構造
プットオプションを買う。単純な弱気戦略、または保険(ヘッジ)用途。
利益発生のイメージ
相場がストライクを下回ってさらに下落すると利益が増大。
急落時にはIVが上昇するため、さらにオプション価値が上がりやすい。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
下落相場または急落を見込むときに大きく利益を狙う。
保有株やポジションのヘッジとしても利用。
0DTE~xDTE
0DTE:大きな下落がすぐに発生しないと価値は急速に減衰。ギャンブル性が高い。
数週間~数ヶ月DTE:調整局面や下落トレンドが続く可能性があるときに仕込む。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
デルタ0.40~0.50近辺(ATM)は動きに敏感だがプレミアムは高い。デルタ0.20~0.30あたり(OTM)は安価だが、しっかり下がらないと価値化しにくい。
Percentage OTM:
たとえば「-3%のOTMストライクを買う」など、目標とする下落幅を想定して選ぶ。
Fixed Premium:
「1枚あたり$300以内に抑える」といったコスト管理目標でストライクを選定する。
Strike Offset:
「現行価格-50ポイント」など、一定のポイント差でストライクを選択。極端に下に離すほど安価になるが到達しにくい。
10. Long Put Spread
概要
構造
プットを買い、さらに下のプットを売るデビットスプレッド。
利益発生のイメージ
下落で利益拡大。ただし売りプットのストライクまでが利益上限。
コストを抑えられるが、最大利益も制限される。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
しっかりとした下落を想定しながらも、初期コストを抑えたいとき。
保険(ヘッジ)コスト削減にも利用される。
0DTE~xDTE
0DTE:急落がなければすぐに価値消失。
1週間~数ヶ月DTE:下落トレンドを捉える短中期戦略に。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
買いプットはややATM寄り(デルタ0.40~0.50)、売りプットはさらにOTM(デルタ0.20前後)という組み合わせが多い。
ボラの高さによって、売り側をどこに置くかを検討。
Percentage OTM:
「現在値から-2%を買いプット、-5%を売りプット」など、下落幅に対して3%の利幅を狙う、という形で設定。
Fixed Premium:
「合計コストを$Xに収めるために売りプットをもう少し近いストライクにする」など、売り側で調整する。
Strike Offset:
「買いプット: 現在値-50ポイント、売りプット: さらに-100ポイント」といった一定距離差で設定。
11. Ratio Spread
概要
構造
例)コールを1枚買い、同限月・同種類のコールを2枚売る(プット版も同様)。
売りの枚数が買いより多いのでネットでクレジットになることもある。
利益発生のイメージ
適度な値動きなら複数売りのプレミアムで利益。しかし大きく動かれると、売りが過大な損失を生む可能性あり。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
価格がそこそこ動く、またはゆるやかに推移すると売りプレミアムが残る。
大きくブレすぎると損失拡大。
0DTE~xDTE
0DTE:急変に弱いため、ハイリスク。
数日~数週間DTE:相場を観察しつつ調整(ロール)できる期間を持つ方が安全。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
買い側をATM付近(デルタ0.50前後)、売り側をややOTM(デルタ0.30前後)で2枚売る、といった形が一例。
リスクとクレジット量を調整するためにデルタを細かく見る必要がある。
Percentage OTM:
「コールなら+2~3%OTMに2枚売る」など。買いはATMまたは+1%程度に設定してバランスをとる。
Fixed Premium:
「ネットクレジット$Xを最低でも確保したい」という場合に売り枚数やストライクを調整する。
ただし大きく動かれるリスクが増すため、慎重に。
Strike Offset:
「買いをATM、売りは+〇ポイント(例えば+50ポイント)を2枚」などオフセット固定で組むやり方も多い。
