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連載更新 「コロナ以後の読書〜村上春樹読書会と聖地巡礼」 第1部  ⒌ 「『ねじまき鳥クロニクル』を読んでノモンハンまで行った人もいた」


土居豊のエッセイ「コロナ以後の読書〜村上春樹読書会と聖地巡礼」
第1部
【コロナ前、村上春樹読書会で口角唾を飛ばしで議論し、大笑いしながら打ち上げの飲み会を楽しんだ】

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⒌ 「『ねじまき鳥クロニクル』を読んでノモンハンまで行った人もいた」


(1)『ねじまき鳥クロニクル』を読んでノモンハンまで行った人もいた

村上春樹のそれまでで最長の小説『ねじまき鳥クロニクル』(第1部〜3部)は、読書会に参加した人々の思い入れが深く、中には小説中に描かれたノモンハンの古戦場(中国・内蒙古)に実際に行かれた人もいて驚かされた。春樹自身は、作品を書いた後になって現地を初めて訪問したと紀行エッセイ『辺境・近境』で書いている。その中で、古戦場とはいえまだ戦争当時の遺品が散乱している様子が書かれていた。実際にその地を訪れた人の話では、現在は春樹の行った頃よりも交通事情が改善し史跡として記念館も整備されているという。
本作について筆者が読書会で解釈を語ったのは、タイトルの「ねじまき」のイメージだ。一般的にはゼンマイなどのねじを巻くイメージかもしれないが、筆者は英国の作曲家ベンジャミン・ブリテンが作曲した歌劇『ねじの回転』を連想した。ヘンリー・ジェイムズの原作小説の題は「ひとひねり効かせる」という意味だが、村上春樹の「ねじまき」もまた、ひとひねり、ふたひねりも効かせた小説をイメージさせるのではなかろうか。
この大作は読者を刺激するようで、読書会で出た意見の中には、なるほどと納得させられるものが多い。例えば、悪役ワタヤノボルが妹クミコを監禁するエピソードが、過去の監禁事件とリンクしてみえること。小説の構造が凝っていてRPG(ロールプレイングゲーム)やゲーム作品のような構成なのだが、これが書かれた当時としては時代を先取りしていたこと。登場人物の一人一人が傷を抱えている生き様に共感させられ、特に戦争の記憶が物語に大きく影響していること。「結局、ノモンハンの場面で描かれた戦争が最大の悪である」との意見に、参加者たちも頷いていた。この小説を読んでいる時、現実とのシンクロニシティー(共時性)を感じる読者も多い。ある人は、小説中に出て来る残忍なモンゴル人の描写を読みつつ、テレビではちょうどモンゴル人力士の話題でもちきりだったという。小説中のワタヤノボルを彷彿させる若い経済学者のテレビタレントが、よくコメンテーターとしてテレビに出ていたという指摘もあった。本作は他の春樹作品よりも強く現実世界とシンクロしがちなのだと、読書会参加者の体験談を通じて浮かび上がったのは実に興味深いことだった。


※村上春樹の小説と深い関係がある神宮球場

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※幼少期から春樹が父に連れられて野球を観に行っていた甲子園球場

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(2)土居豊による、読みの視点


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仮説《『1Q84』と『ねじまき鳥クロニクル』の人物相関関係はあるか?》


仮説その1
「両作は共通の時代を舞台としている(1984年)。ねじまき鳥の世界は、1Q84世界の別の分岐ではないか?」


仮説その2
「両作の登場人物は、別の分岐世界でそれぞれ、相関関係があるのではないか?」

仮説その2の検証

⒈ 共通の登場人物
(1)牛河
『ねじまき鳥クロニクル』では、綿谷ノボルの秘書(雑用係)で、先代の国会議員から生え抜きの部下。
『1Q84』では、弁護士崩れの調査員。

(2)赤坂ナツメグ=ベンツの女性=(老婦人?)
ナツメグ(ねじまき鳥)は、主人公・岡田亨を導く役割だが、外見上と、ベンツ(息子のシナモンの運転)に乗っている点が共通する。
ベンツの女性(1Q84)は、青豆の自殺未遂の場面に立会い、BOOK3での脱出行にも登場し、青豆の1Q84世界からの脱出に傍で関係する。

以下、主な人物の相関関係はほぼないのだが、役割設定での相関は仮説としてありうる。

⒉ 両作品の主要人物、相関仮説
『1Q84』(1984年 都内〜千葉)
『ねじまき鳥クロニクル』(1984年 都内、世田谷)
両作のキャラクター相関仮説

(1)ほぼ確実な相関関係
1)
ボリス(ねじまき)と、タマル(1Q84)
職業的殺人者

2)
綿谷ノボル(ねじまき)と深田保(1Q84)
牛河の使用主としての共通点、どちらも社会の暗部とつながりながら、表面上は象徴的存在

3)
岡田亨(ねじまき)と天吾(1Q84)
主人公として運命に振り回され、謎を探索する役回り

4)
岡田クミコ(ねじまき)と青豆(1Q84)
主人公が愛する相手。悲劇のヒロインとして、やむをえず殺人を行う役回りも共通する

5)
笠原メイ(ねじまき)と深田絵里子(1Q84)
霊媒少女、不思議ちゃんキャラ、事態のカギを握る存在としても共通する

6)
間宮中尉(ねじまき)と、天吾の父(1Q84)
中国大陸から謎の運命を持ち帰り、次代に受け渡す役割。帰還後は生きる屍のように生き永らえる点も共通する
(シナモンの父も同じグループに含まれる)

(2)やや曖昧な相関関係
1)
本田伍長と、戎野?
運命を操る黒幕として

2)
山本と、小松?
事態の裏で暗躍する役割

3)
加納マルタと、安田恭子=安達クミ?
主人公を側面からサポートし、運命に導く役割

6)
加納クレタと、深田絵里子?
霊媒として主人公と肉体的に交わる役

(3)相関関係が不明なキャラ
『1Q84』
中野あゆみ
老婦人

『ねじまき鳥』

岡田亨の叔父
ギター弾き
赤坂シナモン

ねじまき鳥


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土居豊:作家・文芸ソムリエ。近刊 『司馬遼太郎『翔ぶが如く』読解 西郷隆盛という虚像』(関西学院大学出版会) https://www.amazon.co.jp/dp/4862832679/