エッセイ『2000年代物書き盛衰記〜 ゼロ年代真っ最中に小説家商業デビューした私だがなぜか干されてしまって怪しい評論家もどきライター兼講師に?』 ⒈ 「ライター稼業」編 その3「ライター業から作家への脱皮」
エッセイ『2000年代物書き盛衰記〜 ゼロ年代真っ最中に小説家商業デビューした私だがなぜか干されてしまって怪しい評論家もどきライター兼講師に?』 ⒈ 「ライター稼業」編 その3「ライター業から作家への脱皮」
(3)2009年、ライター業から作家への脱皮
これまで、ライター歴1年の筆者が案件を次々とこなせるまでに成長する過程を紹介してきた。
2009年には特に案件を複数抱えて、同時にある大学の非常勤講師として「ライター入門」と題した講義を半年、担当。名実ともにライターと認められた。ゴーストライティング、取材記事ライティングをこなし、並行してライター業から派生した講師案件やビジネスツールの営業など、多岐にわたるライター案件を抱えていた。
そんな2009年の夏の終わり、筆者はライターから作家へ脱皮するきっかけをつかむことになる。
⒈ 村上春樹『1Q84』大ヒットに関連したライター案件への応募、その顛末
【案件の発注会社とのメールやりとり】
1)
2009年7月
発注会社からのメール1)
土居 様
企画をおくっていただきありがとうございます。
しかしながら、『1Q84を読み解く』というタイトルの本がすでに出版されてしまいました。企画を別の角度から考え直して、再提案していただけますか。
2)
土居の返信1)
拝復
ご連絡、恐縮です。
企画内容について、質問させてください。
以前、いただいたお話では、
【村上春樹氏の「1Q84の世界を読み解く」(仮題)】
というのが企画テーマでした。
同じタイトルの本が出されてしまったとのことですが、今回お求めの企画のテーマは同じでいいのでしょうか?
それとも、【「村上春樹本」ではあるが、『1Q84』に限定はしない】というような感じでしょうか?
イメージを教えていただけましたら幸いです。
まずは、質問にて、失礼いたします。
7月5日
土居豊
3)
発注会社からのメール2)
土居様、ご質問ありがとうございます。
・出版された内容と重複をさけたいこと。
・『読み解く』というタイトルはともかく、切り口は斬新にしたい。
・村上ファンの読者層のどこに焦点をあてるのか。
・全く別のものを考えるのではなく。
切り口は一考の必要があると思います。同様のものが2つあっても売れません。ご理解ください。
4)
発注会社からのメール3)
土居様、再考していただいたものは、面白そうな内容です。そこでお願いですが、なるべくわかりやすく、予備校の講義のような書き方で出来ますか?可能であれば1章を書いて送ってください。2ページ分四百字詰め原稿用紙3枚、1章で340〜350枚です。よろしくお願いします。
※この間、土居は発注会社の担当者に電話して、詳細をやりとりする。
5)
土居の返信2)
拝復
昨日はいきなりお電話さしあげて、大変失礼いたしました。
お聞きした内容について、考えました。
契約面や、仕事の進め方など、当方のポリシーと合わない部分が多いため、今回の村上春樹本の企画は、一旦取り下げさせていただきたく存じます。
お手数をおかけして、恐縮ですが、ご容赦いただけますよう、お願い申し上げます。
まずは、用件にて、失礼いたします。
とりいそぎ
2009年7月8日
土居豊 拝
⒉ 村上春樹『1Q84』大ヒットに便乗した、土居豊による解説本の企画提案(複数の出版社宛て)と、その顛末
(1)某中堅版元とのやりとり
1)土居の企画提案メール
拝啓
有限会社 A社
〜〜〜〜様
先日は、ご丁寧にお返事頂戴し、誠に恐縮しております。
さて、今回また、是非、御社にご提案いたしたい書籍企画がございます。
《企画概要
村上春樹の最新長編『1Q84』は、発売前からベストセラーとなり、品切れ増刷中、いまや社会現象となっています。ノーベル文学賞候補でもある村上文学は、なぜ、そんなに読まれているのでしょう?
『1Q84』を読んだ人にも、まだ読んでいない人にも、作品の魅力をお伝えします。合わせて、映画化される『ノルウェイの森』の再評価も加えます。》
ご多忙中とは存じますが、添付の企画書をご検討いただけましたら光栄でございます。採用の可能性がありましたら、後日、御社に伺わせていただきたくお願い申し上げます。
勝手ながら、これを機会に、よいご縁を結ばせていただけますよう、心より願っております。
今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
敬具
2009年7月7日
作家/講師
土居豊 拝
2)A社の返信
土居豊様
お世話になっております。
非常に興味深く企画書を見させていただきました。
ただビジネス書版元から出すには、ジャンル的に文芸書寄りであり過ぎます。
〜〜〜出版などの、総合版元へ企画されることを提案いたします。
(2)某最大手出版社(K社)とのやりとり
1)K社からの返信
村上春樹『1Q84』解説書の企画について
土居さま
企画書ありがとうございます。可能性ある企画と思いますので、会議にかけたいと思いますが、いつまでお待ちいただけますでしょうか。
7月定例会が終わったばかりで、次の会議は8月です。
内容を、来年の映画『ノルウェイの森』公開を見すえた本にするか? あるいは『1Q84』に焦点を合わせるかで時期が変わってきます。構想をお聞かせください。
2)K社担当者との電話やりとりの結果、この企画はボツになる
K社担当者とのやりとりの要点
・いわゆる「春樹本」は、村上春樹の著作を出している版元からは出さないという内々の方針がある。
・「春樹本」企画を大手出版社であたるなら〜〜、や〜〜などが良いだろう。
・別件の、司馬遼太郎『坂の上の雲』関連書の企画は、再考の余地あり。
(この時のやりとりがきっかけで、のちに、司馬遼太郎『坂の上の雲』関連書をこの最大手出版社から出せることにつながった)
⒊ 村上春樹『1Q84』大ヒットに便乗した、土居豊による解説本の企画提案(複数の出版社宛て)が採用される
土居豊:作家・文芸ソムリエ。近刊 『司馬遼太郎『翔ぶが如く』読解 西郷隆盛という虚像』(関西学院大学出版会) https://www.amazon.co.jp/dp/4862832679/