12. Short Call
概要
構造
コールを売るだけ。損失無限大の可能性がある危険戦略。
利益発生のイメージ
相場がコールのストライクを超えずに満期に至ればプレミアムをまるごと獲得。
反面、急上昇すると損失が膨大。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
相場が下落または横ばいなら高い勝率。ただし1回の上昇で大きく負けるリスク。
ボラが高い時に売ればプレミアムは大きいがリスクも増す。
0DTE~xDTE
0DTE:急騰リスクが最終日まで残るので危険だが、時間価値の消え方は早い。
数日~数週間DTE:必ずヘッジや損切りラインを明確に持つことが必要。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
デルタ0.10~0.20のOTMコールを売るケースが多い。安全マージンを得られるが、プレミアムは小さくなる。
デルタ0.30~0.40に近づくほどプレミアムは厚いがリスク増大。
Percentage OTM:
「+5%上のストライクを売る」など、株価の変動レンジを見て決定。
範囲を広く取るほど勝率は高まるが受取プレミアムは減る。
Fixed Premium:
「1枚あたり$100以上のプレミアムを得たい」→ 必要なプレミアムを得られるストライクを探す。
近いストライクを売るほどプレミアムは厚いがリスクも上がる。
Strike Offset:
「現在値+〇ポイント」の位置を一律に売る。大きく離すほど安全だがプレミアムは薄くなる。
13. Short Call Spread
概要
構造
コールを売り、さらに高いストライクのコールを買って損失を限定するクレジットスプレッド。
利益発生のイメージ
相場が売りコールのストライク以下で推移すれば、受け取ったプレミアムが利益に。
大きく上昇しても、買いコールが損失を限定。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
相場がそれほど上昇しないと見込む局面で、時間価値を狙う。
“短期~中期”で安定的に小さなプレミアムを積み重ねる使い方が多い。
0DTE~xDTE
0DTE:強い抵抗線やイベント後に上昇余地が限られそうな場合に狙う。
1~4週間DTE:一般的に使われ、調整(ロール)もしやすい。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
売りコールをデルタ0.15~0.25、買いコールをさらに上のデルタ0.05~0.10程度にするケースが典型。
ローリスク・ローリターン化を図るならもっとOTM側。
Percentage OTM:
「+5%にショートストライク、+6%にロングストライク」など、相場のボラや抵抗帯を見ながら決める。
Fixed Premium:
「1スプレッドあたり$Xのクレジットを得たい」という基準でショートコールを決め、そこから買いコールを調整。
Strike Offset:
「ショートストライクを現在値+50ポイント、ロングストライクを+80ポイント」など固定幅で組むやり方。
14. Short Put
概要
構造
プットを売るだけ。下方向のリスクが大きく、損失は理論上株価が0になるまで無制限。
利益発生のイメージ
相場がプット売りストライクを下回らなければ、プレミアムをそのまま獲得。
下落すると急速に含み損が増える。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
横ばい~上昇相場でプレミアムを稼ぐ。実際には保険(ヘッジ)なしだとリスク大。
ボラ高の時期に売ればプレミアムは大きい。
0DTE~xDTE
0DTE:最終日に大きく下がらない見込みがあるときは短期に稼げるが、急落対応が難しい。
数日~数週間DTE:保有期間中に大きく下げない相場を想定し、時間価値を獲得。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
デルタ0.15~0.20のプットを売ると「そこそこ安全」でプレミアムもそこそこ。リスクを増やすならデルタ0.30近辺も。
Percentage OTM:
「-5%OTMでショートプット」など。株価が5%以上下げない限り利益を得るイメージ。
Fixed Premium:
「1枚で$150以上欲しい」→ それに合うストライクを探す。近づければリスクは増大。
