土居豊の文芸批評アニメ・ラノベ編 米澤穂信原作アニメ「小市民シリーズ」1期を見終わって
土居豊の文芸批評
アニメ・ラノベ編 米澤穂信原作アニメ「小市民シリーズ」1期を見終わって
※前段
土居豊の文芸批評 アニメ・ラノベ編 米澤穂信原作のアニメ「小市民シリーズ」第1話をみて
https://note.com/doiyutaka/n/n6fd017f6c04e
アニメ『小市民』シリーズの魅力は、同じ米澤穂信原作のアニメ『氷菓』(京アニ)の古典部みたいに日常での推理に熱中したり、『涼宮ハルヒ』みたいに日常の中で謎の超常現象に振り回されたり、アニメ『響け!ユーフォニアム』や『けいおん!』みたいに高校生活が音楽三昧だったり、そういうのではない。逆に、そのような尋常ではない高校生活を、あえて回避しようと決心し「小市民」的な生活をしようとしながら、それでも宿命的に事件に巻き込まれてしまう男女高校生2人(1人は確信犯だが)の姿を巧みに描いたところにあるのだ。
第1話では、そのあたりが全く視聴者に伝わらなかっただろう。さらに第2話で、おそらく原作未読の人には「なんじゃこりゃ?」という感想だっただろうと思う。だが、2話の回はキャラ紹介、それと、前回のいちごタルトと自転車がトラブルにつながる予感をにおわせる伏線の回だった。
こういう、じわじわと伏線らしき描写が垣間見える展開は、ミステリー好きならいかにも好きそうな脚本だろう。
本作は、1話完結ではないことを忘れてはいけない。2話で、小佐内さんが小鳩くんを心配そうに見る目線に、二人の関係性がにおわされる。健吾くんと小鳩くんの関係も、この回で視聴者に伝わったはずだ。これらがのちに活きてくる。1話よりもさらに演出が繊細で、小佐内さんの表情がよく変わる。それに、あの特徴ある含み笑い。このおとなしそうな小佐内が、まさか…、というのが、このアニメ作品での最大の謎なのだ。
そうして、第3話でやっと小佐内ゆきの本性が明らかに。実に怖い。原作でのイメージより、かなり怖さが強調され、米澤穂信原作というよりむしろ、綾辻行人原作『Another』みたいな感じになっていた。かつて、ツィッターで流行った、「Anotherなら死んでた」のタグを復活させたくなる。
それにしても、アニメ版『小市民』の脚本の苦心は理解するが、このパターンで毎週1回視聴だと、原作未読の場合、話のつながりがわからなくなりそうな気がする。もし途中で話がわからない場合は、とりあえず1クール終わるのを待って、配信で一気見するのをお勧めしたい。
土居豊:作家・文芸ソムリエ。近刊 『司馬遼太郎『翔ぶが如く』読解 西郷隆盛という虚像』(関西学院大学出版会) https://www.amazon.co.jp/dp/4862832679/