土居豊の文芸批評・YouTube講座編【姓名文学のすすめ あなたと同姓同名の主人公】第1回 村上春樹と村上龍〜ペンネームと本名について
土居豊の文芸批評・YouTube講座編
【姓名文学のすすめ あなたと同姓同名の主人公】
第1回 村上春樹と村上龍〜ペンネームと本名について
概要
作家のペンネームは様々だ。例えばデビュー当時、W村上と呼ばれた村上春樹と村上龍は、登場人物の名付け方が対照的だ。
漱石&鴎外、司馬遼太郎&山田風太郎など、ペンネームでセットにした作家の比較研究はあるが、姓名に焦点を当てた比較文学研究は、過去に例のない切り口である。
ペンネームを手掛かりに文学を解読し、作家の名前と登場人物名から作品を深掘りしてみよう。
⒈ 村上春樹&村上龍
(1)W村上はペンネーム?
春樹は本名。
龍の本名は村上龍之助。
(2)W村上の小説の登場人物名を比較する
1)村上春樹の場合
村上春樹は初期の頃、登場人物にほとんど名前を付けなかった。
(例)
『風の歌を聴け』僕、鼠、ジェイ、など
その後、名前を付けるようになったが、非常に簡単、あるいは記号的な命名をする。
(例)
『ノルウェイの森』ワタナベ、直子、キズキ、緑、レイコなど
『ねじまき鳥クロニクル』岡田亨、岡田久美子、綿谷昇、加納マルタ、クレタなど
『海辺のカフカ』田村カフカ、ナカタさん、星野、佐伯さんなど
『1Q84』ふかえり
2)村上龍の場合
村上龍も、デビュー当時は簡略化した命名をしていた。
(例)
『限りなく透明に近いブルー』リュウ、リリー、オキナワ、レイ子など
その後、リアリティを感じさせるような命名に変化する。
(例)
『コインロッカー・ベイビーズ』関口菊之、溝内橋男、桑山和代など
『愛と幻想のファシズム』相田剣介、鈴原冬二など
『69』矢崎剣介、永田洋子、山田正、松井和子など
3)登場人物名のつけ方は、作家の名刺のようなもの
W村上のそれぞれの登場人物名をみると、二人のデビュー当時の文学情況とその後の作風の変化がみてとれる。
1)村上春樹の場合
初期は人物名が記号扱い
↓
リアリズム小説に挑戦(ノルウェイの森)
↓
人物名が作品世界の代名詞に(加納マルタ&クレタ、カフカ、ふかえり、など)
2)村上龍の場合
デビュー当時は文壇への反抗者
↓
リアリズム小説に挑戦(コインロッカー・ベイビーズ)
↓
作風の拡大によって名前の使い方も多様化
↓
登場人物名が人気アニメ(エヴァンゲリオン)に引用されることで、若手世代からもカリスマ視される
⒉ 作家たちのペンネームあれこれ
(1)「W村上」など2人並立
紅露時代(尾崎紅葉&幸田露伴)
漱石鴎外(夏目漱石&森鴎外)
司馬遼太郎&山田風太郎(忍者小説の二大作家)
(2)親子作家
斎藤茂吉と北杜夫
福永武彦と池澤夏樹
吉本隆明と吉本ばなな
(3)ペンネームあれこれ
1)語呂合わせ
二葉亭四迷→くたばってしまえ
江戸川乱歩→エドガー・アラン・ポー
2)地名
三島由紀夫→三島駅
大佛次郎→鎌倉、大仏の裏手に居住
城山三郎→名古屋市城山に居住、3月に入居
新田次郎→出身地が上諏訪角間新田(しんでん)、次男
3)本名と似た発音
埴谷雄高→本名は般若豊(はんにゃ ゆたか)
4)ペンネームみたいで、実は本名
村上春樹 赤川次郎 池田満寿夫 池波正太郎 五木寛之 井上靖 内田康夫 遠藤周作 大江健三郎 川端康成 今東光 重松清 俵万智 松本清張(きよはる) 森村誠一 山口瞳 山村美紗 横溝正史(まさし) 渡辺淳一
(この稿、第2回へ続く)
※バックナンバー
マガジン「土居豊の文芸批評」
作家・土居豊が「文芸批評」として各種ジャンルの作品を批評します。
マガジンとしてまとめる記事は、有料記事です。まとめ読みができるのと、記事単独で買うより安くなります。
↓
土居豊の文芸批評その1
村上春樹『街とその不確かな壁』のオリジナル版と新作 1
https://note.com/doiyutaka/n/nc68693cc0b25
(続き)村上春樹『街とその不確かな壁』のオリジナル版と新作 2
https://note.com/doiyutaka/n/nec4c3577cf8d
土居豊の文芸批評その2
村上春樹『街とその不確かな壁』の彼女の正体は?
https://note.com/doiyutaka/n/n0266ed29df2f
土居豊の文芸批評その3
村上春樹『街とその不確かな壁』のオリジナル版中編「街と、その不確かな壁」を読んで、「街」のモデルを特定した!
https://note.com/doiyutaka/n/n495ab95b92b8
土居豊の文芸批評その4
村上春樹『街とその不確かな壁』の原点は、忘れられた傑作『1973年のピンボール』である
https://note.com/doiyutaka/n/n496a4b188cfa
文芸批評4(続き)村上春樹『街とその不確かな壁』の原点は、忘れられた傑作『1973年のピンボール』である 2
https://note.com/doiyutaka/n/n055939f5df58
土居豊の文芸批評
高村薫『レディ・ジョーカー』その1〜平成日本を代表する小説
https://note.com/doiyutaka/n/n966a5a70570a
土居豊の文芸批評・映画編
『THE DAYS』(2023年 Netflix)をみて、東電福島第一原発事故について改めて考える
https://note.com/doiyutaka/n/nf5a0a3c23c97
土居豊の文芸批評・アニメ編
映画『君たちはどう生きるか』評 〜これは宮崎アニメの集大成というより米林監督作品との和解か?
https://note.com/doiyutaka/n/n342a1eb4e594
土居豊の文芸批評 アニメ・ラノベ編
《「涼宮ハルヒ」エンドレスエイトのアニメは8回も繰り返す必要なかったのでは?》
https://note.com/doiyutaka/n/n7d8c9b0513db
土居豊の文芸批評・アニメ編 映画評『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』
(期間限定、無料公開)
https://note.com/doiyutaka/n/nbeeee99d1f1e
(ネタバレします。まだ鑑賞していない方はご注意ください)
※土居豊の文芸批評 特別編
【(追悼)小川国夫没後16年、今の若い人に薦める小川作品】
https://note.com/doiyutaka/n/n619268c7feb8