Strike Offset:
「現行価格-50ポイントを売る」など固定距離を設定。相場のボラ水準によって調整。
15. Short Straddle
概要
構造
同じストライク・同じ限月でコールとプットを両方売る(ATM付近が多い)。
利益発生のイメージ
相場がほとんど動かず、両サイドの時間価値が減衰すれば最大利益。
大きく上下どちらかに動くと損失が無制限に膨らむリスクあり。
稼ぎ方・有効なDTE
稼ぎ方
ボラティリティが高いイベント前に売り、イベント後のIV急落を狙う手法が典型。
安定したレンジ相場が見込めるときにも使われる。
0DTE~xDTE
0DTE:当日動かないと読んだ場合、短時間で大きく稼ぐチャンス。反面、急な値動きリスク。
1~2週間DTE:時間をかけてプレミアムを溶かすパターン。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
ATM(デルタ0.50)にあえて合わせるのが基本形。微妙にプット側・コール側をずらす場合もあるが、いずれにせよリスクは高い。
Percentage OTM:
ショートストラドルは厳密にはATMが多いので%OTMにするケースは少ないが、やや外して「+1%と-1%」などで組む場合は“Strangle”寄りになる。
Fixed Premium:
「合計で$500のプレミアムを得たい」と逆算してストライクを少しズラす方法がある。しかし動きがあればすぐ損失になる点は変わらない。
Strike Offset:
ATMを中心に±0~数ポイント程度に設定するのが典型。基本的に“同じストライク”が多い。
16. Short Strangle
概要
構造
OTMコールとOTMプットを両方売る。コールとプットでストライクが異なる(通常は上下に離した位置)。
利益発生のイメージ
相場が売ったコールとプットの間に収まると最大利益。大きく動かれると無制限リスク。
稼ぎ方・有効なDTE
レンジ相場で時間価値を狙う。
0DTEで極端な動きがなければ短時間で最大利益を得られる反面、急変時のリスクが高い。
0DTE~xDTE
0DTE:非常に人気だが、板監視やニュースリスク対応が欠かせない。
数日~数週間DTE:よりゆったりプレミアムを溶かすが、相場変動の調整策(ロールなど)が必須。
ストライク価格設定の考え方
Delta:
コール側をデルタ0.10~0.20、プット側をデルタ0.10~0.20などで売るのが典型的。
ボラや期待レンジに応じて多少広げる・狭める。
Percentage OTM:
「+5%にコール売り、-5%にプット売り」など、同率のOTMを設定する例が多い。
Fixed Premium:
「合計$200のクレジットを得たい」→ コールとプットの売りストライクを調整しながら目標プレミアムを作る手法。
Strike Offset:
「現行価格から+○ポイントをコール売り、-○ポイントをプット売り」と一定幅をもたせる。SPXの場合、上下50~100ptなどが一例。
DTE(0DTE~xDTE)についての総合的な見解
0DTE(当日限)のメリット/デメリット
メリット:時間価値の急減を狙えるため、ショート戦略で短時間に大きなプレミアム収益が期待できる。
デメリット:わずかな相場変動でも急激にガンマリスクが高まり、損失が膨らむ可能性がある。
レバレッジが非常に高い一方、失敗時のリカバリー余地は少ない。
数日~1週間DTE
0DTEほど極端な動きにはなりにくいが、ショート戦略でも日々の時間価値減衰をある程度安定して取れる。
調整(ロール)やヘッジを行う余地がある。
2週間~数ヶ月DTE
ボラティリティの変化やファンダメンタルズ、イベントリスクを織り込んだ中期~長期戦略向き。
カレンダーやダイアゴナルなど、時間とIV変化を利用する戦略が活きる。
重要TIPS
リスク管理を最優先に
損失が無制限または拡大しやすい戦略(ショートストラドル、ショートストラングル、裸売りコール・プットなど)を行うときは、必ずヘッジ手段(ロングオプションを遠めに仕込むなど)やロール戦略を用意する。
大きな相場変動が起きやすいイベント日(FOMC、重要指標発表など)には特に警戒。
ボラティリティの分析が重要
SPXは市場全体のセンチメントを映しやすく、経済指標やニュースでIV(インプライド・ボラティリティ)が急変しやすい。
低ボラ→ロングオプションやカレンダースプレッド仕込み、高ボラ→ショート戦略で時間価値獲得、など状況ごとの使い分けを意識する。
DTEと戦略の適正を合わせる
0DTE~短期:狭い範囲に留まりそうならアイアンコンドルやショートストラングルなどで素早くプレミアムを稼ぐ。ただし急変リスクに備えたモニタリング必須。
数週間~長期:Calendar系やVertical Spread等で、方向性・ボラ変動を狙う長期戦略を組む。
調整シナリオ(ロール/ヘッジ)の事前準備
ショートポジションが逆行した際の“損切り or ロール”条件を事前に決めておく。
大きく動いたときに焦って対応すると損失拡大を招きやすい。
ストライクの選定は4つのアプローチを使い分ける
Delta:狙うデルタレンジを決めることで、理論上の勝率やリスクリワードを管理。
%OTM:シンプルかつ相場ボラティリティに連動したやり方。
Fixed Premium:獲得・支払いプレミアム目標に合わせ、具体的なリスクリワードを設定しやすい。
Strike Offset:特定のポイント差で設定すると、見た目が分かりやすく、メンテナンスもしやすい。
ストライク価格設定の4つのアプローチ
Delta
特徴: オプション価格の感応度(デルタ)を基準とし、リスク・リターンバランスを数値的に管理しやすい。
メリット: 勝率・損益分岐点をデータドリブンに把握できる。ヘッジの組み合わせもしやすい。
注意点: IVやガンマの影響を考慮しないと、単にデルタだけ見ても実際のリスクは異なる場合がある。
Percentage OTM (% OTM)
特徴: 現在のSPX価格から一定%離れたストライクを選ぶ。
メリット: 相場がどの程度動くかを%で考えるため、ボラティリティが高ければ自然とストライクも遠くなり安全域が広がる。
注意点: ボラが極端に低い/高いとき、%の設定が実勢からズレる可能性がある。
Fixed Premium
特徴: 「1枚あたり○ドルのプレミアムを確保/支出する」という金額基準でストライクを選ぶ。
メリット: リスク許容度や目標利益を金額ベースで管理しやすい。
注意点: プレミアムはIVや残存日数、ストライク間隔など様々な要因で変動するので、狙いの金額を得られるストライクが必ずしも妥当なリスクとは限らない。
Strike Offset
特徴: 「現行価格±○ポイント」という絶対値基準でストライクを設定する。
メリット: シンプルで分かりやすい。特定のテクニカルライン(サポート/レジスタンス)に合わせた設定もしやすい。
注意点: 相場価格が高い/低い状態やボラ水準によって、同じオフセットが安全でもあったり危険でもあったりする。
Appendix.1. デルタを基準としたストライクプライス選択の考え方
1-1. デルタとは何か
オプションのデルタ(Δ)
一般的に「原資産価格が1ドル動いたときに、オプション価格がどれだけ動くか」を示す。
例えば、デルタ0.30のコールオプションは、原資産(ここではSPX)が1ポイント上昇すると、おおむね0.30ポイントオプション価格が上昇することを意味する(理論的には)。
確率の近似としての解釈
デルタは「満期時にオプションが行使される(=ITMになる)確率の概算」としてもよく用いられる。
ただし、正確にはブラック–ショールズモデルなどで“リスクニュートラル確率”をベースに算出された値であり、市場参加者が感じる実際の「確率」とは完全に一致しない場合もある。しかし、概算指標としては非常に便利。
1-2. デルタを使ったストライク選択の代表的な例
ショートストラテジー(売りオプション)での例
例:Short Put や Short Call、Iron Condor など
目的: 「ある程度離れたところにストライクを置き、そこまで到達しないだろう」という前提で時間価値を獲得したい。
典型的なデルタ値:
(\Delta 0.10)前後 → 到達確率が比較的低いが、受取プレミアム(クレジット)は小さめ。
(\Delta 0.20)前後 → そこそこリスクを取りつつプレミアムを確保。到達確率は(\Delta0.10)より高いが、その分受取プレミアムも大きい。
(\Delta 0.30)前後 → さらにストライクを近づけて、より大きなプレミアムを取るが、被弾(ITM化)リスクも高まる。
ロングストラテジー(買いオプション)での例
例:Long Call、Long Put、デビットスプレッド(Vertical Spread)など
目的: 「上昇または下落を捉えて、大きな値幅を狙う」あるいは「保険としてヘッジを買う」。
典型的なデルタ値:
(\Delta 0.50)前後 (ATM近辺) → 値動きに対する感応度が高く、すぐにオプション価格が上がりやすいが、プレミアムは高い。
(\Delta 0.30)前後 (ややOTM) → コストがATMより低いが、相場が動かないと価値がつきにくい。
(\Delta 0.70)前後 (ITM) → 初期プレミアムは高いが、株価変動に対して大きく反応する。実質的に原資産を一部保有しているような感覚になる。
デルタニュートラル戦略
例:ショートストラングルやショートストラドルを複数枚調整して、ポジション全体のデルタをほぼゼロにするなど。
目的: 相場の方向をあまり取らずに、ボラティリティや時間価値の減衰を狙う。
実践例: コール側・プット側のデルタを相殺し、合計デルタが0付近になるようストライクおよび数量を調整する。
1-3. デルタ選択時に考慮すべきポイント
リスク許容度
(\Delta 0.30)を売るのと(\Delta 0.10)を売るのでは、受取プレミアムと損失リスクが大きく異なる。
相場急変にどれだけ耐えられるかを考慮し、ストライクを決定する。
ボラティリティ環境
同じ(\Delta 0.20)でも、ボラティリティ(IV)が高い局面ではプレミアムが格段に大きい。
ボラ高 → 同じデルタでもストライクを遠くに置けることが多い。ボラ低 → ストライクを近づけないと十分なプレミアムが得にくい。
満期までの日数(DTE)・ガンマリスク
短期(0DTE~数日)ほどデルタは急変しやすく、ギリギリのストライクを売っていると急変でITM化する可能性が高まる。
長期のオプションを売買するなら、やや広めにストライクを取ることも多い。
イベントリスク・サポート/レジスタンス
テクニカル分析やチャート上の重要な支持線・抵抗線付近にストライクを合わせる。
例えば「先物チャートで強力なサポートがある地点」にプットを売る場合、その価格帯のデルタが(\Delta0.25)だった、というように実践的に組み合わせる。
Appendix.2. Buying Powerをどの程度残すか(証拠金管理)
2-1. Buying Power(証拠金)とは
Buying Power(以下BP)は、「新たにポジションを建てることができる余力」を指す。
オプション取引の場合、**ショートポジション(特にリスクが無制限なもの)**は比較的大きな証拠金を必要とする。
証拠金維持率が一定水準を下回ると証拠金不足(Margin Call)となり、強制決済やポジション縮小が求められるリスクがある。
2-2. Buying Powerを残す意義
アジャスト・ロール用の資金確保
相場が急変した場合、ロールや追加ヘッジを行うためには余力が必要。
BPがギリギリだと調整ができず、損失が拡大する可能性がある。
想定外のボラ急騰への対応
ボラが急上昇するとショートオプションの評価損が膨らみ、証拠金が急増することがある。
十分なBPがあれば、追証リスクを回避しやすい。
新しいチャンスを狙う余裕
突発ニュースや経済指標後など、新たに有利なプレミアムを得られるタイミングが到来した際、BPがないとエントリーできない。
2-3. どの程度BPを残すかの目安
一般的な推奨(経験則)
初心者~中級者: 口座資金の50%程度は常に残す。
例:口座に$10,000あれば、$5,000以内の証拠金消費に抑える。
相場急変時のリスクヘッジと、慣れていない段階での安全策という観点。
上級者~プロ: 30~50%を目安に残すことが多い。
相場に自信がある・調整手法に慣れている場合はBP使用率を高めることもあるが、それでも**フルレバレッジ(100%使用)**は非常に危険。
ボラが高いときほど、BPは余裕を多めに
VIX等のボラ指数が高い状態は相場が急変しやすい。そのようなときほど証拠金要求が増える可能性があるため、保守的に運用する。
ロット管理との関係
SPXは1ポイントあたり$100(100倍)なので、値動き1ポイントのインパクトが大きい。
1枚あたりの証拠金が想定より大きくなることもあるため、ロット(枚数)管理とBP管理を並行して行う必要がある。
Appendix.3. Buying Power Reduction(証拠金拘束)の仕組み
3-1. 基本的な仕組み
証拠金(BP)拘束は、取引所やブローカーが「このポジションが最大損失を被る可能性に対して、一定額の証拠金を差し入れてください」と要求することで発生する。
未決済の評価損が増える、またはボラティリティが上昇すると、追加で証拠金が増える場合がある。
3-2. 戦略ごとのBP拘束の特徴
裸売り(Short Call / Short Put / Short Straddle / Short Strangle)
最大損失が理論上無制限 or 非常に大きいので、証拠金拘束も大きくなりやすい。
価格変動やIV上昇により、BPが急に増大することも珍しくない。
スプレッド戦略(Iron Condor / Vertical Spread / Calendar など)
損失が限定されるので、最大損失額を上限として証拠金が固定される。
相場変動があっても、基本的には“組んだ時点のスプレッド幅”が最大損失(原則)。よってBPの増加は比較的小さい。
デビットポジション(Long Call / Long Put / Long Spreads など)
支払いプレミアム以上の損失はない(買いポジションは最大損失=支払ったコスト)ので、追加証拠金は発生しないことが多い。
ただしブローカーによっては取引手数料や口座の規則で一定の余力を別途要求する場合もある。
3-3. 証拠金増加(Margin Expansion)が起きる主なケース
相場が急変動
ショートポジションの評価損が増える → ブローカーが追加証拠金を要求。
IV急騰(インプライド・ボラティリティ上昇)
オプションの理論価格が上がり、評価損が拡大する。また、リスクモデルが引き上げられてBPが増える。
取引所やブローカーの規制変更
重要イベント(FOMC、雇用統計、選挙など)の前後で一時的に証拠金率が引き上げられることがある。
3-4. Buying Power Reductionを管理するためのポイント
初期ポジションサイズを抑える
初めからBPを使いすぎない。ロットを小さくし、非常時にも十分な余力を確保する。
分割エントリー
一度に大きく張らず、相場の状況を見ながら複数回に分けてポジションを構築。
証拠金が膨張するリスクをタイミングごとに制御できる。
早めのロール・クローズ
相場が逆行し始めたら損失を限定するために手仕舞い・ロールなどを行い、証拠金圧迫を回避。
特に短期戦略(0DTEなど)では素早い対応が肝心。
定期的な評価損益チェック
価格変動・ボラ変動が大きそうな日(重要指標発表日など)は、こまめにマージン状況を確認。
ブローカーのリスク画面やリスクシミュレーターを活用すると良い。
Option Omegaを用いたバックテスト
Iron Flyの例
まとめ
デルタを基準としたストライク選択
デルタは「オプション価格の変動率」かつ「満期時のITM化確率の概算」として利用できる。
ショート戦略は小さいデルタ((\Delta0.10~0.20))を選べば比較的安全だがプレミアムも薄い。大きいデルタ((\Delta0.30~0.40))ならプレミアムは増えるが到達リスクも上がる。
ロング戦略ではATM((\Delta0.50))ややITM((\Delta0.60~0.70))、ややOTM((\Delta0.30))など、コストとリターン期待値のバランスで選ぶ。
Buying Powerの使い方
口座資金の50%以下の使用に抑える等、一定の余力を持つのが定石。
相場急変時や追加ポジションを仕込みたい時に対応できるよう、無理にフルレバレッジで張らない。
Buying Power Reduction(証拠金拘束)
裸売りは最大損失が無制限なため、相場変動やIV上昇で証拠金が急増するリスクがある。
スプレッド戦略は損失が限定されるため、初期設定時の証拠金が比較的安定。
証拠金管理のキーポイントは、ポジションサイズのコントロールと早期のロール/クローズによるリスク縮小。
最終的には、「どのデルタで、どんなリスク許容度で、どの程度の証拠金を使い、いざというときどう対応するか」という総合判断が大切です。SPXのように値動きが大きくボラティリティの影響も大きい指数オプションでは、特に慎重な証拠金管理(Buying Power管理)とストライク選択が必須になります。常に以下の点を意識してください。
相場観(方向性)とボラティリティの見通し
グリークス(デルタ、ガンマ、セータ、ベガ)の定期的なモニタリング
リスク管理(ロット/ストライクの調整、損切りルール)
イベント前後の証拠金変動リスクの把握
こうした点を守りつつ、デルタを上手に活用したストライク選定と安定した証拠金運用を組み合わせていくことが、長期的な成功につながると考えられます。